ストレージ需要が急増しているには、いくつかの理由がある。ひとつは、データの種類が、テキストからイメージ(静止画)、そしてビデオコンテンツへと広がってきたことがある。テキスト1ページ分のデータ量は、10KB(10,000バイト)程度あれば足りる場合が多いが、それに比べ、イメージのそれは、データの内容、圧縮方法等により幅はあるが、およそ数十倍から百倍になる。これがビデオコンテンツになると、1分間でさらにイメージ1枚の百倍以上にもなってしまう。これは自宅のパソコンを考えても、単にテキスト情報をディスクに入れていたのが、デジタルカメラで撮ったイメージを入れると突然急増し、さらにビデオコンテンツをダウンロードしたりすると、またさらに急増するので、これを経験している人も多いだろう。
会社におけるストレージ・データでも、業種によってはイメージやビデオコンテンツが増えるところがあるに違いない。しかし、それ以外にも、会社でストレージ需要が増える理由はある。そのひとつは、最近大きな話題となっている、コンプライアンスの問題である。米国では会社の財務報告が正しく行われているか確認するため、社内での内部統制(コントロール)がどのように行われているかを報告する義務を課したSOX法が施行され、それに対するコンプライアンス最初の年が昨年となる会社が多かった。企業は正しいコントロールがされていることを証明するため、情報をストレージに記録して残しておく必要がある。たとえば、会社のEメールすべてのアーカイブをとっておくことなどは、その一つである。
ストレージ技術は年々大きく進歩しており、ハードディスクの物理的な大きさの面でも、小さなディスク・スペースでより大きなデータ量を記憶できるようになってきている。私が今使っているノートパソコンでは、ユーザーが使える部分だけでも50GB(50,000,000,000バイト)以上ある。この前に使っていたノートパソコンでは、10GBだった。その前のものは1GB あったか、なかったかだ。このようにディスク容量はどんどん増えているが、それにつれて、ノートパソコンの大きさが大きくなってきているわけではない。
もっと昔にさかのぼると、私が初めてメーンフレーム・コンピューターに触れたのは、もう30年以上前になるが、そのときは、取り外し可能なディスクで、重さが10Kgくらいもあり、直径50cmほどで高さも20cm近いのものが、100MB(100,000,000バイト)程度しかなかった。随分と技術が進歩したものである。また、その価格もどんどん下がっているが、年率60%もの需要急増をカバーできるほど、価格が下がってきてはいない。
そこで、企業およびストレージ・システム・メーカーは、この急増するストレージ需要にいろいろな方法で対応しようとしている。まず、ストレージをそれぞれのサーバーに直接接続しておくのではなく、一ヶ所にまとめて効率よく使うため、SAN(Storage Area Network)やNAS(Network Attached Storage)が、すでに何年も前から使用されている。これに最近、ストレージをより効率的に使用するため、さらにいろいろなストレージ技術が採用されてきている。
そのひとつに、ストレージをその使われ方に応じて階層化した、ティアード・ストレージ(Tiered Storage)がある。米国大手企業では、50%以上がこれをすでに導入している。これは、最も重要でアクセス頻度も高く、レスポンスタイムも極めて速いものを要求されるものを、まずティア1(Tier1)とする。たとえば、銀行のオンライン・トランザクション処理に使うようなストレージがこれにあたる。
次は、やはりオンラインで使うデータだけれども、ティア1ほどのアクセス頻度やレスポンスの速さを要求しないものや、アクセス頻度は少ないが、必要となったときに、簡単に比較的速くデータが検索可能な必要があるものを、ティア2とする。たとえば、オフィスワーカーが通常使うための共通ファイル、ディスクの(ディスク上に取る)バックアップ・ファイルや、Eメールのアーカイブなどがこれにあたる。これらは、テープにとっておくことも可能であるが、それだと検索が必要になったときにかなり時間がかかるので、それよりは便利に使えるようにしておきたいデータである。そして、3番目はテープにとって、どこか安全なところに保管しておくようなデータである。
今は3つのティアに分けたが、その会社、その会社のニーズによって、4つのティア、あるいは5つのティアで考えることも可能である。そして、重要なのは、それぞれのティアに合わせたコスト・パフォーマンスを提供するストレージを使用することである。また、これらのティアをうまく利用することが出来るようにするストレージ・マネジメント・システムも必要となる。その中の一つとして、Information Lifecycle Management (ILM)というものがある。
これは、簡単に言うと、このような異なる階層に分かれたデータを、うまく自動的に一つの階層から次の階層に移動させるものである。この階層化されたストレージを人間がすべてコントロールするのは、とてつもなく大変なので、「自動化」が大きなキーワードである。
また、ストレージの階層化と合わせ、あるいは単独で使ってストレージの使用効率を高めるストレージ技術に、バーチャル(仮想)ストレージがある。すでにコンピューター・システムのバーチャル化は以前から行われていることだが、このコンセプトをストレージにも持ち込んだわけだ。これによって、どのディスクのどこにデータが実際記憶されているかにかかわらず、データをロジカルに記憶できるので、ストレージ利用の効率化をはかることができる。まだ市場では十分技術が成熟していないとの声もあるが、これも次第に広まっていくことは、間違いない。
ストレージは、コンピューター市場でもそれほど目立った注目される製品ではなかったが、ここにきて、その重要度は急激に増している。企業のデータセンターでのストレージ、家庭のパソコンでのストレージ、そして今やテレビを録画するストレージも、ビデオテープからディスク・ストレージに変わってきた。家庭でのストレージ需要も、デジタル写真やビデオなど、これからどんどんその必要性が増してくるだろう。ストレージ技術の発展に、今後とも目が離せない。
(03/01/2006)
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