IT予算は減らすべきか、増やすべきか?

日本の景気もなかなかよくならないが、米国の景気、そして、情報(IT)産業のここ1年の様変わりはもの凄いものがある。シリコンバレーに住んでいると、それを肌で強く感じざるを得ない。インターネットによるe-革命を先導してきたインターネット関連ベンチャー企業(ドットコム企業)がウォールストリート(株式市場)の態度急変(赤字を出していても売上さえ伸びていればいいという見方から、利益を出さないといけないという見方に変わった)に伴い、苦戦を強いられ、次々と倒産、リストラによる業務縮小に陥っている。

この急変が、株式市場全体、特にハイテク株の多いNASDAQ証券市場では株価に顕著に表れ、株価が90%以上下がった会社や、株価が下がり過ぎて、上場を取り消された企業もたくさん出た。退職年金の運用を含めると、多くの人達が株式または株式ファンドに投資している米国では、これを引き金に個人消費も下がった。また、IT産業では、ドットコム向けの売上で、会社の売上が急上昇していた会社などは、ドットコムの倒産等により、その多くの売上を失うだけでなく、代金回収もできなくなってきた。また、このようなドットコム企業に大きな利益を期待して投資していた企業は、逆に大損してしまった。

このような状況により、いままで極めて健全であった、例えばネットワーク機器メーカーのCiscoなどでも数千人規模のレイオフを実施している。もっとも、このような優良企業のレイオフは、今、どこの企業もレイオフを実施しているタイミングということで、会社の大掃除をしているというフシがある。業績が悪化していることは事実だが、Ciscoなど、レイオフの人数を減らそうと思えば、まだまだ減らせたのではないかと思う。しかし、Ciscoは、これまで数多くの買収をしてきたにもかかわらず、レイオフを全くしていなかったので、不用な重複はかなりあったのではないかと思われる。それをこの機に一気に大掃除したというわけである。米国では、最低限のレイオフを少しづつ何回も繰り返すより、一度に大きなレイオフを実施してその経費を計上し、その四半期は大きな赤字を出して、その次の四半期からは健全な形に戻すというスタイルが多いからである。

このようなインターネット関連企業の不調を発端に、長年続いていた米国の好景気も、ついに息切れしてきた。本格的な不況というほどではないにしても、米国の景気が落ち込んだことは、誰の目にも明らかである。今までずっとIT関連投資を増加し続けてきた米国企業も、ついにその見直しを始めた。インターネットによるe-革命が騒がれ、どの企業も他社に遅れをとるまいとIT関連投資を投資効果も十分検討せずに増加し続けてきたのを反省し、IT投資の減額へと転じようとしている。

何事でもそうだが、騒ぐときは騒ぎ過ぎ、その反対に騒ぎが終わるとその反動が起こる。インターネットの場合は、その騒ぎ方が大きかった分、その反動も極めて大きい。表面的にしか物事を見ようとしない人達は、いままでe-革命について大騒ぎしていたのを忘れ、今度は逆に、もはやe-革命は死んだかのような言い方をしている。いわゆる「e-backlash」である。曰く:
― e-コマースは取るに足らないほど、小さなものである
― ドットコム企業の衰退で、もはや「e」は終わりだ
― B−to−B(Business-to-Business)e-ビジネスはまだ本格化していない
― ウェッブによる効率向上はほとんど起こっていない

しかし、本当にそうであろうか?

実はこれは大きな勘違いである。確かにインターネットによるe-ビジネスは、当初は予想をはるかに上回る勢いで伸びたが、ここ1年は、逆に予想を下回っている。しかし、それを見て、「e」は終わりだなどというのは、全くの間違いである。確かにインターネット創世期のドットコムの隆盛は終わったと言っていい。しかし、大企業を中心とした既存企業にとっては、いよいよ「e」が本格化し始めてきている。売上十億ドル以上の米国大手企業1000社以上を対象にしたある調査では、現在でも既にビジネス全体のうち5%以上はインターネット経由であり、5年後には、それが全売上の4分の1にまでなると予想している。

そもそもe-ビジネスは単にインターネット経由で商品を売買するe-コマースだけの話ではない。また、ドットコム企業だけの専売特許でもない。むしろ、既存企業がインターネットを使うことにより、会社のビジネス・オペレーションを効率よくし、さらに今まで出来なかったことをやろうというものである。したがって、競合企業がe-ビジネスで効率化をはかり、今まで出来なかったことを顧客やサプライヤー、パートナーに提供しはじめたら、それを行わない会社は競争力を失い、いずれ滅びて行くことになる。

多くのドットコム企業がつぶれ、インターネット革命が終わったかに見える今、実は既存企業は本格的な自社のe-改革に取り組んでいるのである。e-革命がホットな話題だった頃、General Electric (GE)の有名なジャック・ウェルチ会長は、GEのあらゆるビジネスでe-改革を進めていくと述べていた。表面的にしか物事を見ない人達は、「インターネット・バブルのはじけた今、ジャック・ウェルチはこれまで言ってきたことに対してどう思っているのだろう」、と冷ややかに話している。しかし、そもそもはじけたのは、インターネット・バブルではなく、インターネット株バブルであることは、以前のレポートでも述べたとおりである。

このような状況の中、ジャック・ウェルチ会長は何と言っているだろうか。今年のGEの目標は、一株あたりの利益を10セント(約12円)向上させることである。そしてその実施方法は、会社のe-改革を進め、購買価格を下げ、社内業務を効率化し、インターネット経由による売上比率を向上させることによると述べている。そのために、今年もIT予算を12%増加させると言っている。そして、一部の会社がIT予算削減に動いていることに対しては、IT予算を下げたい会社は、どんどん下げればいい、それだけGEが競合他社に対してより強い立場に立てるのであるから、という趣旨のことを述べている。

さて、あなたの会社は、IT予算を減らすべきか、それとも増やすべきか。もう、その答えはおわかりだろう。

(01-7-1)


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