すでにこのRFIDタグは実験段階から実用化段階に進んでおり、大手ディスカウント・ストアのWalMartをはじめ、多くの企業でその利用が始まっている。RFIDタグは、商品管理を始め、サプライチェーンの効率向上等、幅広い分野での応用が期待されている。
しかし、RFIDタグに単なる固定データだけでなく、センサーを組み合わせて、変化する情報を書き込むと、そのアプリケーションはさらに大きく広がる。私の所属しているSRIインターナショナルでは、RFIDタグとセンサーを組み合わせたアプリケーションをすでに実現し、特許もいくつか保有している。
最初のアプリケーションは、いかにもアメリカらしい、スペースシャトルに関するものである。スペースシャトルの外側のタイルは、大気圏突入の折に、かなりの高温となるが、それがある一定の温度を越えた場合、次回の打ち上げまでに、その温度を越えたタイルを交換する必要がある。これまでは、タイルが壊れているものについては検査できたが、ある一定温度を越えたかどうかは、わからなかった。
そこで、タイルひとつひとつにRFIDタグと温度センサーを組み合わせたものを取り付け、一度打ち上げられたスペースシャトルが戻ってきたとき、RFID読み取り装置でタイルの外側からその状態を読み取り、ある一定温度を越えたタイルについては、交換するようにしたのである。具体的には、温度センサーがある温度を越えると、その情報をもとにRFIDタグにフラッグを立てる(標識を立てる)ことで、このシステムは実現している。
スペースシャトルの話をしたので、現実の世界でのアプリケーションとちょっとかけ離れているように思うかもしれないが、これは一つの例で、スペースシャトルのような特種なものではなく、一般の世界でも、このRFIDタグとセンサーを組み合わせたアプリケーションがたくさん存在する。
次の例は、SRIが米国カリフォルニア州の交通局のために開発したものである。カリフォルニア州は西側全体が太平洋に面しており、海の近くの橋も多い。これら海に近い橋は、しばしば塩害に襲われ、道路の舗装を定期的にやり直す必要がある。今までだと、交通を片側車線止め、道路の一部を掘って塩害の状況をサンプリングで確認し、必要があると判断された部分について、舗装のやり直しを行ってきた。当然、これには時間と手間がかかり、交通渋滞のもとともなっていた。
これをRFIDタグとセンサーの組み合わせによって、道路を掘らずに、塩害の状況を把握しようというわけである。まず、事前に道路の各所にRFIDタグと、塩害を判断する化学センサーの組み合わせたものを埋め込んでおく。そして、定期的に、その状況を道路の上から、道路を掘らないで検査するわけである。検査する装置は、地雷探知機のような円盤状のもので、人が手で持って歩くことも出来るが、車の下にそれを装着し、車をゆっくり動かすことにより、検査することが可能である。現在は、まだ時速10キロ程度のスピードだが、将来は、時速100キロ近くのスピードでも検査が可能になると期待されている。このシステムは、多くの橋で実現すれば、交通渋滞の回避にもつながり、州の交通局のコスト削減ばかりでなく、車を運転するユーザーにとっても、大いにメリットのあるものである。
これ以外にも、例えば、自動車のタイヤの空気圧をチェックし、空気圧が下がりすぎたら運転手に知らせるシステムも考えられている。これは、タイヤに空気圧をチェックする圧力センサーとRFIDタグを組み合わせたものを取り付け、タイヤの外側の車体にRFID読み取り装置を取り付けることで実現可能となる。
センサーとしては、このように、温度センサー、化学センサー、圧力センサー、さらに湿度センサー、振動センサー、バイオセンサーなど、いろいろなものが利用可能で、これらとRFIDタグを組み合わせることにより、幅広いアプリケーションが考えられる。RFIDタグとセンサーを組み合わせ、バッテリーを使ったシステムを構築することは比較的簡単であるが、SRIのシステムの特徴は、これを通常のRFIDタグと同じ、バッテリーなしのパッシブ(passive)システムとして作り上げている点である。
RFIDタグだけでも幅広い分野での応用が考えられているが、これにセンサーを組み合わせると、さらに大きなアプリケーションの広がりがあることは間違いない。アプリケーションが広がればRFIDタグの価格も下がり、それによって採算の見合うアプリケーションがまた広がるという好循環が生まれてくるに違いない。単なるRFIDタグだけでなく、RFIDタグとセンサーを組み合わせたアプリケーションの今後に注目していきたい。
(07/01/2005)
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