新年明けましておめでとうございます。
昨年のこのコーナーはインターネットについての話が多かったが、今年もやはりインターネットの話から始めることにする。前回のレポートでも書いたとおり、インターネットは単なる数あるブームの中のひとつという訳ではなく、コンピューターや通信業界だけでなく、あらゆる業種の企業にそのビジネスのやり方を根本から変更させるほどの大きな影響をもつものだからである。
米国ではコンピューター・メーカーや通信関連の企業が昨年はインターネットの分野でどのようにビジネスを展開していくか、自社製品をインターネットとの関連でどう位置づけていくか、等のインターネット戦略を策定し、実行に移していった年であった。遅れていたマイクロソフトも12月はじめにようやくインターネット戦略を発表し、マイクロソフトもインターネットに本格的に対応する事を明らかにした。マイクロソフトがインターネット分野に本格的参入することがはっきりしたため、インターネットでは最先端を走っているネットスケープ社の株がマイクロソフトのインターネット戦略発表のその日には18%($28.75)も下がったのである。
変化の非常に早いインターネット分野であるから、一度策定した戦略も当然頻繁に見直し、修正を加える必要があるが、とりあえずそのベースとなる戦略はコンピューター、通信各社とも出来上がってきたといえる。
では、コンピューターや通信以外の業種ではどうか。各企業ともインターネット上にホームページを作成し、自社の紹介、自社製品の紹介等を既に展開している。さらに、インターネット上での製品の販売を実施したり、また、インターネットでのインタラクティブ・マーケティング、サポート・サービスへのインターネットの利用等、企業それぞれで格差はあるものの各分野にインターネットの利用を展開している。さらに、あまり表には出てこないが、企業内でのインターネット利用もかなり進んできている。まだ米国でも一般企業は試行錯誤の段階のところが多いが、早いところはインターネット戦略を策定し、次々と実行に移してきている。今年は残りの企業もぞくぞくとインターネット戦略を策定していく年となるであろう。
では、日本での状況はどうか。日本でもコンピューターや通信関連の企業ではそろそろインターネット戦略が策定されつつあるという段階である。しかし、動きの早いインターネット分野である。もし日本市場だけではなく、世界市場で勝負しようという事であれば、かなりの出遅れは否めない。まだ可能性のある分野をうまく選択し、大急ぎで追いかける必要があるだろう。
日本の一般企業はどうか。昨年12月に2週間ほど日本に出張する機会があり、色々な方とお話する機会があったが、その時の印象では、インターネットにそろそろ真剣に取り組まなければならないという空気はあるものの、インターネット戦略については、“これから”、“そろそろ”等の声が聞こえるだけで、実際のインターネット戦略策定はまだ始まっていない企業がほとんどのようであった。
インターネットはあらゆる企業のビジネスのやり方を変えるものである。そしてインターネットをいかに活用するかどうかは、企業の今後の業績に大きな影響を与え、その業界でのランキングを変える可能性も十分ある。従ってどれだけ早く自社のインターネット戦略を作り、実施に移すかはその企業の今後の競争力を大きく左右する。
そこで、ここでは一般向けのインターネット戦略策定の処方箋のイントロをご紹介してみたい。インターネット戦略の第一歩は、自社においてインターネットをどのようなものに利用するか、そのアプリケーションを明確化するところから始まる。
インターネットを利用して企業の業績を上げるためには、大きく2つの方法がある。ひとつは、その企業と外部との関係に関連した活動へのインターネットの利用である。英語でいうと“Inter-organizational”な活動ということになる。具体的には、その企業とその顧客(見込み客を含む)、取引業者、等とのコミュニケーションにインターネットを利用する事により、顧客や取引業者との関係強化をはかることが出来る。この中はさらに5つのアプリケーションに分かれる。
(1)コミュニケーション
(2)情報発信
(3)マーケティングとセールス
(4)カスタマー・サポート
(5)製品の流通チャンネル
コミュニケーションは電子メール、EDI(Electronic Data Interchange)-- ネットワークを利用した伝票、図画データ等のやりとり-- 等にインターネットを利用するものである。情報発信はインターネット経由による会社の一般情報、業績報告等である。マーケティングとセールスでの利用としては、製品/サービスの情報提供および広告、さらにはその販売(エレクトロニック・コマース)をインターネットで行う。カスタマー・サポートはヘルプデスク・サポートや、それぞれの企業固有のアプリケーション、例えばクーリエ・サービス会社のパッケージ・トラッキング・システム等へのインターネットの利用がある。インターネットはまた、実際の製品やサービスのデリバリー・チャンネルとしても、ディジタル化出来るものであれば、利用できる。例としては情報サービス、新聞、雑誌等があげられる。
これらのアプリケーションにより、インターネットは企業の業績向上に大きく貢献する。具体的には、次のようなメリットをインターネットは企業に与えてくれる。
・ターンアラウンド・タイムの大幅な改善
・最新情報の迅速な提供
・コストの大幅削減
・世界中の顧客との直結
・顧客からのフィードバックの迅速把握
自社のインターネット戦略を策定する上では、会社にとって効果(売り上げの増加、コストの削減)の大きいものから順にアプリケーションを選択していく事になる。
もうひとつのインターネット利用はインターネットの社内利用である。英語でいうと“Intra-organizational”な活動へのインターネットの利用である。これには次の3つのアプリケーションがある。
(1)情報の入手
(2)社内ネットワークとしての利用
(3)社内情報の共有
情報の入手については、インターネット上にある各企業の情報、政府の情報、技術情報、またインターネット上のニュース・グループを利用しての問題の事前把握、解決に利用する事等が上げられる。インターネットを社内ネットワークとして利用すれば、安価な長距離ネットワークとして、そして即座に接続可能なネットワークとして活用出来る。インターネットの技術はまた、マルチベンダー・システム環境での社内情報の共有、安価で使いやすいグループウェアの簡易版として利用することが出来る。特に、(2)、(3)は今、イントラネット(Intranet)という言葉で米国で大きな注目をあびている。
これらのインターネットの社内利用アプリケーションにより、インターネットは企業に次のようなメリットをもたらす。
・迅速な情報の収集と問題の解決
・コストの大幅削減
・ネットワークの即時利用
・マルチベンダー・システムの効率的活用
・ユーザーに使いやすいシステム
以上見てきたように、インターネットの利用は企業に直接的、または間接的に売り上げの向上、コストの削減、という形で具体的な業績向上をもたらす。実際に各企業がそのインターネット戦略を策定するときには、会社の業態、文化、業界での地位、顧客/取引先との関係等、あらゆるものを考慮に入れて、作り上げていく必要がある。
このようにインターネットの利用によって企業はその業績を大きく向上させることができるが、具体的に出来上がったインターネット戦略を実行に移し、そのシステムを作り上げていく時にはいくつかの重要な考慮が必要である。セキュリティーが大きな考慮点である事はいうまでもない。ネットワークのパフォーマンスや問題を管理するネットワーク管理をどうするかも、大きな課題である。また、具体的にどのような製品、ツールを利用してこのようなインターネットを利用したシステムを作り上げていくかも、システム構築の効率、およびその早さを改善する上で重要である。
インターネット戦略はインターネットを利用するアプリケーションの選択から始まり、その実行のための導入計画、そして実施と、かなりの期間とスタッフをかけ、また必要なら外部の支援を得て実施する必要がある。ただし、ここで注意しなければならないのは、インターネットはまだ開発途上の技術であり、すべての必要な製品やツール類がそろっている訳ではない。一方、世の中は非常に早く動いているので、インターネット技術の完成を待ってからインターネット戦略を策定するというのでは、競合他社に明らかに遅れをとってしまう。したがって、ある程度は試行錯誤しながらインターネット戦略を常に見直しつつ実施していくと言う姿勢も大切である。
1996年はインターネット戦略の策定、そして実行の年である。あなたの会社のインターネット戦略はもう出来ていますか?
(1/01/96)
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