まず、どういう会社がどういう会社を買収しようとしているかを確認してみよう。Microsoftは、ご存知のとおり、パソコンのOS、Office、サーバー・ソフトウェア等で圧倒的な強みを持っているが、ウェブ関連では十分その力を発揮していない。特にオンライン収入は28億ドルと、Googleの117億ドル、Yahooの51億ドルに比べ、かなり見劣りする。すでにオンライン・ビジネスを開始してからかなり時間が経つが、このような状況で、このままではGoogleに追いつけない、という危機感がある。
一方、Yahooはインターネットが始まった頃からの老舗サイトだが、最近は後発のGoogleに押され気味だ。特にオンライン広告収入では、Googleの半分以下に甘んじており、サーチの利用では、市場シェアがGoogleの62.4%に対し、12.8%と、大差をつけられてしまっている。新たな戦略を求められているが、なかなか見出せずにいる。その結果、最近の株価は低迷、株主もいらだっており、優秀な社員が次々に退職するなどの問題も起こっている。それでも老舗としての看板の強みはあり、Eメールでは、毎月181億viewと、Microsoftの72億view、Googleの45億viewを大きく引き離しているし、そのブランド力は、インターネットの世界でまだまだ捨てがたいものがある。
さて、この買収が是か非か、に対する答は、当然、どのような立場に立って考えるかによって変わる。まずYahoo側から見てみよう。Yahooにとってこの買収がどういう意味を持つかと言っても、買収が成立した場合には、Yahooは存在しなくなってしまうので、Yahooの株主、社員、ユーザーについて考えてみたい。Yahooの株主にとっては、少なくとも短期的な見方をすれば、願ってもない話だ。最近のYahooは株価が低迷し、CEOが昨年、創業者のJerry Yangに交代したが、相変わらず明確な戦略が出せず、苦悩している状態であるから、現在の株価より62%高い金額での買収に、株主で喜んでいる人は少なくないだろう。
特に、Microsoftの買収が発表される数日前に、Yahooは1,000人規模のレイオフも発表しており、株主としては、Yahooの将来に疑問を持ち始めた、絶好のタイミングだった。もちろん長期的にYahooの成功を信じている株主もいるだろうが、ここはまず短期的に利益を確保してもいいと考えても不思議はない。
一方、Yahooの社員にとっても、社員が株主であったり、株式オプションを持っている場合が多いので、そういう意味では悪い話ではない。もうそろそろYahooでの仕事も潮時と考えているような社員には、渡りに船で、高くなった株を売って退職し、別な会社に仕事を求める、ということも考えられる。ただ、Microsoftに残って仕事をすることを考えた場合は、あまり歓迎すべき買収ではないかもしれない。そもそもYahooはシリコンバレーのカルチャーであり、Microsoftは、今や大きな安定した会社で、いわゆるシリコンバレーのベンチャー的カルチャーではない。したがって、いままでのYahoo流での仕事をやらせてもらえるかどうかは、大いに疑問だからだ。
最後に、Yahooのユーザーから見た場合、この買収はどのように感じられるだろうか。私もユーザーの一人だが、Microsoftのソフトウェアはいろいろ使っているものの、インターネットのことは、Microsoftではなく、YahooやGoogleを使いたい、という気持ちがある。これが多くの人の思うところかどうかは、よくわからないが、決して私一人だけというものではないだろう。そういう意味では、YahooがMicrosoftに吸収されてしまうのは、単純に残念だし、寂しい。また、競争が少なくなるのも、いいとは思えない。Microsoftは、この点について、逆にMicrosoftとYahooが一緒になって、はじめてGoogleと競争が出来る、という言い方をしているが、ユーザーはあまりそのようには思わないだろう。
さて、買収を仕掛ける側のMicrosoftはどうだろうか。Microsoftは、買収の理由を、現在のままではオンライン広告分野でGoogleに対抗できない、そのためにYahooと組むのが最善と述べている。また、Yahooと組むことにより、お互いの事業でオーバーラップするものについては統一していくので、10億ドル程度の大幅なコスト削減も実現できるとしている。
もし、これがMicrosoftの本音だとしたら、これはほとんど意味のない、高価な買収だと私は思う。なぜなら、2つのうまく行っていない会社の事業を一緒にしても、先頭を走るGoogleに追いつく事業にはならないと思うからだ。特にサーチをベースとしたオンライン広告ビジネスについては、2位、3位連合で大きめの2位の会社になっても、まだGoogleに追いついておらず、特別な強みを持つとも思えない。
コスト削減は、確かにレイオフ等で実現できるかもしれないが、Yahooの優秀な人材の多くは高くなった株価で株を売り、やめていくだろう。そういう意味で、Microsoftにとっても、決してメリットのある話ではない、というのが私の感想だ。
ただ、以下のように考えれば、MicrosoftのYahoo買収に意味が出てくる。それは、現在、確かにGoogleがオンライン広告でトップを走っているが、私の理解では、その多くは、サーチをベースとした、小額の3行広告によるものだ。しかし、これからのオンライン広告の大きなお金は、その延長線上ではなく、今後本格化するビデオコンテンツに付随する広告だ、というのが私の見方だ。
すでに米国の大手テレビ局は夜の主な時間帯の番組をインターネット上に載せて無料配信している。これに日本ですでに始まろうとしているNGNのような高速ネットワーク・インフラが整ってきたらどうなるか。人々は、インターネットで、見たいテレビ番組を、決まった時間ではなく、好きなときに見れるようになる。ビデオ録画を予約する必要もない。そうなったとき、このような番組に対する広告費は、今、Googleがサーチ結果をもとにした3行広告から得ている小さな金額とは桁が違う大きなものとなる。
では、このような広告収入はどこが得ることになるか。もちろんテレビ局は自社のインターネットサイトでそれを実現しようとするだろうが、Yahooのようなポータルサイト経由になることも十分考えられる。そうなったときは、インターネットでのYahooブランドは、Microsoftのそれよりもはるかに大きい。もしMicrosoftがここまで考え、Yahooを買収したのちもYahooブランドをそのまま残し、Microsoftのインターネット関連事業はすべてYahooブランドに組み込む、ということであれば、この買収が成功する可能性はあるように思う。ただし、YahooをあくまでもいままでのYahooのように運営し、優秀な人材がやめていかないようにできることが前提だ。
さて、私がYahooのJerry Yang CEOだったら、どのように考えるだろうか。私が最後に書いたように、Yahooとして、そのブランド力を生かし、これからのビデオコンテンツ流通に関連したオンライン広告でトップに立つことは、十分可能だと思う。しかし、それが現実になるまでには、まだ時間がかかる。それまで株主が株価低迷を許してくれるかどうか、大いに疑問だ。
ならばどうする。私だったら、多少の買収金額値上げのための抵抗はしても、最後は買収に応じ、さっさとYahooをやめて(と言っても、契約でしばらくは縛られるかもしれないが)、全く別なことをやることを考える。今や地球温暖化問題は深刻で、早く手を打っていかないと地球の将来にかかわる問題となりかねない。だったらMicrosoftに買収されて得たお金を元に、地球温暖化対策のためのFoundationを作り、そのお金を運営していく、というのはどうだろうか? このほうがYahooを存続させるより、ずっと大きな仕事のように思うが、さて、ご本人はどのように考えるだろうか?
(02/01/2008)
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