大きく変わる電話会社のビジネスモデル

電話会社のビジネスモデルが大きく変わり始めている。これは日本でも米国でも起こっていることだが、このコラムは米国西海岸メディア通信なので、米国の電話会社について話すことにする。

これまでの電話会社といえば、電話サービスの基本料金や電話使用料で、潤沢な収入を上げ、ビジネスとして安定していた。その後、米国では、旧AT&Tの分割後、長距離電話会社と地域電話会社に分かれ、以前の独占状態から競争環境に移行した。長距離通信については、今年2月のレポートでも書いた通り、AT&Tが買収されるというところまできたし、地域会社についても、合併等によりその数は減り、米国で言えば、大手4社に収斂されてきている。ここまででも電話会社に色々な変化が起こってきたと言えるが、これからさらに大きな変革が起こり始めている。

そもそもの発端は、固定電話サービス収入の低下である。例えば、大手電話会社のVerizonは、2004年の第2四半期だけでも80万人近くの一般家庭用固定電話ユーザーを失った。Verizonが例外というわけではなく、他の電話会社も似たり寄ったりの状況である。固定電話サービス利用の低下は、携帯電話利用に代替されているという面が大きいと思われるが、VoIP(Voice over IP:インターネット等IPネットワークを利用した音声通信)サービス利用の影響も次第に出てきていると考えられる。

固定電話から携帯電話への移行は、固定電話サービス収入の低下をもたらすが、多くの電話会社は携帯電話会社も持っているので、単に収入源が固定電話から携帯電話に移っただけということで、会社全体(それぞれの子会社間での売上の増減はあるが)の売上の低下にはならず、むしろ売上向上に貢献している場合も多い。

ところが、VoIPサービスは、自社でのサービスよりも、ケーブルテレビ会社、さらには、VoIP専用サービス会社などにお客、そして売上が流れてしまうため、売上の純減となるので、問題が大きい。VoIPでは、Vonageなどの有料サービスを提供するところもあるが、Skypeのように、基本的な電話サービスは無料というところもあり、今後VoIPサービスが広がっていくと、電話会社への影響はかなり大きなものとなる。実際、米国での一般家庭向けVoIPサービスは、2004年には、まだ110万ユーザーと少ないが、2008年には1740万ユーザーになるという予想も出ている。そのため、電話会社も自社によるVoIPサービス提供で対抗しようとしており、例えば、VerizonはVoiceWingというVoIPサービスを提供している。

電話会社は、固定電話サービス収入低下を補うため、音声、データに加え、テレビを含むビデオサービスを拡大しようとしている。この音声、データ、ビデオの3つを合わせてトリプルプレー(Triple Play)とよく言われている。そして、このビデオサービスを新しい収入源にしようと考えているわけだ。たとえば、大手電話会社のSBCでは、一般家庭向けにProject Lightspeedと称し、光ファーバーを使って、IPTV(IPベースのテレビ)、高速データ通信、VoIPのトリプルプレー実現に向け進んでいることを発表している。

しかし、トリプルプレーは電話会社だけが提供できるものではない。実はケーブル会社のほうがトリプルプレーで先行している。ケーブル会社はもともとケーブルテレビというビデオ分野から出発し、その後、ケーブルモデムを使ったブロードバンド通信に参入している。現在、米国の家庭向けブロードバンド通信は、2003年末の統計で、ケーブル会社のケーブルモデムを使ったものが、電話会社のADSL回線を利用したもののおおよそ2倍と、ケーブル利用が電話会社のADSLを上回っている。

ケーブル会社は、これにVoIPサービスを加えると、トリプルプレーが提供できるわけだ。一方の電話会社は、ADSLを使ってブロードバンド通信を提供しているものの、リアルタイムのビデオ通信には、ADSLでは回線速度が不足である。そこで、光ファイバーを使ったFTTP(Fiber-To-The-Premises)が必要になるが、これがまだ米国では、ほとんど家庭まで敷設できていない。2004年にFTTPが敷設されているのは、まだ190万家庭である(米国の家庭数は約1億と言われている)。

これまで、米国の電話会社はFTTPの敷設に消極的であった。それは、家庭1軒あたりのFTTP敷設コストが数千ドル(最近は千ドル弱と言われている)にもおよび、この投資を回収するほどのビジネスが考えられなかったからである。かなり以前から、VoD(Video on Demand)の実験などがいろいろと行われたが、価格が高すぎで、実際のサービスにまで至らなかった。

しかし、今回は、電話会社もトリプルプレーを家庭に提供し、その市場での地位を確立しないと、トリプルプレーごとケーブル会社に持っていかれてしまう可能性がある。そうなると、新しいビデオ関連ビジネスが出来ないだけでなく、既存の固定電話ビジネスもケーブル会社に持っていかれてしまうことになり、大変なことになる。そこで、電話会社もいよいよ本格的に光ファイバーの敷設を宣言しており、Verizonなども数値目標を掲げてFTTPの拡大をめざしている。

価格的にもケーブルに対抗するため、投資金額を押さえるために、技術的にもFTTPで家庭まで光を結ぶ方式だけでなく、FTTN(Fiber-To-The-Node)プラスVDSL2(Very-High-Bit-Rate Digital Subscriber Line 2)などの技術を検討している電話会社もある。VerizonはFTTPだが、他の大手3社(SBC、Bell South、Qwest)は既存顧客に対しては後者を検討している。ただし、この技術は十分な実績があるものではなく、これから技術的な問題が発生する可能性もある。

いずれにしても、電話会社はトリプルプレーに向けて前進することが、今後のケーブル会社等との競争に不可欠である。そして、トリプルプレーでケーブル会社に対してとっている遅れを取り戻す必要がある。

このように厳しい環境に立たされている電話会社だが、ケーブル会社にない強みもある。それは、ケーブルよりもはるかに家庭へのアクセス率が高いことに加え、携帯電話会社を持っていることである。電話会社はトリプルプレーに携帯電話を加えてクワデゥプレー(Quad-Play)にすることが出来るわけだ。

ただし、これは同じ回線を使って行うトリプルプレーと異なり、別な無線回線を使うので、ユーザーにとって意味のあるうまいサービスの組み合わせが必要である。請求書を一つにまとめるとか、バンドルして価格を安くするという単純なものだけではなく、より高度な、例えばコンテンツに関連したものや、Eメール、留守番電話等のシームレスなサービスなど、いろいろと考える必要が出てくる。

いずれにしても、電話会社にとって、光ファイバーの敷設が、それ単体でのROI(投資対効果)を測るだけでなく、もはや将来の生き残りに必須のものとなってきた。そしてこれを用いたトリプルプレーで、あるいは携帯電話を加えたクワデゥプレーでどれだけのユーザーを獲得して、これまでとは異なる新しいビジネスモデルにうまく移行できるか、電話会社にとって、今までにない戦いが始まっている。

(05/01/2005)


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