ライブドアという会社名は、プロ野球球団買収、新球団設立に名乗りをあげ、ニッポン放送株を時間外取引で大量購入し、フジテレビと強引に提携したことから、よくその名前を聞いた。しかし、一体もともと何をやって儲けている会社なのか、今ひとつ私にはわからなかったのだが、騒動発生後の報道を見ると、一応インターネット関連のビジネスはやっていたようだが、本業ではあまりパッとしていなかったようだ。どうりで情報通信の世界で仕事をしている私も、ほとんど知らない会社だったのが納得できた。
プロ野球の新球団設立では、楽天と争ったが、楽天はインターネットが広まった早い時期からインターネット上のEコマースサイトとして有名だったのとは、大きな違いがある。ライブドア騒動で、一時IT関連株が下がったり、ITの将来を不安視する向きもあったようだが、全くの筋違いである。そもそもライブドアは、たまたま本業としてIT系のことをやっていたかもしれないが、その急成長の原動力は、IT関連事業ではなく、数字を操作した上での、企業買収によるマネーゲームに過ぎなかったわけだから。
それにしても、この無名で本業の儲けもまともに出せなかった会社が10年でマネーゲームの末、一時は時価総額7000億円までになったのだから、大変なことである。裏で数字を工作して会社の業績をよく見せていたという大きな問題があったにせよ、それによって、ここまで強大になってしまうのは、とても恐ろしい限りである。
数字を操作しなかったら、どこまでこの会社の時価総額が伸びていたのか、いなかったのかを想像するのは難しいが、ライブドアの使った手段のうち、法に触れないものもあり、その効果もかなり大きかったというのも、今後のために考える必要がある。
たとえば、ライブドアは、株式分割を繰り返すことにより、ひと株当たりの株価を大幅に下げ、これによって一般投資家にもライブドア株を買いやすくした。これにホリエモンのテレビ等への出演によるライブドアという名前の知名度の高さにより、株価を吊り上げる演出を行った。株式分割をすれば、ライブドア株が買いやすい価格になり、その株を購入する人がたくさん出るだろうという予測のもと、実際の株式分割が行われる前から、ライブドアの株価が大幅に上がったようだ。
これだけを見ると、そこに違法性はなく、マネーゲームで儲けようとしているライブドアのシナリオに乗っかって、投資家もマネーゲームで儲けようとしたことは明らかだ。ライブドアも、投資家も、(ここだけ見ると)ともに合法的な手段によって金儲けしているので、異常なことであるという気はするが、それを止めることはできない。この問題の影響を小さくするという意味で、株式分割の限度を最高5対1に抑えるようになったのは、多少なりとも役に立つだろう。何しろ、ライブドアの真似をして、なんと1000対1(ライブドアは100対1)という株式分割を行った会社もあるわけだから。
上のような状態を、会社の経営実態情報開示によって防止しようというのが、上場企業の財務報告を正しく行わせ、それをチェックする動きだ。ホリエモンの知名度と、株式分割による株式魅力度向上は防ぐことは出来ないが、そこに正しい財務報告がなされ、経営の実態が明らかになっていれば、少なくとも株価を上げる動きが、経営実態とかけ離れた、マネーゲームによる投機的な動きであるということが読み取れる。それがきちっと見えれば、しかるべき証券アナリストなどは、ライブドア株を「買い」ではなく、「売り」を勧めるだろう。それを見て、一般投資家も、もう少し冷静な判断が出来たと考えられる。
米国でもEnronやWorldcomの事件があってから、SOX法(Sarbanes-Oxley法)というものが出来、財務報告に会社のCEO(最高経営責任者)が責任を持ち、もし間違いがあればCEO自らが罰せられる。また、故意、過失を含め、財務報告に誤りが起こらないよう、内部統制を行う必要があり、決算報告にはこの内部統制報告書をつけることになった。また、この内部統制報告書は監査法人がチェックし、承認する必要がある。
米国の上場企業は、2004年末の決算報告からこのような義務が課せられ、そのための準備に大手企業では何十億円というお金をかけてきた。米国の証券市場に上場している外国企業も、今年7月以降の決算から、他の米国企業と同じ報告を行う必要がある。このため、日本企業でも、米国証券取引所に上場している企業は、すでにかなりの作業を行っているだろうし、3月決算の企業で言えば、2007年3月決算からこのような報告を行う必要があるので、今、大変な作業の真っ只中であろう。
日本でも、ライブドア騒動を待つまでもなく、カネボウの粉飾決算事件等の問題もあり、日本版SOX法構築の機運が高まっている。今国会で証券取引法改正案が提出され、審議中と聞いている。これが通過すれば、2008年3月決算から実施されることになるはずだ。
小泉政権の行政改革、規制緩和の動きにより、証券市場も自由度が増し、ベンチャーの創業や、外国から日本への投資意欲も大いに盛り上がり、その結果、東京証券取引所の平均株価もどんどん上がってきたし、景気も回復してきた。しかし、行政改革、規制緩和は是非継続してもらいたいが、それに伴って必要となる日本版SOX法のような法的な整備を行わないと、外国の投資家や、日本の一般投資家から、再び東京証券取引所が敬遠されかねない。また、法的な整備に加え、法を守っているかどうかをチェックする体制作りも大切である。米国のSEC(Securities and Exchange Commission―証券取引委員会)が3,865人のスタッフを要するのに対し、日本の証券取引等監視委員会は、わずか307人体制というのでは、とても米国レベルの監視はできない。新しい時代の法整備とそれを遵守させる体制作りが欠かすことができないことを、ライブドア騒動が証明してくれている。
(02/01/2006)
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