前回のレポートで、IT革命という言葉はおかしい、e-革命、またはインターネット革命と呼ぶべきだと述べた。そのことに変わりはないが、今回は日本で言われていることについて書いているので、あえて、タイトルにIT革命という言葉をそのまま使っている。聞くところによると、IT革命は米国の陰謀であり、それに安易に乗ってはいけないというような話をする人達がおり、それが日本で少しずつ広まりはじめているという話である。確かに雑誌等でそのような見出しを見た記憶はあるが、まさかそんなことを本気で考えている人もいないだろうと思っていたが、そのような考え方が広がりはじめていると聞いては、一言コメントせざるを得ない。
ひとことで言うと、これは全くばかげた見方である。このような形でe-革命による世の中の大変革を見ていては、日本の企業は米国に、そして世界にどんどん遅れるばかりである。こんなことを言ったり、考えたりしている人達には、「早く目を覚ましなさい!」と申し上げたい。
米国陰謀説を唱える立場に立って考えて見ると、次のようなシナリオが浮かんでくる。“そもそも米国はインターネット、そして広く情報通信産業全般で日本より明らかに進んでいる。そこで、米国はそれらに関連したハードウェア、ソフトウェア等を日本でどんどん売るためにIT革命をでっち上げ、日本の危機感をあおり、日本でのビジネスを広げようとしている。そのため、日本の通信回線接続料などにまで口出ししてきている。こんな米国のビジネスを広げるための陰謀にゆめゆめ乗ってはいけない。森総理は、IT革命、IT革命などと騒いでいるが、これでは全く米国の思うつぼだ”、というようなことであろうか。
確かに米国は日本の通信回線接続料等に口出ししており、これはやり過ぎのような感じもするが、このような口出しは今に始まったことではなく、日本の規制や目に見えない非関税障壁のために、日本への輸出が阻害されていると考えられる分野に対し、米国が、もう10年以上行ってきていることである。むしろ日本の一部にはこのように米国等から外圧をかけてもらい、それによって日本国内で規制を緩和したり、非関税障壁を減らしていくのもやむなし、という世論形成に使われたりしているような場合も多い。
このような外圧に対して、文句が一部から出ることは、やむを得ないことであるが、それとe-革命(日本で言うIT革命)とを同じ次元で考えるなどということは、とんでもない大きな間違いである。そもそも今米国、いや、世界中で起こっているe-革命は大変大きな出来事であり、米国では18世紀後半から19世紀にかけての産業革命にも匹敵するのではないかと言われている。それを考えると、どうであろうか。産業革命で発明された蒸気機関、車などは世の中を格段に便利にし、生産性の向上にも大きく役立った。こういうものを、他国のほうが先に進んでいるから、他国の産業新興のための陰謀だから、などと言って、自分の国がそれらを取り入れないでいたら、どうであろうか? このような国はどんどん世界から立ち遅れ、はるか後進国になってしまうのは間違いない。
今、IT革命米国陰謀説を唱えることは、まさに日本をこのような後進国にしてしまおうとしているに値するのである。こんな愚かなことをしていいはずはない。幸い、今のところ日本でこのようなことを言っている人がいるなどという話は、米国まで伝わってきていないが、もしこのようなことが伝わってきたら、米国人からあきれはてられてしまうだろう。それどころか、こんなことでは当分日本の景気回復はあり得ないと思われ、日本の国債や主な企業の株式レーティングなどにも悪い影響を及ぼしかねない。実際、私から見ると、このようなIT革命米国陰謀説を唱えている裏には、全く逆の、外国企業の日本市場参入から一部国内弱体産業を守るための策謀があるようにすら見えてしまう。そのようなことをしていたら、国全体が弱ってしまうことは明らかなのだが。
インターネットやe-革命については、色々な数字で各国の状況が比較されているが、数字によっては、日本は米国だけではなく、アジアのシンガポールや韓国にも遅れをとっているという統計もある。単純に統計的な数字で各国の比較をするのは、必ずしも現状をそのまま表しているとは言えないが、この現実を日本のすべての人々は考える必要がある。
日本でもIT革命米国陰謀説などを唱えている人達はごく一部であろうし、それを信じはじめている人達もそれほど多くはないと思うので、あまり大げさに心配することもないとは思う。読者の多くは、こんなばかげた説はこのレポートで取り上げるほどのことではないと、笑い飛ばされるかもしれない。私もそうであってほしいと願っている。しかし、前回のレポートにも書いたように、日本ではe-革命やインターネット革命という言葉ではなく、IT革命という言葉を使ってしまっているために、その内容を大きく誤解している向きもあり、今回のIT革命米国陰謀説にしても、次第にこのような話が広がりはじめ、人々が本気でそのようなばかげたことを考えないように願って書いた次第である。
(00-9-1)
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