「IT革命」に異議あり

今、日本ではIT革命という言葉が氾濫している。新聞、雑誌をはじめ、政府もIT革命を連呼しているようだ。今年2−3月頃は日本でもe-ビジネス、e-革命など、「e」という言葉が多く使われていたような気がするが、いつの間にか、そしてどうしてそうなったのか知らないが、日本では、IT革命という言葉にすり変わってしまった。 私はこのIT革命という言葉を使うことに異議を唱えたい。

こう聞くと、皆さんは私がどのような意味でこう言っていると思われるであろうか? おそらくそれぞれの皆さんが、今、世の中で起こっていることをどのようにとらえているかで大きく違うであろう。ある人はIT革命という言葉を口にしながらも、実は「革命」とはちょっと大げさではないかと思っている。そのような人にIT革命という言葉に異議があると言うと、やはり革命というのは日本のマスコミ等がおおげさに言っていることで、米国の現状を知っている人から見ると、騒ぎ過ぎと写るのだろう、というように思われるかもしれない。実際、このような反応をされた経験が何回かある。

しかし、私がIT革命という言葉に異議がある理由は、そのようなことではない。むしろその逆に近いといえる。ここ数年、米国をはじめとして世界で起こっていることは、本当に革命という言葉がふさわしいほど世の中を変えはじめている。むしろ今までにも、色々とXX革命と名前のつくものは多々あったが、それらは単なる一過性のブームの場合がほとんどであった。それに比べ、今回起こっていることは、まさしく革命という言葉にふさわしい。

私が問題にしているのは「IT」という部分である。このITとはInformation Technology、情報技術のことである。しかし、私から見ると、今起こっている大きな革命は情報技術革命ではない。そもそも情報技術による世の中の大きな変革は、30年以上前からコンピュータの出現以来起こっていることである。そのなかで大型汎用機が登場し、次にミニコン、そしてパソコンが出てきて、この大きな変革はどんどん進んでいる。ネットワークを使ったオンラインシステムにしても、1964年の東京オリンピック、そしてそのシステムをもとにした、当時の三井銀行でのオンラインシステムを皮切りに、どんどん広がっていった。この流れは今でも続いており、これからも続くであろう。大きな意味でのIT革命は、このように、ここ何十年も続いているものである。したがって、このことを言っているのであれば、何も今、突然騒ぐ必要はない。

ところが、実は今、大きく騒ぐ必要のあることが起こっているのである。それはインターネットによって、世の中のビジネスのやり方が大きく変わり、新しいビジネスモデルがどんどん出現してきていることである。これは、企業にとって、いままでのやり方を続けていたら、いつの間にか新しいビジネスモデルをもった振興ベンチャー、競合企業、さらには異業種からの参入により、淘汰されてしまう運命であるという点である。これは、何十年も続いているITによる変革の一部とも言えるが、それだけでは済まされないほど、大きな革命なのである。今まで続いてきているITによる変革は、どちらかというと、現状のやり方をそのまま効率化するという場合が多いのに対し、今回のインターネットによる革命は、ビジネスのやり方が根本的に変わる場合が多いことに、その大きな違いがある。

今起こっているのは、IT革命ではなく、インターネット革命である。米国ではインターネット革命という言葉とともに、e-革命という言葉も使われているので、これでもいいと思うが、いずれにしても、ここ数十年続いているITによる世の中の変革とは違った次元のことが起こっているという意味で、ITという言葉ではなく、インターネットとかe-という言葉を使うべきであるというのが、私のIT革命という言葉に異議がある理由である。米国でインターネット革命と言わず、e-革命という言い方をする場合が比較的多いのは、おそらくインターネット革命という言い方をすると、単にインターネットという技術の革命という響きがあるためであろう。これに対し、今起こっているのは、インターネットの活用によって新しいビジネスモデルが登場し、これによって世の中が大きく変わってきているということであり、その意味で、インターネットによってもたらされる新しい世の中の革命ということでe-革命という言葉が使われる場合が多い。

皆さんの中には、たかが言葉の問題だから、内容さえ理解されていれば、どんな言葉を使ってもいいではないか、と思われる方もおられるかもしれない。一見正しいように聞こえるこの意見も、実は大きな問題がある。本当に皆が事の本質を理解しているのであれば、確かに言葉そのものは、何を使おうと、あまり問題はないかもしれない。しかし、実際のところは、皆、事の本質がわからないままにこの言葉を使っているので、大きな問題がある。つまり、よくわかっていない人がIT革命という言葉を聞くと、インターネットだけの話ではなく、もっともっと幅広い情報技術に関連した分野を含むことになり、今起こっているインターネットによる大きな革命を見そこなってしまうからである。

実際、今起こっているe-革命を十分認識していない人が、IT革命に対して自分の会社も何かしなければと考えた場合、インターネットはその小さな部分(英語で言えばone of them)という扱いになりかねず、大きく判断を誤る可能性がある。このような見方をしてしまうと、インターネットを中心としたe-革命への対応を最優先にしなければならないにも関わらず、検討の対象を広げ過ぎて、焦点が他に移ってしまう危険性が強い。先日もある何人かの方々が、インターネットのことではなく、まずERP(Enterprise Resource Planning)のソフトウェア導入を会社のIT革命への対応の第一歩と考えたいというような話を聞いたが、ERPの導入は米国ではもう5年くらい前に起こったことであり、たとえ今までそれをやっていなかったとしても、今、最優先で考えるべきものではない。e-革命への対応と同時にERPの導入も考えられる余裕があれば別だが、急を要するe-革命への対応が遅れてしまうと、何事も「早い者勝ち」が通る新しいe-エコノミーでは、とても勝ち組にはなれない。

IT革命かe-革命かは、単に言葉の問題にとどまらない。今頃IT革命などと米国で言ったら、「この人は今ごろ何を言っているのだろう」と思われるのが落ちである。是非、IT革命ではなく、e-革命(またはインターネット革命)という言葉を使い、本当の意味でのe-革命を理解し、会社のe-改革に取り組んでもらいたいものである。

(00-8-1)


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