そんな中で、グリーン・エネルギー問題もインターネット流で解決できる、と言っている人がいる。その人の名は、Bob Metcalfe。インターネットそのものではないが、それにも深くかかわりのある、Local Area Network(LAN:構内ネットワーク)の標準となっているEthernetプロトコルの生みの親と言われる人だ。もともとXerox社のPARC(Palo Alto Research Center)で開発し、それを製品化するために3Com社(Computer、Communication、Compatibilityという言葉から命名した)を創設し、その後情報通信関連の出版事業にも携わり、現在はベンチャー・キャピタルのパートナーとなっている。
彼はネットワークに関する興味深いことを、これまでいろいろと言っており、その中で有名なのは、Metcalfe's Law と言われるものだ。どういうものかというと、聞いたことのある人も多いかもしれないが、ネットワークの価値というものは、それを使う人の数の2乗に比例する、というものだ。ネットワークがあっても、たとえば、そのユーザーが2人だけだと、一人と通信する価値しかない。1000人だとすると、999人と通信する価値が生じ、そういう人間が1000人いるわけだから、ネットワークの価値は1000 x 999つまり、およそ1000の2乗ということになる。
このMetcalfe's Lawは、インターネットでも大いに有効な考え方だ。インターネットが広がり始めた頃は、ユーザー数も少なく、使っていてもその価値はそれほど高くなかったが、その人数が数百万人、数千万人、数億人と増えるに従い、その価値がユーザー数の2乗に比例するほど高くなってきているのは、実感できるところだ。最近流行りのFacebookやMyspace、日本でのMixiなどのSocial Networking Service(SNS)にしても同じことが言える。古くは、電話についても同じことが言えた。ただ、本人も言っているように、これは、何か科学的に証明できるようなものではない。そもそもネットワークによって得られる価値というものを数値化するのは、極めて難しいからだ。しかし、感覚的とはいえ、ネットワークの価値とユーザー数の関係をうまく言いえていることは間違いない。
さて、このような、ネットワーク、インターネット的な考え方を、グリーン・エネルギー問題にも適応できると彼は主張している。ただし、グリーン・エネルギーに関するMetcalfe's Lawは何かという質問には、まだ答えが見つかっていない、という状況だ。まず、最初に主張しているのは、技術的な話ではなく、グリーン・エネルギー問題に対する対処の仕方だ。
これまで、エネルギー問題は、既存の電力・ガス、石油関連企業等が牛耳っており、彼らは今のビジネスモデルが儲かっているから、それを続けようとし、政府に対しても、そのような働きかけをする。カーター大統領時代に石油危機が起こり、米国でも石油依存から脱却する必要があるという議論が起こり、1977年に政府内にエネルギー省(Department of Energy)が作られ、現在その予算は230億ドルにもなるが、それから30年余り経つが、一体どこまで石油依存から脱却出来たのか、というのが彼の苦言だ。
そこで、第一の主張は、ともかく政府や独占的な既存企業等、競争の少ない中にいる人たちに頼るのではなく、インターネットがそうであったように、ベンチャー企業、大学、ベンチャーキャピタル等が力を合わせ、競争の中で新しいものを作っていくべきだというものだ。ただし、インターネットのときも、そのもととなったARPANETは政府の資金で研究開発されたものであり、そのような政府による資金援助は必要だとも言っている。あくまでもその資金が政府や既存企業に行かず、大学等の研究に行き、その中からベンチャーが育ってくる必要性を述べている。
新しいグリーン・エネルギーの発展には、上のようなベンチャーを中心とした研究開発が必要なわけだが、出来たエネルギーをどう配電するか、ということになると、これはまさしくネットワークの問題になる。現在のコンピューターのネットワーク・システムでは、分散型(distributed network)が主流で、たくさんの場所に情報の発信源があり、それらがネットワーク全体に伝わっていく。インターネットは、まさしくその最たるものだ。ところが、今の既存エネルギー会社に話をもっていくと、同じように「distribute」という言葉は使うものの、その実態は全く異なり、巨大な発電所を作ってそこからエネルギーをdistribute(配電)する、という話になってしまい、巨大投資がいるし、それは、既存大手エネルギー会社しかできない、という話になってしまう。
そうではなく、例えば、小規模ながらたくさんのソーラーシステム等を使ったグリーン・エネルギー発電を数多くのところで実施し、それを配電のネットワークをうまく使ってシェアすることができるのではないか、ということだ。これはまさしく、インターネットで起こっている、個人個人のパソコンの能力をお互いにシェアしながら通信するPeer-to-peerネットワーク・モデルに類似したものとなる。Internet、Ethernetのように言うと、Enernet(Energy network)ということになる。
具体的なグリーン・エネルギー発電の話というわけではないが、確かにベンチャー企業を使った、いわゆるシリコンバレー・モデルを使って新しい技術や製品を開発し、巨大な発電所ではない、少ない投資で実現可能なたくさんのグリーン・エネルギー発電の基地を作り、それらをインターネットのような網の目のネットワークで結びつけて効率よく使う、ということも概念的には十分理解できるし、追求してみる価値があるように思う。1969年にはじまったインターネットがここまで来るのに40年。グリーン・エネルギーについても、その解決のためにこれから長い時間がかかるだろうが、インターネット流が、この人類の将来にとって大事な問題解決に対し、いいヒントを与えてくれているのかもしれない。
(3/01/2009)
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