今度はGoogle TV!?

GoogleがGoogle TVを開発中、という記事が3月中旬にNew York Times誌に掲載された。それによると、GoogleはIntel、Sonyとパートナーシップを組み、Google TVというプラットフォームを開発中とのことだ。この記事に対し、各社はコメントを控えているが、事実であることは、ほぼ間違いないだろう。このプラットフォームにより、テレビ上で、インターネットを使いやすくするという。プラットフォームということなので、セットトップボックス(STB)の形をとるか、あるいは、テレビに内臓されるのか等は不明だ。一部の話によると、今、ケーブルテレビや衛星放送、電話会社のIPTV等を利用している人は、そのためのSTBがあるが、それにさらにもう一つGoogle TVボックスが加わるという話もある。

Googleのソフトウェアを利用するため、OSとしてGoogleのAndroidが採用される。GoogleのブラウザーであるChromeも使われるようだ。Intelからはスマートフォン等に使用されるAtomチップが採用される。Sonyは、STBを担当するか、自社のテレビにソフトウェアとチップを組み込むことになる。

さて、このGoogle TVで何が出来るようになるか。基本的には、テレビ上でウェブのどこにでもいけるようになり、サーチもしやすくなる。よく使われるFacebookやYouTubeなども簡単に使えるようになる。そして、Android OSはオープンなOSなので、Androidベースのスマートフォンがそうであるように、次々といろいろなアプリケーションが開発され、テレビ上で使われることが予想される。つまり、簡単にいえば、スマートフォンでできることをテレビでもやれるようにする、ということになる。

ずっと以前からテレビ上でインターネットを使うという試みはなされてきたが、成功してこなかった。しかし、今はそのような時代と大きく異なる。何が違うかといえば、一番大きいのは、インターネット上にテレビ番組等たくさんのビデオ・コンテンツが存在し、それをテレビ画面で見たい、というユーザーが多いことだろう。テレビ画面もLCDやプラズマなので、文字情報を表示しても、昔のブラウン管時代のような、解像度が悪いという問題はない。

インターネット上のコンテンツをテレビ画面で見る方法は、すでに多く存在する。パソコンでインターネット検索を行い、それをテレビ画面に写し出すことも出来るし、ケーブル会社等が提供するSTB、Boxee等の外部ボックス、Sony PlayStation 3 やMicrosoft Xbox 360などのゲーム機、さらには、テレビそのものにインターネット接続機能がついて、インターネット上のビデオコンテンツを見たり、Facebookをテレビ上で使うことがすでに可能となっている。Yahooもウィジェットという形で、テレビ上でインターネット・サイトに行くためのソフトウェアを提供している。

パソコンを経由するものを除けば、ほとんどの場合、ブラウザーを使ってウェブサイトのアドレスをキーボードで入力するのではなく、スマートフォンのように、アプリケーションとして、例えばYouTubeがあったり、Facebookがあり、それをクリックすることにより、そのアプリケーションを使うことができる。言い換えると、それぞれのSTBや外部ボックスに決められたウェブサイトにしか行けない。その代わり、キーボードなどを使わず、テレビのリモコンだけで簡単に利用できる、というメリットもある。

したがって、Google TVが全く新しいものというわけではない。違いはGoogleのAndroid OSがオープンでソフトウェア開発者がアプリケーションを開発しやすいこと、そして、Googleのもつサーチ等の既存資産が使えることなどだ。また、Googleのブランド求心力で、多くのソフトウェア開発者がこのプラットフォーム向けのアプリケーション開発を優先し、また、テレビメーカーもSonyだけでなく、皆がこのGoogle TVプラットフォームを使うようになれば、一気にGoogle TVへと流れが出来ることになる。

もちろん、他社もそうはさせまいと手を打ってくるだろう。STBのプラットフォームには、Microsoftも以前から力を入れており、AT&Tなど何社かがMicrosoftのソフトウェアをベースにしたSTBを採用している。ただし、まだ流れが決まったというところまでは来ていない。Appleも、Apple TVという外付けのボックスを提供しているが、iPhone、iPadと新製品が続き、会社の力の入れ方がApple TVには十分行っていないのが現状だ。今回のGoogle TVによって、それが変わる可能性もあるが、まずは発表したばかりのiPadを成功されることのほうが、Appleにとっては直近の重要課題だろう。

いずれにしても、Google TVにより、携帯電話がスマートフォンになってきたのと同様、テレビもスマートTVと言われるものに変身を一段と加速させるだろう。実際、Sonyは、「進化するテレビ」という言葉を使い、テレビを従来からのハードウェアによる差別化から、ソフトウェア、サービスでの差別化にシフトしようとしている。パソコン、スマートフォンに加え、いよいよ家電の中心であるテレビにも、インターネット利用が本格化する時代を迎える。

テレビでのインターネット利用は、パソコンでの利用とは、当然その使われ方が異なってくる。一つのキーは、いかにユーザーに使い勝手がいいものにできるか、いわゆるUser Experienceだ。そういう意味では、必要があれば、キーボードを使ってウェブ検索等も可能だが、通常はウィジェット等を使い、一般のテレビのリモコンを使い、スマートフォンのアプリケーションを使うようなイメージで、インターネット上のコンテンツをテレビ画面に出す、というのが個人的には使い勝手がいいように思う。

どのメーカーがいち早く、ユーザーが喜ぶ、使い易いUser Experienceを提供できるか、そして、どれくらい多くのアプリケーションをそろえることができるかが、勝負の分かれ目だ。Microsoft、Apple、Googleの3社は、インターネットに関連したいろいろな分野で熱い戦いを展開しているが、パソコン、クラウド・コンピューティング、スマートフォン、タブレット・コンピュータに続き、今度はテレビが大きな戦場になろうとしている。

今やビデオコンテンツも、単にテレビ放送で見る時代から、本当の意味で、見たいときに、見たい場所で、そのとき持っているもの(テレビ、パソコン、スマートフォン、タブレットPC、等)で見る時代がやってきた。米国では、この新しい時代に向け、熾烈な主導権争いが行われている。Google TVは、その火中に、さらに油を注ぐことになる。インターネット経由のビデオコンテンツ配信にいまだ消極的な日本のメディア業界も、そろそろ自ら変革しないと、日本全体が取り残されてしまうことになるだろう。

(05/01/2010)


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