カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM:Customer Relationship Management)という言葉が使われはじめてしばらく経つ。私のこのコラムでも、何度かこれについて書いたような気がしていたが、過去のレポートを振り返ってみると、3年ほど前に書いたきりのようである。その当時は、CRMという言葉が出始めてまもなくの頃であった。それまで、ヘルプデスク・ソフトウェアという、顧客からの製品や技術的なことに関する質問に効率よく対応するための機能を色々含んでいるものと、これとは別に、セールス・フォース・オートメーション(SFA)と呼ばれる、セールスマンの活動を色々な面で支援するためのソフトウェア群があり、これらを統合するものとしてCRMが現れてきた。
CRMは今までの電話ベースによるコールセンターにも大きな影響を与えてきた。CTI(Computer Telephony Integration)、そしてインターネットと組み合わせ、電話だけでなく、インターネットによる問い合わせなども組み合わせ、コールセンターという呼び名も、カスタマー・コンタクト・センターなどと呼ばれることが多くなってきた。
このように発展してきたCRMがさらに進化してきている。その一つの動きがCRMをもとにした最適価格決定である。これは、CRMによって蓄積したあらゆる情報を駆使し、利益を最大限にするための価格決定をしようというものである。
例えば、米国のある食品スーパーマーケットでは、ある商品に対して、その日の需要予測、在庫量、関連商品のセールの有無などにより、利益が最大になるように商品の価格決定を行っている。
また、CRMの特徴である個別マーケティングの手法を取り入れ、さらに詳細な価格決定方法をとっているところもある。ある荷物輸送会社では、大量の荷物を運ぶ案件の価格提案に、以前は10日もかかっていたものを、その顧客の目の前で、その顧客に関するデータベース情報をもとに、どれくらいの割引値段を出すか、即座に決めるというシステムを導入している。
ラスベガスを含むいくつかの地域でホテルチェーンを運用しているある企業は、さらに細かなCRMを行っている。ここでは、登録されているお客についてのあらゆる情報をデータベースに入れており、その人のギャンブル特性なども、当然含まれている。これらのデータをもとに、お客を数十のセグメントにまず分類する。その上で、その人からホテルへの予約が入った場合、その日の予約状況を含めてCRMで分析し、ホテルにとっての最適価格をはじき出そうという訳である。
このような予約がインターネットで入ってきたときは勿論のこと、電話で入ってきた場合でも、カスタマー・コンタクト・センターのオペレーターが画面で即座にその情報を把握し、適切な価格をお客に知らせることが出来る仕組みになっている。実は、ある知り合いがラスベガスに泊まるときに、いつもいい部屋が、しかも無料で予約できると言っていたが、裏ではこのようなCRMシステムが働いており、ホテルにとっては無料で泊めても儲かるいいお客、ということだったのであろう。
CRMのもう一つの進化は、セルフサービスCRMの流れである。CRMによって顧客をうまく管理し、利益を最大限にすることをねらう企業は、CRMを利用するコスト面にも注目している。CRMでデータベースに入っている情報を分析し、お客のために最適なサービスを提供するのはよいが、それを人手を介していると、その人件費はばかにならない。そこで、出来るだけ人手を使わずにお客にセルフサービスしてもらおうということである。
これには、電話によって来るお客に対応するものと、インターネットによって来るお客への対応があり、それぞれシステムとしては大きく異なるが、セルフサービスという点では共通している。電話によるものは、以前から、Interactive Voice Response(IVR)というものが存在し、ある程度普及している。これは、電話をかけたときに相手がテープでメニューを読み上げ、それに合わせて番号を選んで必要な情報を得るようなものである。銀行や証券会社などで、口座の残高を聞くような場合によく使われている。
ただし、このIVRシステムは、うまく設計されていないと、袋小路に陥ったり、分からなくなってしまったり、目的にたどり着くまでに時間がかかったりと、評判が悪い場合も多い。そこでここ数年、音声認識を利用し、ボタンではなく、口頭でやりとりが出来るものがいろいろと出てきている。さらに最近は音声認識に自然言語処理を加え、自然な話し方で問い合わせが出来るのもの出始めている。本格的なシステムの普及には、まだ技術のさらなる進歩が必要と思われるが、分野を限定すれば、使えるものが次第に増えてきている。
インターネットを使ったものは、そもそもセルフサービスが基本であるから、それを出来るだけ使い易くすることが重要となる。情報の検索という意味では、入り口のポータルを分かり易くする、キーワードやルールベースのサーチエンジンでいいものを使う、などが上げられる。また、E-メールによる問い合わせに対する人手を介さない自動応答システムなども分野を絞り、標準的な質問に対しては有効である。
インターネットの場合は、セルフサービスが基本である代わりに、逆にそのセルフサービスの不足する部分を人手を介してサポートするという動きもある。インターネットで自分でいろいろ調べたが、どうしてもわからないから、その場で担当者と話をしたいという経験を持つ人も多いのではないだろうか。そのようなときに、画面上のボタンを一つ押すと先方のオペレーターが電話をかけてくれ、一緒に画面を見ながら相談に応じてくれるというシステムは便利である。また、音声でなくても、インターネット上で、リアルタイムにチャットでやりとりすることにより、問題解決することも出来る。このように、セルフサービスCRMにはいろいろなタイプがあり、それぞれ長所短所があるが、うまく生かせば企業にとってもユーザーにとっても大変有効なものである。
インターネット革命によって雨後の竹の子のように出現したたくさんのベンチャー企業は、その後の株式相場の大幅下落と投資減退により、多くのものが苦戦したり撤退を余儀なくされたが、既存企業のインターネット利用は活発になるばかりである。CRMの進化も、その一つの証明である。
(02-3-1)
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