私は昔からオリンピックが好きで、オリンピック期間中は、時間があるとテレビにかじりついている。しかし、20年前に米国に来てから、そのオリンピックの楽しみが、これまで、半減していた。それは、テレビ放送が米国のテレビのため、米国選手の活躍する競技はたくさん映すけれども、柔道など、日本選手が多く活躍するが米国選手は活躍しない競技は、ほとんどテレビ放映されないからだ。米国に住んでいるから、米国の選手も応援はするが、オリンピックでは、やはり生まれ育った日本の選手を応援したいという気持ちのほうが、私は強い。
こちらでは、日本語放送もあるが、残念ながら、オリンピックのテレビ放映権は、国ごとに決まっているため、ニュースのなかでも、オリンピックのビデオは、基本的に「著作権の都合により放映できません」というようなメッセージが出て、見ることができない。ごく一部の内容が、時間遅れで、ハイライトとして見せてもらえる程度だ。
それが、今回の北京オリンピックでは、大きく変わった。インターネットである。テレビ放送は、所詮、放映できる時間が限られているので、そこでもっと日本選手の活躍を見せてくれ、と言っても、おのずと限界がある。今回、米国でオリンピックの独占放映権をもつNBCでは、系列のMSNBC等、いくつかのテレビ局を含め、テレビだけでも、オリンピック17日の期間中、1,400時間放映するとのことだ。しかし、それでも柔道の日本選手の活躍などが見れる様子はない。
しかし、NBCは今回、これに加え、インターネット上(www.nbcolympics.com)で、2,000時間オリンピック競技を生で放映している。柔道なども、全試合が生中継されている。お陰で、谷選手の活躍なども見ることができた。時差の関係で、準決勝、3位決定戦は午前3時からだったが、頑張って起きて見た。準決勝は残念だったが、銅メダルは見事一本で獲得し、年令やママさん選手であることを考えれば、よくやったと思う。
翌日の内柴選手の金メダル、30秒前に逆転して勝った準々決勝なども、ハラハラしながら見ることができた。さすがに、2日続けて明け方の3時に起きるのは大変なので、内柴選手の準決勝と決勝は、朝起きてから録画で見たが、インターネットなので、録画予約する必要もなく、オンデマンドで見ることが出来たのはうれしい。
北島選手の100メートル平泳ぎ決勝での見事な世界新記録による金メダルは、ライバル米国のハンセン選手との争いということもあり、米国でもテレビで生中継されたが、このすばらしいレースを再度インターネットで見ることが出来るのも楽しい。うちの息子は、何度も繰り返し見ていたようだ。
以前のコラムでも書いたが、米国ではテレビ番組をインターネットで配信する動きが、すでに2年ほど前から始まっており、主なテレビ局の夜の番組は、ほとんど皆インターネット上で見られるようになっている。そして、オリンピックのように、テレビの放映時間に入りきらないものをインターネットで生中継することもしている。すでに毎年春に行われる、全米大学バスケットボール・トーナメントの試合なども、予選からすべてインターネット上で放映している。
米国は、このようにインターネットでのビデオコンテンツ配信に、極めて積極的だ。しかし、問題なのは、ネットワーク・インフラだ。日本では100Mbpsクラスの光ファイバーによるインターネット接続が簡単に得られるが、米国では、これはまだまだだ。ほとんどの家庭はADSLかケーブルモデム接続で、その速度は最高でもADSLで6Mbps、ケーブルモデムで12Mbps程度だ。一部光ファイバーによるインターネット接続も可能となっているが、高速をほこるVerizonでも、その速度は50Mbpsであり、価格も月に約$140(約15,000円)と、かなり高い。
そんな状況で中国からインターネットで送られてくる生放送のビデオの品質は大丈夫だろうか、という心配がオリンピック開始前にはあった。しかし、実際に始まってみると、我が家のADSLでも、十分楽しめるレベルであった。画面の大きさも、フル画面ではないものの、スクリーン全体の2/3程度の大きさで見ることが出来、画質も、テレビと同じとまではいかないけれども、十分見るに耐えるものだ。それだけ、限られたネットワーク速度でも、ある程度の画像品質を提供できる画像圧縮技術等が進歩してきた、ということだろう。
さて、このような米国の状況に対し、日本はどうだろうか。日本は、ネットワーク・インフラがどんどん光ファイバーになってきており、米国などよりはるかに高速だ。NTTが新しく始めたNGNでは、サービスレベル保証も出来るので、ネットワーク経由でオンデマンドでビデオコンテンツを見ても、その品質は、テレビと変わらない。もちろん、もともとのビデオコンテンツの品質がいいという前提だが。にもかかわらず、これまで、日本ではなかなかテレビ番組のようなものをインターネットで配信しようとしていない。
それが、今回はwww.gorin.jpという民放各社共同サイトを開設し、競技のビデオコンテンツを提供しているのは、大きな前進と言える。残念ながら、放映権の関係で、米国からアクセスすると、このサイトでのビデオは見ることができないが、日本の方々にとっては、録画し忘れた競技を見るのに、もってこいのサイトだろう。光ファイバーを接続している家庭であれば、テレビを録画しておいたのとほぼ同じ画質で、ビデオを見ることが出来るのではないだろうか?
米国は、移民の国であり、多くの人々が、米国以外に、もう一つの祖国を持っている。だからオリンピックが始まる前、あなたはどこの国を応援しますか、というような新聞記事が出たりする。したがって、米国以外の祖国を持ち、その選手が活躍する競技をテレビで見られないものを、インターネットで見ることができるのを喜んでいる人々は、たくさんいると思う。
日本では、米国のように複数の祖国を持つ人は少なく、また、テレビで放映されない競技をwww.gorin.jpで提供しているかどうか不明なので、このような、見たいものがテレビで見られない代わりにインターネットで見られる、ということが起こっているかどうか、私にはよくわからない。したがって、日本でどれくらいの人がこのサイトを見るか、結果をみてみないと、なんとも言えない。
しかし、このサイトに対する日本での反応は、少なくとも今後、日本のテレビ局がインターネットでビデオコンテンツ配信を考える上での、重要な指標となるだろう。また同時に、広告を出す会社にとっても、インターネットで配信されるビデオコンテンツに対し、どれくらいの広告価値があるかを見極める一つの指標となるだろう。日本における、インターネットによるビデオコンテンツ配信が、オリンピックを機に、大きく広がることを期待したい。
(08/01/2008)
メディア通信トップページに戻る