500ドル・インターネット・パソコン
-WinTel時代の終り?-


昨今はサン・マイクロシステムズが Java を発表して以来、500ドル・インターネ ット・パソコン構想がオラクル等から発表され、これまでパソコン業界を牛耳ってき たマイクロソフトとインテルの牙城がくずれようとしているかのような議論が出てい る。いわゆる Wintel (マイクロソフトの Windows と Intel の合成語)時代の終 りを告げる議論である。本当にコンピューター業界はそのような新しい世界に突入 するのであろうか?

まず、Java から見てみよう。Java はC++ というオブジェクト指向・プログラミン グ言語に似た、その簡易版的なプログラミング言語である。この言語の大きな特徴 のひとつとして、プラットフォーム・インディペンデントなインタープリター言語で あるとうのがある。つまり、パソコン、ワークステーション等で使われているオペ レーティング・システム(OS)にかかわらず、 Java 言語で書かれたプログラム(ap plet という)は使用している WWW ブラウザーが Java をサポートしていれば稼働可 能なのである。今までのように、マイクロソフトの Windows 用のプログラムは他 の OS(UNIX やOS/2) では動かないなどという事がなく、したがって、ユーザーはど んなシステムを使っていてもかまわない事になる。

この applet はインターネット等のネットワークからリアルタイムにダウンロードし て、ブラウザーの中で稼働するため、例えばリアルタイムのアニメーションが出来た り、リアルタイムに情報更新し、株価ティッカーなどが出来る。さらに、この概念 を拡大して考えると、どんなプログラム(たとえばワープロや表計算ソフト)でも、 Java で書いてしまえば、どんな OS のもとでも稼働してしまい、ユーザーは必要に 応じてこれらのソフトウェアをネットワーク上からダウンロードして使用出来るとい う事になる。

これを利用すれば、500ドル程度でインターネット・パソコン(インターネット端 末、ネットワーク・パソコン等色々な呼び方がある)が出来、現在のパソコンの代わ りが出来るというのが、500ドル・インターネット・パソコン支持者達の考え方で ある。具体的にこの機械を見てみると、そのベースは通常のパソコンからハードデ ィスク、モニター等をはずしたものであり、OS や WWW ブラウザー等はチップ上等に 事前に組み込まれているのが一般的である。

アプリケーション・プログラムはハードディスクがないため、必要に応じてネットワ ークからリアルタイムにダウンロードして使用する(Java applet の利用)。また 、モニターはテレビを使用するか、別途準備して使用する。これが500ドル・イ ンターネット・パソコンを推すグループのシナリオである。その中心となっている のがオラクルであり、サン・マイクロシステムズである。これに、IBM 、ネットス ケープ、アップル 等も賛同している。5/20 にはこの5社が集まってその仕様のガ イドラインを出すなど、かなり積極的に動いている。そしてこのような500ドル ・インターネット・パソコンが普及し、 Wintel ベースのパソコンが売れなくなると いうのが、彼等のねらいである。

だがしかし、本当にオラクル等が言うようにうまくいくのであろうか?私は必ずし もそうはいかないと思う。確かにニッチ市場としての可能性は十分考えられる。 例えば、ビジネス市場において、過去にワークステーションの X ターミナルという 、やはりハードディスクがなく、アプリケーション・プログラムはネットワーク経由 でダウンロードして使用する安価な端末があり、主に特定アプリケーション向けとし て使用されている。しかし、これもワークステーションそのものを駆逐するにはほ ど遠く、ニッチ市場にとどまっている。今回の500ドル・インターネット・パソ コンも、このような形で使用され、ニッチ市場を形成する事は十分考えられる。

また、同じくビジネス向けで、固定アプリケーション向けのモーバイル・パソコン( ノートブック・パソコン等)としてのニッチ市場も考えられる。一方、家庭向けに はテレビ・ゲームとの抱き合わせに、これは値段に大きく左右されるが、可能性があ ると思われる。これは、もともと買おうと思っているテレビゲームに多少のお金の追 加でインターネットの機能がつけられるなら、買ってもよいと思う人がいる事は十分 考えられるからである。

だが、これらはあくまでニッチ市場であり、500ドル・インターネット・パソコン が普通の Wintel ベースのパソコンに取って代わるにはほど遠いと私は考えている。 そもそも500ドルを切る価格は色々な機能を落としても難しいというのが、一般 的な見方である。さらに、最新ではない技術を使ったパソコン(例えばインテルの 80486 を使ったもの)でも一般使用には十分であるが、これらのパソコンがかなり安 価に出回って来ている。また、中古品も安価で手に入る。安い価巻でパソコンを 手に入れたいという人達は色々使い道に制限のある500ドル・インターネット・パ ソコンより、むしろこのようなものを求めるのではないだろうか?

また、家庭市場を考えてみると、500ドル・インターネット・パソコンは色々と問 題がある。まず、この機械でワープロなどの各種アプリケーションを実施しようと すると、高速のネットワーク・インフラストラクチャーが必須であるが、これが整備 されるまでにはまだまだ時間がかかる。また、現在のテレビをモニターに使用した とすると、解像度が不十分で、細かい文字を含む画面はとても読めない。

さらに、もっと大きな問題は、そもそも米国でもすべての人々がインターネットを使 いたいと思っているわけではない。そして、インターネットを使いたいと思ってい るような人々は既にパソコンを持っているか、パソコンを買おうと思っている場合が 多いと考えられる。であるとすると、一体どんな人達がこの500ドル・インター ネット・パソコンを買うというのであろうか?

市場を見ても、騒いでいるのはオラクルやサン・マイクロシステムズ、IBM といった 打倒 Wintel を目指して一生懸命500ドル・インターネット・パソコンの宣伝をし ている企業ばかりで、ユーザーはさめている。そもそもオラクルなどはかけ声はい いが、ハードウェアは日本や台湾等のメーカーにまかせ、仮に市場が急成長しなくて もほとんどダメージを受けないという巧みな戦術をとっている。彼等も本音ではこ の500ドル・インターネット・パソコンが(ここしばらくは)あまり売れないとわ かっているのではないだろうか?

動きの速い、何が起こるかわからないインターネットの世界であるから、遠い将来の 事は言えないが、とりあえずここ1ー2年はこのような見方でいいと思う。好むと 好まざるにかかわらず、Wintel の市場支配は当分続きそうである。

(6/01/96)


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