インターネットは胡散臭い???

先日、東京に出張し、色々な方面の方々とお会いする機会があった。そして、その一週間(正式にはそのうちの三日間)で、“インターネットは胡散臭い”という言葉を一度や二度ならず、三度も聞いてしまった。この言葉を口にされた方々は皆、自分ではインターネットはもっと重要なものだと思っているが、周りにいる人達がそのように言っているのを、むしろ嘆いているということであった。

それにしても、このことは極めて重大である。このコラムや、色々なところでお話をするたびに、インターネットがいかに大きな出来事であるかについて述べている私にとっては、この日本の状況は極めてその将来に不安を感じざるを得ないものである。確かにインターネットは、例えば電話会社が電話についての信頼性やセキュリティについて責任を持っているのと多少異なり、研究者達が情報やコンピューター資源を共有しようというところから始まっており、インターネット・サービス・プロバイダーの数も、電話会社の数に比べると桁が2つ以上も違うような数の多さで、責任の所在が明確でないように見えるかもしれない。

また、それよりもさらに大きな問題は、ハッカーによるインターネット経由による不法侵入などによるセキュリティ事故が発生し、そのたびに新聞等でニュースになるため、インターネットはセキュリティが極めて危ないという印象を持っている人が多いようである。そのあたりから、おそらく“胡散臭い”という言葉も出てきたものと思われる。

これらの考え方は必ずしも間違ったものであるわけではないが、明らかにその“負”の部分が誇張され過ぎている。確かにインターネットは多数のインターネット・サービス・プロバイダーによって構成されており、中にはセキュリティなどをきちっとやっていない業者も存在する可能性はある。しかし、電話会社やコンピューター会社を含む既存大手企業によるサービスも多く、もしインターネット・サービス・プロバイダーの信用が問題なら、そのような信頼のおける企業のサービスを利用することは極めて容易である。また、インターネットでは自分のコンピューターから、相手先のコンピューターまで到達するのに、複数のインターネット・サービス・プロバイダーの手を通ることになるが、これらインターネットの幹線道路とも言うべきバックボーン・ネットワークは大手企業によって占められており、十分に信用に値するといえる。

セキュリティにしても、確かに何の防備もしなければ、ハッカーに侵入されたり、コンピューター・ウィルスによってファイルを壊されてしまうというようなことも起こってくる。ただし、インターネット経由でハッカーに侵入されなくても、社内の人間が情報を盗んだり、機密情報の入っているフロッピーディスクや、ノートパソコンを盗られて情報を盗まれるという場合も多い。実際、米国などでは、後者のほうが圧倒的に多いと言われている。そして、既にセキュリティに関する技術も十分発展してきているので、適切な対応をすれば、大きな問題とはならない。通常のビジネスを行う上でも、色々なリスクはあり、そのようなビジネスリスクをゼロには出来ないわけだが、インターネット・セキュリティも同じ程度のリスクレベルにすることは、それほど難しいことではない。

しかしながら、日本の新聞や雑誌、テレビ等では、どうもこのインターネットの負の部分ばかりを大きく取り上げているように思える。これに対し、インターネットがビジネスのやり方を、そして社会全体を大きく変えようとしているという、インターネットのプラスの部分に対する報道が、少な過ぎる気がする。その結果、“インターネットは胡散臭い”などと思う人達が日本では多くなってしまっているようである。

米国でも、インターネットの負の部分についての報道はある。しかし、そのトーンは、“だからインターネットはあまり使うべきではない”というものではなく、“インターネットはどんどん使う必要があるが、注意も必要である”というトーンである。そして、インターネットがいかにビジネスのやり方を大きく変え、社会をも変えてきているかについての報道の方が、はるかに大きな比重をしめている。日本では、このインターネットのプラス面とマイナス面の報道の比重が全く逆になっているような気がしてならない。

日本の新聞でも、米国に駐在している記者による、インターネットの重大性を強調した記事も時折見るが、やはりバランス的に足りないと言える。私は日本の新聞は一つしか読んでいないので、明言は出来ないが、色々と聞くところによると、特に日本の一般誌がよりインターネットのマイナス面を強調しているため、一般ビジネスマン・レベルでも“インターネットは胡散臭い”という発想になってしまっているようである。

このままでいくと、10年に一度、いや、今や100年に一度ではないかといわれるほどのビジネスや社会にインパクトの大きいインターネットの有効利用の大きな阻害要因となりかねない。マスメディアを中心に、もっとこのインターネットの重要性を認識し、“インターネットは胡散臭い”などと言う人達が馬鹿にされるような状況を早く作らないと、日本企業が今後3−5年で外国企業に大きな遅れをとることになる。

(6/1/99)


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