戦争と技術の発展

3月20日、とうとう米国を中心とする数ヶ国によるイラク攻撃が始まった。国連の決議もなく始めた戦争に、世界中から大きな批判が集まっている。私もこのブッシュの戦争は全く身勝手なものにしか思えない。米国では過半数の人が賛成しているという調査結果も出ているが、本当だろうかと疑いたくなる。私の周りのアメリカ人と話をしても、皆反対しているからだ。最も私の住んでいるカリフォルニア州は、調査結果でも他州に比べると戦争反対者が多いので、そうなのかもしれない。しかし、少なくともしばらく前までは、戦争反対を唱えることは愛国心が足りない(日本で言えば非国民?)という空気が米国内では強く、そのせいでこのような調査結果になったのではないかとも思う。

さて、戦争に反対か賛成かは別にして、この戦争を見ると、昔の戦争とは随分違った戦争をやっている。例えば、海に浮かぶ戦艦から、クルーズ・ミサイルを何百キロも離れた目標に命中させようとしている。それも敵のレーダーに感知されないように、低い高度で山なども上手く越えながら。まさにハイテクを駆使した戦争である。

残念ながらそういうものだけでは済まず、その後地上戦に入っているので、これから軍人だけでなく、民間人の犠牲者も増えてしまうであろうが、もしこのクルーズ・ミサイルでフセイン大統領を倒していれば、ほとんど実際の戦闘をしなくても戦争が終わっていたことになる。こうなっていれば、高度な技術により、単に敵を負かすということだけではなく、最小の犠牲者で戦争を終わらすことが出来たわけだ。

戦争はやるべきではないと思うが、始まってしまった以上、できるだけ早く、最小限の犠牲で終わってほしいものである。そのために高度な技術が有効であれば、最大限に活用すべきであろう。

米国では高度な技術開発がたくさん行われ、新しい技術を使っていろいろなことが可能になってくる。しかし、それらの技術の元を辿って見ると、軍事関連や宇宙開発関連の研究開発から始まったものが多いことに気が付く。

シリコンバレーで新しい技術をベースにしたベンチャー企業が次々に起こり、新たな産業を作り出しているが、もとはといえば、軍事や宇宙開発のために国の予算で大学、国立研究所、あるいは私の会社の親会社であるSRIインターナショナルのような民間研究機関が長年研究していたものが多い。

軍事関連といっても、例として出したクルーズ・ミサイルのような直接の武器でなくても、ネットワークやコンピューター関連の技術なども多い。SRIインターナショナルとカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)間での初めての接続実験から始まった、インターネットのもととなったARPANETが、米国国防総省下のARPA(Advanced Research Projects Agency)からの予算で作られたものだということを知っている人も多いであろう。

これ以外でも、例えば、これから携帯電話機にどんどん搭載される予定の位置情報を知らせるGlobal Positioning System(GPS)、ジェットエンジン、レーダー、原子力発電など、数え上げればたくさんある。

軍事以外で、もう一つ重要な役割を果たしているものに宇宙開発がある。宇宙開発関連から出てきたものとしては、コードレス電話、サランラップ、アルミフォイル、スモークディテクターなど、これもたくさんの例がある。

米国では、国の予算による研究開発が、民間でのビジネスで使えるようにするための、法的措置もとられている。1980年に施行されたBayh-Dole法で、国の予算で研究開発した成果のパテントやライセンス権を、大学等、研究開発に携わった組織が保持できるようにした。実際、1980年頃を境に、米国の大学が取得したパテントは大きく伸びており、1979年の264から、1984年には551、1999年には3340(1980年以前の総計が3048)まで伸びている。また1980年以降に大学から発生したベンチャー企業は2,200を越える。

戦争はできる限りやらないでほしいが、一方で、このような技術の発展のためには、戦争にそなえるための技術開発は継続してほしいという気がする。宇宙開発も同じで、イラク戦争が始まる少し前に起こった、シャトル・コロンビアの事故で、宇宙開発を今後も継続すべきかどうかという議論もあるが、科学技術の発展という観点からは、是非継続してもらいたいと思う。

民間企業は日々のビジネスに追われ、四半期ごとの業績で株価が大きく変動するため、結果がなかなか見えない長期的な研究開発があまり出来ないのが現状である。単に米国のためという話ではなく、世界の人々のために、このような科学技術振興予算は継続してもらいたいものである。

日本でも、軍事や宇宙開発にはそれほどお金をかけないとしても、何らかの形で、特に情報通信については、政府による研究開発支援が、今後10年、20年先の日本の発展のために必須である。それに加え、そのような政府の資金で研究開発された成果を持って、うまくベンチャーなどが起業できるような仕組み作りも、極めて重要である。最近は、大学発ベンチャーの動きも多く、経営のわかる技術者養成のためのManagement of Technology (MOT) の講座を開き始めた大学が増えているのは、喜ばしい。私が、もう20年前にStanford大学で学んだEngineering Management学科は、まさにそのようなものを学ぶところであった。日本でもこれが一時的な動きに終わらず、継続的なものとなることを期待したい。

(04/01/2003)


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