インターネットによるビデオ配信の功罪

インターネットによるビデオ配信は、YouTubeによって大きく広がったが、今や米国ではテレビ局が、もうかなり前から、ほぼすべての夜の番組をインターネット配信するなど、とどまるところを知らない。日本では、まだまだインターネットによるテレビ番組配信には、テレビ局が慎重な姿勢を崩していないが、それでも、最近になってNHKが有料ながら(NHKなので、広告を入れない関係上、有料にすることは仕方ないだろう)テレビ番組を、番組放送後しばらくの間、インターネットで見られるようにする計画を発表するなど、動きは出てきている。これにともなって、ネットワーク・インフラもどんどんブロードバンド化が広がっていくだろう。

インターネットによるビデオ配信により、これから世の中がどんどん変わっていくという話は、すでに1年以上前から何度か書いているが、もう一度確認のため、簡単にまとめると、以下のようになる。まず、テレビ番組の見方が大きく変わり、いつでもどこでも見られるようになる。それとともに、放送時間帯のゴールデンアワーなどというものは意味がなくなり、テレビと広告の関係は大きく変わる。また、広告自体もインタラクティブ性を持ち、視聴者の特性に合わせた広告を出せるようになるなど、大きく変わってくる。インターネット広告という意味では、もっと単純に、文字や静止画ではなく、動画による広告が出来ることにより、その広告効果は文字や静止画よりはるかに高いと考えられるし、これはとっくに起こっている。

また、インターネットという特性を生かし、素人が自分のビデオをアップさせて世界中に発信することが可能となり、YouTubeはその典型的なものな訳だ。テレビ番組は放送時間の関係で、放送できるものが限られているが、そのような制約のないインターネットの世界では、これから、どんどんテレビ番組放送枠に入りきれない、しかしながら、素人ではなく、ちゃんとプロが作成したビデオ・コンテンツがインターネット上で配信されるようになってくるであろう。米国での数多くの大学スポーツの中継、日本では、ソフトバンクがプロ野球パリーグの全試合をインターネットで放送するというのは、その典型だろう。

さて、これらの大きな変化は、すくなくともユーザーという立場で考えると、テレビ番組の見方が自由になり、便利になるし、テレビ番組枠に入り切らないビデオコンテンツが見られたり、素人のものでも面白いものや、報道がカバーしきれないニュースがリアルタイムで入ってくるなど、メリットは大きい。

また、企業においても、ビデオを使った遠隔地向けの社員や関連会社、顧客への教育(Eラーニング)、社長の社員向けの話のリアルタイム・ビデオ配信、また、1月に書いたような、大袈裟なビデオ・コンフェレンス装置を必要としない、簡単なビデオを使った社内や社外とのデスクトップ・コラボレーションなど、インターネットによるビデオ配信のメリットは多岐にわたっている。

しかし、どんなことにもプラス面とマイナス面があるように、インターネットによるビデオ配信にも困ったことがある。特に今、問題になりつつあるのは、仕事場での個人的なビデオ・コンテンツ視聴だ。仕事の関係で、ニュースを見たり、また、顧客にかかわるビデオを見ることは当然あるだろう。実際、最近はテレビや新聞ではなく、インターネット経由でニュースを見る、という人がかなり増えている。このようなものはいいが、それ以外で、見逃したテレビ番組を見たり、YouTubeを見たりする人も結構いるようで、これが問題となっている。Nielsen Onlineの調査によると、時間はお昼の12時から午後2時あたりに集中しているようで、昼休みに見ている、ということはできるが、テレビ番組などを見ている場合は、その時間を過ぎて見てしまう可能性も十分考えられる。昼休みの気晴らしとしてはいいけれども、仕事の時間に食い込んでは、職場の能率に影響してしまうことになる。

会社で仕事以外のビデオを見ることは、自分の仕事の効率低下に加え、ビデオを見ていない人や、会社のお客にも迷惑をかけるから大きな問題だ。これは、多量のビデオコンテンツがネットワークを流れることにより、社内のネットワーク使用率が高くなり、ネットワークを使う他の重要な仕事の応答時間が遅くなったり、場合によってはネットワークがパンク状態になるからだ。ご存知の方も多いだろうが、文字情報よりも静止画像、静止画像よりもビデオのほうがはるかに情報量が多く、それも、数倍という話ではなく、桁がいくつも異なるというレベルで情報量がどんどん増えるからだ。

このため、会社によっては、ビデオ情報へのアクセスをブロック(禁止)しているところも増えている。これまで、会社でのインターネットへのアクセス制限は、アダルトサイトへのアクセスのブロック(これは言うまでもないことだが、ブロックしていない会社では、このようなサイトへのアクセスがかなり多かったというから驚く。個室のようなオフィスが多い米国ならではのことだろうか)、インスタント・メッセージングの禁止、Myspaceなどのソーシャル・ネットワーク・サイトへのアクセスのブロックなどが、行なわれてきた。これに、今度はビデオ情報全般へのアクセスのブロックが加わり始めたということだ。

ただ、インスタント・メッセージは、最近は仕事に使う、という会社も出てきているし、ソーシャル・ネットワークも、ある会社では、毎週金曜日にソーシャル・ネットワーキング・フライデイと称して、1時間、皆でソーシャル・ネットワークを使い、社内や顧客とのコラボレーション、それに社員勧誘も行っているという。その点、ビデオ情報へのアクセスも、顧客情報の入手など、有効な場合も決して少なくない。したがって、単純にすべてのビデオ情報へのアクセスをブロックしてしまう、ということは必ずしも企業にとって有益ではない。そういえば、インターネットが会社で使われ始めた頃、インターネットで仕事以外のものを見たりする人がいるということで、インターネットを会社で使わせてよいかどうか、という議論が起こり、インターネットを会社で使わせない、というようなことを始めた会社もあったが、今やそんなことをしていては仕事にならない、というのが現状だ。

アダルトサイトへのアクセスは例外としても、インスタント・メッセージングやソーシャル・ネットワークがそうであるように、一般のビデオ情報へのアクセスも、企業にとってメリットがある場合も多い。これから会社として、氾濫するビデオ情報に対して、どのように対応していくべきか、ネットワークを管理する部門や人事部門等にとって、頭の痛い問題がまたひとつ増えたことになる。

(04/01/2008)


メディア通信トップページに戻る