貴社のウェブサイトは有効か

インターネットによるe―革命が騒がれてから、しばらく時間が経ち、米国のドットコム企業の衰退も報道されている。このような状況のもと、企業のウェブサイトへの力の入れようも、一部では弱くなってきているようである。しかし、ドットコム企業は衰退しても、インターネットの企業への意味合いが大きいことに変わりはなく、日米を問わず、それを理解する企業は、インターネットによる新たなビジネスのやり方を模索し、そしてそのシステム構築に余念がない。

実際、証券業界や旅行業界がインターネットにより大きく変革したのは誰の目にも明らかだし、消費者がまず企業の商品情報等をインターネットで調べるというのは、今や常識化している。また、インターネットで会社のウェブサイトを訪れる人からの情報は、あらゆる角度から分析することができる。企業にとってのウェブサイトの重要性は、これまでにも増している。

日本でも、主だった企業は、どこでも自社のウェブサイトを用意して、ユーザーの訪れるのを待っている。しかし、数年前に作ったままで、単にウェブサイトがあるというだけで、ウェブサイトが十分有効活用されていない場合が日本では多い。これには、日本のウェブサイト構築業界、および企業のウェブサイトに対する考え方の未熟さが大きな原因となっている。

日本でのウェブサイトを見ると、その多くは、次の2つのタイプに分類される。
(1) コンピューター・プログラマーか、あまりウェブサイト構築に詳しくない人間が作った簡単なもの
(2) グラフィック・デザイナーのような人間がデザインに凝って作ったもの

簡単なウェブサイト構築は、ちょっとコンピューターのわかる人なら比較的簡単に出来る。私も昔、多少コンピューターのプログラミングもしたことがあったので、ちょっと本を買ってきて読んだら、簡単なウェブサイトは出来てしまった。多くの企業が最初に作ったウェブサイトは、こんなものが多かったのではないだろうか。

その後、ウェブサイトで提供する情報は増えても、もともとこのように簡単に作られているものは、これによって、人を引き付け、ビジネス拡大につなげるなどということは、到底不可能なものである。このようなウェブサイトは、外部に頼んだとしても、本当の意味での専門家というよりも、個人で半分趣味のようにやっている、極めて安価なところに頼む場合が多い。

一方、このようなウェブサイトでは、とても人を引きつけるようなことは出来ないと判断した企業は、美しいデザインで人を引きつける必要があると考え、高いお金を払ってデザイナーに依頼し、ウェブサイトを構築した。だが、ウェブサイトは単に人が一方的に見る広告などとは異なり、ユーザーとのやりとりがあるものである。したがって、会社案内をウェブサイトに出しているというだけのものは別として、ユーザーに会員になってもらいたいとか、商品を買ってもらいたいという場合には、単に目を見張るデザインというだけでは、有効なウェブサイトとはならない。

このようにして構築された日本の多くのウェブサイトは、操作性が悪く、ウェブサイトのユーザーが目的を達成する(商品の購入など)前に去っていく、また、単にデザイナーの自己満足的なウェブサイトとなってしまっている場合が多い。例えば、E-コマースサイトで、商品を買い物かごに入れておきながら、途中で購入をやめてしまった人が80%にも上るというデータは、まさしくウェブサイトの使いにくさを表している現象と言える。

しかし、本当の意味での有効なウェブサイトに必要なのは、ユーザーにとっていかに使いやすいウェブサイトか、つまり、ウェブサイトのユーザビリティである。欧米ではこれが注目されてから、数年が経つが、日本でもいよいよここに目をつける必要が出てきた。

私の所属しているアトミックタンジェリン社では、「エキスペリエンス・デザイン」という名称で、ユーザビリティを重視したウェブサイト構築を日本で実施している。また、現在のウェブサイトのユーザビリティ診断についても実施している。

ユーザビリティを重視したウェブサイトの構築には、大きく2つの要件が必要となる。
(A) ユーザーの要求、操作性の良さを満足させる
(B) ユーザーを逃がさないウェブサイトを構築する

(A)については、まずウェブサイト構築の考え方を、「ユーザー中心」に変えることが、その第一歩である。そして、ウェブサイトのデザイン、構築のいくつかの過程で、ユーザーによるテストを組み込むことが重要である。また、サイトの構成(サイト・ストラクチャー)も、単にサイト・ツリーで構成がわかればよいというものではなく、顧客を目的どおりに誘導するためのサイト・ストラクチャーにする必要がある。このような、ユーザビリティを重視したウェブサイト構築手法を使うことにより、はじめて企業にとって有効なウェブサイトが完成する。

(B)については、面白い例がある。問い合わせなどで、ウェブサイト上のフォームに名前、Eメールアドレス、住所、電話番号などを入れた経験をお持ちの方も多いだろう。ところが、このよくある問い合わせフォームでも、ちょっとした工夫で問い合わせ数が大きく変わるという統計がある。フォームの最初で、名前を入れるようになっている問い合わせフォームがよくあるが、実はこれがくせものなのである。この名前は、なんとなく習慣で記入してもらっているところがあるが、単なる問い合わせの場合、実はその情報が使われていることは、それほど多くない。ところが、この名前を入れさせるということだけで、問い合わせが半減してしまうという統計が出ている。したがって、この場合、フォームから名前を記入させることをやめさせるだけで、問い合わせが倍になり、その結果、ウェブサイトの有効性が倍になるといえる。このように、ちょっとした配慮によってウェブサイトの有効性を改善する余地はたくさん存在する。

日本におけるウェブによるマーケティング、セールス、サポート等は、まだまだこれからである。ウェブによってユーザーから得られる情報、フィードバックも企業にとって極めて重要である。数年前に構築されたウェブサイトは再度見直し、ユーザビリティを重視した、企業にとって本当の意味で、マーケティング等に有効なものにすることを今、是非検討すべきである。

(01-9-1)


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