無料化へと向かう市営の無線ホットスポット

無線通信といえば、携帯電話で日本が米国等に先んじて市場を広げたことが思い浮かぶが、無線ホットスポット(Wi-Fi)については、米国のほうが早く、今もどんどん広がっている。無線ホットスポットというと、スターバックス・コーヒーなどのお店や、空港等で使えるものを想像する場合が多い。実際、そのようなところから無線ホットスポットは広がってきている。これらの場所で無線を使ってインターネット接続するためには、通常その場所で無線サービスを提供している会社と契約して、そのサービスを利用する。

これらはある特定の場所に行かないと使えないが、市全体をカバーするようなものを作ろうという動きが、米国では活発だ。すでに全米120ほどの市で無線ホットスポットが市によって設置されており、計画中のものを含むと250に達する。

このような市による無線ホットスポット・サービスは、5年ほど前から始まっているが、これまでは、無線ホットスポット・サービス業者が毎月いくら、という使用料金をとってサービスするシステムであった。これはお店や空港等で使う場合と同じシステムだ。

ところが、ここへ来て、市営の無線ホットスポットを無料で開放するという動きが広がってきている。ユーザーとしては、市全体をカバーしてくれる無線ネットワークなので、公園などでも使え、とても便利だ。その上、それが無料で使えるというのであれば、これ以上言うことはない。ユーザーにとっては、いいことずくめの無料市営無線ホットスポット・サービスである。

では、ネットワークを提供する会社はどのように売上を立て、利益を出そうとしているのであろうか。すでに想像された方も多いかもしれないが、広告収入である。サービスを無料にすることにより、契約者を急速に増やすことが出来るというメリットもある。また、有料サービスの場合、契約者を獲得するための営業活動等に、1件あたり200ドル程度を要するといわれているが、このコストも削減できる。実際、シリコンバレーのいくつかの市で、このような広告収入モデルによる無線ホットスポット・サービスを提供しているMetroFi社では、Sunnyvale市でサービスの無料化を実施して以来、契約者数が急増し、契約者の80%は無料サービスを開始してからのユーザーだと述べている。

ここシリコンバレーで、数社がこの広告収入モデルによる無線ホットスポット・サービスを提供している。計画中のものを含めると、Googleと大手インターネット・サービス・プロバイダーのEarthlinkが提供する予定のSan Francisco市をはじめ、Sunnyvale市、Cupertino市、Santa Clara市、などが上げられる。また、San Jose市でも、無料ホットスポット・サービスが、この8月から実施される予定である。いずれの市も、中心街から順々に広げていっているので、完全に市全体がカバーされ、各家庭でも利用できるようになるまでには時間がかかるが、仕事で市内にいる場合など、簡単に無料で無線ホットスポットを使ってインターネットで何かを調べたり、Eメールを読んだり出来るのは、とても便利なことに違いない。

広告収入による無料サービスは、ユーザーに広告を見てもらう必要があり、ユーザーによっては、有料にしてでも広告を見たくない、という人達もいるだろう。そこで、ほとんどのサービスは無料の広告モデルか、あるいは有料の広告なしモデルかをユーザーが選択できるようになっている。また、GoogleとEarthlinkによるSan Francisco市でのサービスのように、有料サービスは無料サービスの数倍の速さのアクセスを提供するというものもある。いずれも広告モデルで十分な売上が上がらない場合に備え、別な収入源として有料サービスを考えている。

この市営の無線ホットスポット・サービスを無料の広告モデルで実施したいという考え方は、各地の市に広がっている。市民への最善のサービスを考えれば当然のことだろう。最近、California州都であるSacramento市では、ほぼ決まりかけていた無線ホットスポット・サービス会社との契約を白紙撤回し、無料で無線ホットスポット・サービスを実施してくれる会社を選び直すことにした。

インターネット広告が重要視され、すでにラジオや雑誌をしのぐ金額になってきている点については、以前にもこのコラムで書いたと記憶している。インターネット広告が重要になってきたからこそ、Googleのような、インターネット・サーチに合わせた3行広告で、大きな売上、利益を出し、インターネットの世界で最も注目すべき企業になったところも出現したわけだ。

これからどんどん広がろうとしているインターネットによるビデオ配信、テレビの視聴なども、一部は有料となるものがあるとしても、その多くは無料の広告モデルに傾斜していくことは、ほぼ間違いないだろう。

広告収入モデルとは異なるが、基本サービスを無料にし、付加サービスで収入を得ようとするモデルもどんどん広がっている。Skypeによるインターネットを使った無料電話は、一般電話との接続や、ボイスメールなどの付加サービスで収入を得るモデルだ。また、インターネット・ゲームの世界でも、単にゲームに参加するだけなら無料だが、ゲームで有利になるための武器などを有料で買わせるというモデルも成功しはじめている。

一般消費者にとって、どれほど役に立つか、面白いか、使いやすいか、はっきりわからないサービスに対して、最初からお金を支払うということに抵抗がある人達は多い。そういう人達にとって、無料ならやってみよう、と思う人もまた多い。何を隠そう、私もその一人である。サービスは無料で広告を見るということに、人はテレビで慣れているので、簡単に受け入れ易い。また、あとで有料の付加サービスをつける場合でも、自分でほしいものだけ追加できるので、これも比較的抵抗感が少ない。ユーザーにとって、この無料モデルはとても居心地のいい世界である。

インターネットも10年を越える歴史を積み、インターネットの世界で成功するには、「いかに人を集めるか」が最も大事だということがよくわかってきた。そのために基本サービスを無料にするという方法は、人を集めるための最もよい方策であるに違いない。これに対して、いかにGoogleのようにうまく広告収入モデルを構築するか、あるいは付加価値サービスにユーザーを取り込んでいくか。サービス提供者側が、継続して売上、利益を上げていくため、知恵のしぼりどころである。

(06/01/2006)


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