コラボレーションが今年の大きな課題

新年明けましておめでとうございます。

さて、今年の情報通信分野で注目すべきことは色々あるけれども、私は「コラボレーション」という言葉をそのひとつとして取り上げたい。コラボレーションという言葉は、何も最近突然さかんに使われるようになったわけではなく、ずっと以前から言われてきたことだが、ここでもう一度注目すべきものと考えている。

人と人とがコラボレーションするためには、昔は物理的に同じ場所に集まらなければならなかったが、それが技術の発展とともに、遠隔地にいてもコラボレーションが次々と可能になってきた。電話を使った電話会議、さらに発展して相手の顔を見ながらのビデオコンフェレンス。また、時間差はあっても、非同期に話し合いをする留守番電話。そして、コンピューターとネットワークの発展により、Eメールやグループウェアと呼ばれるシステムが出現し、コラボレーションが次第々々に広がってきた。しかし、それでもコラボレーションは、まだまだ不十分と考えている企業がほとんどだろう。

そんな中、最近になって、インターネットの世界では、数年前から始まった、いわゆるWeb2.0と言われる技術を使った、ブログやソーシャル・ネットワーキング(SNS)、Wikiなどによる「参加型」システムが個人を中心に急激に発展し、人々はいろいろな情報を共有するようになってきた。個人レベルの情報共有もコラボレーションの一つだが、私の注目しているのは、企業におけるコラボレーションである。この分野でも、Web2.0技術を使った企業におけるコラボレーション(Enterprise 2.0とも言われる)が、最近はじまっており、まだまだ試行段階の企業も多いが、今年はそれがさらに発展するだろう。

社内でのコラボレーションにこれらの技術を使うことにより、仕事に直接関係する情報を共有することにとどまらず、趣味その他による社内の人的ネットワークが広がり、間接的に社内コラボレーションに貢献する例もある。また、外部取引先とのコラボレーション、さらには直接誰か特定できない一般消費者相手にも、ブログやSNSによる企業と消費者のコラボレーションがはじまっており、例えばテレビ局なども、視聴者との重要なコラボレーション・ツールとして、このような技術を生かしている。

もっとも、これらの技術を使って外部の人達とコラボレーションするためには、セキュリティに注意しなければならない。会社のことや、会社の提供する製品やサービスについて、外部取引先や一般消費者と話すのはコラボレーションに必要なことだが、気をつけないと、外部に漏らすべきでない情報までも出て行ってしまいかねないからだ。

SNSにも通じる部分があるものに、仮想ワールド(Virtual World)がある。セカンドライフ(Second Life)は米国のみならず、日本でも日本版が開始され、大きな話題となっているが、これを単なる遊び的なものとして個人が使うのではなく、企業が社内コラボレーションや外部の取引先とのコラボレーションに使うという動きも、すでに出てきている。

具体例としては、IBMは社内ミーティングやコラボレーションにセカンドライフを使っており、Sam Palmisano社長自らが自分そっくりのavatar(仮想ワールド内で自分の分身となる仮想キャラクター)を作り、ミーティングに出席している。IBM以外でも、Apple、ネットワーク機器大手のCisco、ワークステーション大手のSunなども社内ミーティングや外部取引先とのミーティング、コラボレーションに仮想ワールドを使用している。

仮想ワールドの面白いところは、実際のミーティングのように、ミーティングが始まる前から人が集まり、いろいろ雑談する、また、ミーティングが終わったあとも、必要に応じていろいろと話をする、といった現実によくある光景が実現できることだ。専用の部屋に入って実施するビデオ・コンフェレンスでは、皆が集まった時点で相手側とネットワークをつなぎ、ミーティングが終了したらネットワークを切る、というやり方なので、ミーティングの前後に行われるインフォーマルな話し合いが出来ない。このようなインフォーマルなやりとりもコラボレーションの貴重な一部であることを考えると、仮想ワールドの有効性が一層増してくる。

コラボレーションの広がる可能性はさらにある。Web2.0という言葉からは見えにくいものの一つに、ネットワークのブロードバンド化がある。すでに企業内でのネットワークは高速化され、企業間を結ぶインターネットもどんどん高速化している。そのため、ビデオ情報のリアルタイム通信が、いよいよ現実のものとなってきた。これまでのコラボレーションというと、文字による情報共有、次に静止画情報の共有と進んできたが、リアルタイムのビデオ情報を共有することにより、そのレベルは格段に向上する。

いままでリアルタイムのビデオ情報共有というと、ビデオコンフェレンスということだったが、これはあらかじめ専用の部屋を用意し、そこに人が集まって決まった時間だけビデオ会議をやっていたものだ。しかし、これからは、自分のオフィスにいながら、パソコンに簡単なビデオカメラを取り付け、複数の人達と簡単にビデオでのやりとりが出来るようになる。

パソコン用ビデオカメラも簡単で安いものが多く出てきており、ノートパソコンやデスクトップ用のモニターにも、カメラ付きのものがどんどん出てきている。ビデオ画面の圧縮効率を向上させたMPEG4-H.264などの技術により、容易に高品質ビデオを取り扱うことが可能となっており、ネットワークの高速化と相まって、簡単なデスクトップ・ビデオ会議は、もはや十分手の届くものになってきた。こうなると、よほどのことがない限り、高価な専用の部屋を用意し、本格的なビデオコンフェレンスをすることはなくなってくるであろう。

企業におけるコラボレーションは、その企業にとって存亡にかかわる大きな課題である。そのため、これまでもいろいろと言われ続けてきたし、いろいろなものが利用されてきた。そして、これからもさらに新しい技術を使ったコラボレーションが広がり続けるだろう。ここに書いたように、新たな技術の発展により、企業におけるコラボレーションを、企業内、さらに取引先、顧客を含め、大きく広げるチャンスが、今ふたたび到来している。この機をうまく生かすことが、企業にとって、今年の大きな課題のひとつとなるだろう。

(01/01/2008)


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