ノレッジ・マネジメント(Knowledge Management)


皆さんはノレッジ・マネジメントという言葉を聞いたことがあるだろうか。初めて聞くような気もするし、昔から聞いたことがあるような気もするというようなところではないだろうか。これは米国で今注目されはじめている言葉だが、私も何か昔から聞いたり使ったりしていた言葉のような気がしてならない。

ノレッジ・マネジメントとは、その言葉が示すように、ノレッジ(知識)をマネジメント(管理)するということである。広い意味では、インターネット上の世界中に存在する情報もノレッジの一部としてとらえ、このとても扱い切れないほど膨大な情報を、いかにして有効活用するかということまで含めることが出来るが、一般的には、そこまで広げず、企業であれば、その企業としてもっている知識をいかにうまく管理し、活用していくかをノレッジ・マネジメントといっている。

例えば、会社で持っている専門知識、営業のやり方の知識、顧客情報、サプライヤー情報、幅広く使えるプレゼンテーション資料、他社情報、その他、その企業が持っているあらゆる知識、情報で、それを企業として有効活用すれば、企業の生産性が上がるようなもの、これらをいかにうまく管理し、活用するかがノレッジ・マネジメントである。企業活動に大切なことは多々あるが、企業内に存在する知識、情報の有効活用が、今ほど各企業にとって大切なときはないのではないだろうか?

ノレッジ・マネジメントがホットな話題となってきた理由には、単にこのようなニーズの高まりがあっただけではない。そもそもこのようなニーズは、企業がある程度の規模になれば発生するのは、常識でも考えられることである。いままで存在していたこのようなニーズを実現できる技術の発展があったからこそ、今、ノレッジ・マネジメントが語れるのである。

具体的にノレッジ・マネジメントをサポートする技術の一つとして上げられるのが、イントラネットである。イントラネット以前のグループウェアを利用した知識、情報の共有も行われていたが、コスト等の面ですべての企業がグループウェアを導入して知識、情報を共有するというところまではきていなかった。ところが、イントラネットの登場で、極めて安価で、かつ簡単に知識、情報の共有が可能となったのである。

イントラネットの活用で、企業の効率が大幅に向上しているという話は、ずっと以前から言ってきている。しかし、単にイントラネットを構築すれば、それでうまく知識、情報が共有され、企業効率があがるのであろうか。実はここにひとつの落し穴がある。

企業がもっている知識、情報をイントラネットに載せると、企業内でその知識、情報が簡単に共有できる。これは正しい。問題は、皆よろこんで長年培ってきた知識や情報を簡単に共有するだろうか、という点である。社員何千人という大きな企業を考えなくても、また、コンピューター上の情報などでなくても、情報をなかなか共有したがらないという人達は、もっと卑近なところにいくらでもいる。

例えば、一人前の寿司職人になるためには、長い年数の修行がいるとよくいわれる。最初は飯炊き3年などといわれる。寿司職人に必要な技術のことは、よく知らないので、あまり勝手なことも言えないが、もし親方がその持っている知識、情報をすべて早い時期から弟子に教えたら、もっと効率よく、早く一人前の寿司職人が出来上がるのではないかと想像される。

一般企業でも、知識や情報をコントロールすることによって、自分を優位な立場にし、自分の地位を確保しようとする管理職が、以外と多いのではないだろうか。また、自分のグループ内では、知識、情報の共有を叫んでいても、他部門には情報を十分に伝えず、自部門が有利になるようにしている場合も多く見受けられるような気がする。このような状況では、折角情報システム部門が知識、情報を共有し、企業の効率を上げようとイントラネットを構築したとしても、イントラネット上に有効な情報が載せられなければ、何の役にも立たない。

つまり、ノレッジ・マネジメントのためには、単にそれを実現するための技術インフラを構築しただけではダメで、社員一人ひとりがその持っている知識、情報を共有しようとする気持ちにならなければならない。もし知識、情報を共有しようという雰囲気のない企業であれば、企業文化を変えるところからはじめなければならない。企業文化を変えるために、場合によっては、社員個人、また、部や課などの評価基準の変更、さらには組織変更が必要な場合もあるであろう。ノレッジ・マネジメントにはこれらが重要な成功要因となる。

米国では、イントラネットは広く普及し、企業の効率向上に大きく貢献しているが、日本では、米国ほど大きな成果が聞こえてこないような気がする。そのひとつの原因は、ここにあるのではないかという気がする。日本企業は現在あらゆる面で改革を余儀なくされているが、これもそのひとつであろう。

イントラネットに加えて、もう一つノレッジ・マネジメントにとって重要な技術に、データマイニングがある。マイニング(mining)とは金鉱などを掘ることであり、企業にある埋もれている有効なデータをいかに掘り起こすか、ということである。これは、企業内にある生の情報をそのまま共有するというのではなく、企業内に存在する一見バラバラの情報から、企業活動にとって意味のあるものを取り出そうという試みである。

例えば、証券会社は色々な金融商品を取り扱っているが、新しい金融商品が出てきた場合、どの顧客、見込み客にそれを薦めるべきかを、その企業がもっている顧客情報、過去の類似金融商品の売れ方の分析、外部から購入できる情報などを総合して判断しようとするという事がデータマイニングで可能となる。これによって、営業効率を大幅に上げようというわけである。特定商品からねらうべき顧客を選別するのとは逆に、特定顧客に何を販売すべきかを洗い出すことももちろん可能である。

インターネットの時代には、顧客や見込み客から色々な情報がとりやすくなっている。インターネットでアクセスしてくる顧客に役に立つ情報を提供するかわりに、個人的な趣味などの情報をアンケートのような形で入力してもらったり、また、一度登録された顧客には、インターネットのどのページに興味をもたれたかなどの情報も自動的に収集可能である。これらの情報をいかに有効利用し、ビジネスにつなげていくかは、各企業の今後の業績に大きく影響するであろう。

ノレッジ・マネジメントは、今後の企業の発展に必須のものである。これに早く手をつけ、成功したところと、そうでないところでは、5年後に大きな差がつくことだろう。インターネットを含めた情報通信をいかに有効利用するかは、いよいよ企業の存続にかかわる大きな問題となってきた。

(07/01/98)


メディア通信トップページに戻る