4月1日から、いよいよ日本版ビッグバンが始動しはじめた。とはいっても、最初は改正外為法の施行ということで、ドル等の外貨の両替がどこででも出来たり、海外にドル口座を持てる等というような程度(これでも今までの事を考えると、大きな変化ではあるが)である。しかし、これから2001年にかけて、今まで規制のためどこの銀行に行っても同じ金利、どこの証券会社に行っても同じ株式売買手数料であったものが、それぞれの会社によって異なるようになり、さらに、銀行、保険、証券の業界の垣根が取り払われ、本格的なビッグバンとなっていく。
本格的なビッグバンが実現すると、いままで規制に守られてビジネスを行っていた銀行、保険、証券各社が本格的な競争に入り、しかもこれらの業種間でも垣根が取り払われるため、さらに厳しい競争がはじまる。競争が本格化すると、その企業の経営力により、業績に大きな差が生じてくる。つまり勝者と敗者が歴然としてくるわけである。いよいよ大変な時代の幕開けとも言えるが、逆に経営力の見せ所、大きな勝者になるチャンスでもある。
このような競争の時代に勝者になるための要素は色々とあるが、特にこれら金融の分野では、情報通信をいかに有効活用するかが、非常に大きな鍵となることは間違いない。情報通信の活用にも色々考えられるが、インターネットがどんどん広まっている今、まずひとつあるのは、顧客への電子的なサービスがあげられる。もう一つは、顧客開拓(新規顧客開拓または既存顧客への追加ビジネス)のために、いかにデータを有効利用するか、最近の情報通信技術でいえば、データマイニングをいかにうまく実行するか、があげられる。今回はとりあえず、前者についてお話してみたい。
米国ではすでに、金融企業各社がインターネットによるサービスを、顧客獲得の一つの柱にしようとしている。たとえば、パソコンからオンラインで自分の銀行口座の残高照会を行ったり、お金を別の銀行に振り込むというようなサービスは、米国では当り前となっており、ある統計によると、米国大手20行のうち、19行は既にこのようなパソコンからのオンライン・バンキング・サービスを行っており、最後の一行も今年このサービスを開始する予定である。
サービス内容にはまだばらつきがあり、ベーシックなサービスは単なる口座の残高照会だけのものもあるが、多くのものは、他銀行への振り込みサービス、さらに電話料金等の支払いも、オンラインで実施できるようにしており、ユーザーは、いちいち小切手を切り、郵便で送る手間とコストを省くことができる。米国では多くの支払いが、銀行口座からの自動振替ではなく、(オンライン・バンキングを使用しない場合は)小切手による支払いが多い。これは、電話等の支払いについて、まずその内容を確認してから支払いたいと考える米国人が多く、口座からの自動振替を嫌う人が多いためである。
銀行によるオンライン・バンキング・サービスは、米国ではかなり以前から始まっていたが、ここ最近までは、それほど大きな広がりを見せていなかった。以前は、それぞれの銀行でパソコンによるオンライン・バンキングのためのソフトウェアを用意し、これを使ってもらうよう顧客を指導していた。これは顧客の側にも負担がかかり、面倒なため、あまり普及しなかったわけである。ところが、しばらく前からパソコン用の個人金融管理ソフトウェアとして、Intuit社のQuickenやMicrosoft社のMicrosoft Moneyが急激に広がり、銀行各行も、これらの汎用ソフトウェアを使ったオンライン・バンキングを可能とした。さらに、最近のAOLをはじめとするオンライン・サービスの広がりと、それらを経由したオンライン・バンキングの実現、また、インターネットの大きな広がりと、それを利用したインターネット・バンキングの実現、そして家庭への通信機能をもったパソコンの普及率の伸びにより、このサービスを利用する人達が急激に増加している。
各銀行のオンライン・バンキング・サービスの提供方法は、QuickenやMicrosoft Moneyを使ったシステム、AOLのBanking Centerを利用するもの、更にインターネット経由で通常のブラウザーを使って利用できるものと、今のところさまざまだが、どこもインターネットによるサービスを目指していることは間違いない。
3月のインターネット・ワールド(インターネットに関連する大きなエキスポ)では、出展企業がほとんどメーカーであるにもかかわらず、ある大手銀行がブースを出しており、来場者にこの銀行ではインターネット経由によるオンライン・バンキングであらゆる事が出来ることを宣伝し、その場で口座を作るよう勧誘していたのが印象的であった。ただ、このような光景もおそらく今年くらいのもので、1年後には、このようなサービスを行うのは当たり前で、特に差別化要因とはならないであろう。むしろ、このようなサービスが出来ない銀行は“遅れている、サービスの悪い銀行”というレッテルを貼られることになるであろう。
日本でも以前より、家庭からオンラインで銀行サービスを提供しようという試みはあったが、ほとんど利用されていなかった。これは米国が標準のパソコンに独自のソフトウェアという組み合わせからスタートしたのに対し、日本では、標準のパソコンをベースとせず、家庭向けの銀行端末なるものを用意したため、コストが高くついたのが、失敗の大きな原因のひとつである。また、米国のように小切手社会ではないため、現金を出し入れ出来ない端末の利用価値が低かったという理由も考えられる。
しかし、これからはどうか。 通常のパソコン、そしてインターネット経由であれば、顧客がオンライン・バンキングのために特別に準備する必要があるものはない。このように簡単に使えるものであれば、このようなサービスがあるに越したことはない。また、現金社会である日本では、米国のような小切手社会のように、常に預金口座の状況を見ている必要は少ないかもしれないが(米国では小切手のための当座預金は通常利子がつかないので、最小限必要な残高にとどめ、あとは普通預金等、利子のつく口座に残しておくようにやりくりする)、振り込みの必要性はあるはずである。
また、現在の銀行の業務内容から、今後ビッグバンが進み、銀行で投資ファンド等が買えるようになると、投資ファンドの儲けの具合を常に監視し、必要に応じてファンド間で資金の移動を行って、利益を最大にする努力を払う必要が出てくる。こうなるとインターネットでこのような銀行に預けてある資産状況がどうなっているかの監視、また、資金の移動が簡単にインターネットから出来るかどうかは、顧客にとって大きなサービスの違いとなってくる。
銀行を中心に話してきたが、米国の証券界は、インターネット・トレーディングがすでに大変ホットになっている。米国では証券会社が、高度なサービス(コンサルティングなど)を行い、高めの手数料をとる会社と、簡単なサービスのみで、そのかわり手数料を安くしている会社の2種類があるが、特に後者のほうが、インターネット・トレーディングに積極的である。インターネットによる株や投資ファンドの売買は、簡単でしかも手数料が安い。ある証券会社では、1000株までの売買は固定で$14.95であり、米国の株価が比較的高い(例えばMicrosoftは現在$90くらい)ことを考慮すると、かなり安い。また、証券会社側も、インターネット・トレーディングは人件費の削減につながり、こちらにも大きなメリットがある。
このように、米国の銀行界、そして証券界はインターネットによるサービスで、顧客の囲い込みを行おうとしている。これから日本でビッグバンがさらに進むと、どの銀行、証券会社、保険会社が1,200兆円といわれる日本の個人金融資産管理のための接点となるか、大きな勝負の分かれ目となる。日本の金融業界各社の今後の情報通信戦略に注目したい。
(04/01/98)
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