例年、11月下旬のThanksgiving休日からはじまり、クリスマスまでの期間を、米国ではホリデー・シーズンと称し、小売業にとっては大きなかき入れ時である。インターネットを使ったe-コマースにしても同じである。
1月に入り、このホリデー・シーズンの売上を踏まえた、昨年第4四半期の企業業績結果が次々と発表された。その中で最も注目されたのは、インターネットが広がりはじめた当初、書籍販売からはじめ、その後幅広い商品をインターネット上で販売しているe-コマース大手のAmazon.comである。
CEOのJeffrey P. Bezos氏は、ここのところ市場から、Amazon.comはいつまで経っても赤字続きで、このビジネスモデルは失敗なのではないかと批判を浴び、株価も低迷していた。これに対し、Bezos氏は2001年第4四半期には利益を上げると宣言していたが、あまりそれを信じる人はいなかった。
ところが、ふたを開けてみると、1月22日の発表で、営業利益$15Million(一時コスト等を除いたPro formaベースでは$59Million)、経常利益でも$5Million(Pro formaベースでは$35Million)と、初めて四半期ベースで、利益を上げる発表をしたのである。これを1年前(2000年第4四半期)と比較すると、大きな業績回復がうかがえる。1年前は、営業利益が何と$322Millionの赤字(Pro formaベースでは$60Millionの赤字)、経常利益はさらにひどい$545Millionの赤字(Pro formaベースでは$90Millionの赤字)であった。
株価もこれを好感し、その日だけで24%も上昇した。この四半期黒字決算によって、Amazon.comは、彼らのビジネスモデルが利益を生むことができることを証明したといえる。
では、何がこの1年で変ったのか。売上も確かに上昇し、2001年第4四半期は、はじめて$1Billionを越え、$1.12Billionを記録している。ただ、2000年同期の数字である$0.97Billionと比べると、14.7%の伸びにとどまっており、飛躍的な売上の向上が黒字につながったという見方は当たらない。
実際、大きく貢献したのは、オペレーティング・コスト(Operating Expense)の大幅削減である。売上が上昇したにもかかわらず、コストは1年前の$546Millionから、$260Millionへと、半分以下に減少している。1年前の数字には、リストラ費用$164Million(2001年には$5Million)も含まれているので、このコスト減少がすべて日常オペレーションから来るものではないが、このリストラ費用を除いても、まだ$127Million、約33%減少したことになる。
これまでAmazon.comは、利益は二の次で、売上を拡大する路線を進んできたが、それを1年前に大きく変更し、利益を出すことに力を入れ、予定どおり1年でその目標を達成したことになる。売上も拡大するが、コストを売上に見合った額に押さえ、利益を出そうというわけである。つまり、基本に立ち戻る(Back to Basics)ことにより、四半期黒字を達成したわけである。
もう少しコスト削減の中身を見ると、例えば、Amazon.comの持つディストリビューション・センターにおける効率改善があげられる。これにより、売上が15%上がったにもかかわらず、オーダー処理にかかるコストは$22Million減少したと伝えられる。また、トラックによる出荷も効率化され、地域ごとにあった集荷場を経由せず、直接目的地の都市に送られるものが増加した。
黒字化に貢献したのはコスト削減が大きいが、Amazon.comは、売上向上と、粗利益を上げるための施策も実施した。具体的には、大手小売業者とのパートナーシップと、中古品マーケットプレースの構築である。前者では、日本にも進出しているトイザラス(Toys "R" Us)、廉価品販売のTarget、電化製品スーパーのCircuit Cityとのパートナーシップが上げられる。このパートナーシップでは、Amazon.comのウェブサイトを利用して、これら小売業者は商品を販売し、Amazon.comは商品流通と顧客サービスを担当して、応分のフィーを貰うという仕組みである。これにより、Amazon.comは昨年第4四半期に$225Millionの売上を計上し、このビジネスでの粗利益も通常の約2倍近い45%を得ている。
後者では、中古品等を第三者に販売させ、まだその売上は$38Millionと少ないが、粗利益は85%にも達していると言われる。これはオークション・サイトで有名なeBayのやっていることに似ており、今後Amazon.com とeBayが、この分野で競合する可能性がある。
さらに、まだ赤字ではあるが、海外部門の売上が1年前の$145Millionから$262Millionへと81%上昇したのも、今後に大きな期待が持てる。赤字も$10.6Millionと、黒字までもう一息のところに来ている。
このように明るいニュースの出てきたAmazon.comではあるが、暗いトンネルを完全に抜け出したというところまでは、まだ行かない。第4四半期はホリデー・シーズンだったので、売上も大きかったが、今年の第1四半期は、そのような売上高を望むことは出来ない。きっと今四半期は赤字になるだろう。また、累積赤字が$2.9Billion近くあるという状況も変りない。
しかし、Amazon.comが四半期の数字とは言え、黒字を出したということは、苦戦を続けるe-コマース業界にとって、大きな朗報である。同じ時期、インターネット・ポータル大手のYahooも、オンライン・セールスが86%前年に比べ伸びたと発表しており、e-コマースが本格的に使われはじめたことを示している。
e-コマース分野では、例えばペット用品を販売するサイトが100以上乱立するなど、過当競争が起こり、資金難に陥って市場から退場したベンチャー企業も多い。しかし、ここに来て、市場からの退場者もあった関係で、そろそろ需要と供給がマッチし、ここまで生きてこられた企業は、今後利益を、場合によっては大きな利益をあげることができる可能性が出てきた。嵐が去って市場に落ち着きが戻り(英語で言うdust settles)、これから安定成長期に向うことが期待される。
(02-2-1)
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