インターネット音楽流通と著作権

米国では、ここのところインターネットによる音楽流通が、音楽業界を大いにゆるがしている。一般家庭へのインターネット接続のスピードも確かに速くはなっているが、米国でもいわゆる本格的な高速インターネット接続であるケーブルモデム(ケーブルテレビのケーブルを利用した高速インターネット接続)や、既存の電話線で高速接続を可能にするDSL(Digital Subscriber Line)という技術が大きく広まっているというわけではない。むしろ音声の高度な圧縮技術の進歩によって、インターネットによる音楽流通が技術的に実現している。

中でも、MP3(Motion picture experts group, Audio Level 3の略)と呼ばれるデータ圧縮方式がその中心となっている。これが広がり始めたのは一九九八年頃である。当時はMP3を使って圧縮された音楽がインターネット上のいたるところで見つけることが出来、皆そのようなウェブサイトから好きな音楽をダウンロードして、自分の好みのCDなどを作ったりしていた。この中には著作権法上問題のあるものもあり、その後は著作権に触れないものだけがインターネットでダウンロード可能となっている。

著作権の問題はあったものの、このMP3による音楽流通(というよりも、この段階ではユーザーによるダウンロードといったほうが正しいかもしれないが)は、インターネットでの音楽流通が既に可能であり、実際に行われはじめているということを証明した。

MP3ダウンロードの中心となったのは、MP3.comである。MP3.comは、その後My.MP3.comというサービスをはじめ、個人で既にCDを購入した曲については、その個人にインターネット経由でダウンロードして、その曲を聴く権利があるはずだと主張していた。これに対し、CD会社大手5社は、著作権侵害であると、MP3.comを今年1月に訴えた。そして、4月には裁判所がMP3.comに対し、My.MP3.comのサービスを停止するよう命令し、CD会社側の勝利に終った。

その後、大手5社の内、4社はMP3.comと正式な契約を結び、MP3.comは費用を払いながら、公にこれら4社の持つ曲をMP3.comで提供できるようになった。実際、この4社は、My.MP3.comの方式自体は気に入っており、そのサービスから何らかの収入が得られれば問題ないという姿勢であった。しかし、最後の1社、Universal Music Groupは、裁判に訴え、その結果、この9月にUniversal Music Group側が勝訴したため、MP3.comは、他の4社に支払った額よりもはるかに高い額をUniversal Music Groupに支払うはめになった。

音楽流通のビジネスモデルとして重要な課題は、どのような価格付けをしてインターネットで音楽を流通させるか、既存の小売店との関係をどのように扱っていくか等である。

さて、MP3だけでも右往左往している音楽業界に、更なる難題が現れた。Northeastern Universityに当時在学中のShawn Fanningが始めた、個人個人が持っているコンピューター上の音楽ファイルを自由に交換させるウェッブサイト、Napsterである(データ圧縮にはNapsterもMP3を使っている)。特に宣伝らしい宣伝をしていたようには記憶していないが、Napsterは一年以内に既に2,000万人以上が登録していると言われている。これは、インターネット・アクセス・プロバイダー最大手のAmerica Onlineのメンバー数にも匹敵する数字である。

これに対し、音楽業界は著作権違反であると提訴し、一時はNapsterに対し、裁判所からサービス停止命令が出されそうになったが、とりあえず直前でそれはまぬがれ、現在、双方の意見聴取が行われているところである。Napster(および類似のサービスを提供しているウェッブサイト)を野放図にしておくと、著作権を中心にビジネスを行っている音楽業界に致命的な打撃を与えかねないので、当然である。音楽業界だけではなく、音楽を作り、演奏し、歌うアーチスト達にとっても大きな問題である。

しかし、Napsterのやっていることは、誰がどんなCDを持っているかを教えてくれるディレクトリー・サービスであり、Napster自身、音楽のソースを持っているわけではない。そして、ユーザーはNapsterで誰が自分のほしい曲を持っているかわかると、それをその人のPCのところにインターネット経由で行ってもらってくるのであり、そこにNapsterは直接介入しない。はたしてNapsterを著作権違反に追い込めるかどうか、微妙なところである。

おまけに、CDやカセットテープなどは、個人使用のためならコピーしてもよいという決まりもある。この難しい問題に、10月2日に裁判所は、裁定を出さないままその日の法廷を終えてしまった。

MP3やNapsterの問題は、今のところほとんど音楽の世界に限られているように見えるが、これは、インターネット経由でコピーが出来るすべてのものにかかわる問題である。ゲームを含むコンピューターのソフトウェア、さらに将来、高速インターネットが一般的に普及すれば、映画などの動画にも当然波及する。また、最近話題になりはじめている、手のひらサイズのコンピューターなどに電子版の本をダウンロードして読むエレクトロニック・ブック(通称e-ブック)にも影響してくる。

そう考えてくると、単に便利だからといって、著作権を無視してインターネットで何でも簡単にコピーできるようにしてしまうのは、大きな問題である。音楽業界等、業界利益の問題も勿論あるが、もっと大きな問題は、アーチスト等、著作物の印税を収入としている人達への問題である。彼らに印税収入が入らなくなると、将来優れた作品が世の中に出て来ない可能性すらある。そもそも著作権とは、このような人達の権利を守っているものだからである。

このように、新しく出てくるインターネットを使った音楽等のデジタル・コンテンツ流通システムは、著作権の問題をきちっと解決していくことが、その健全な発展のために必須である。しかし、技術的にはNapsterの方式は、インターネットによるデジタル・コンテンツ流通の有力な方法の一つであり、Peer-to-Peer(P-to-P)などといわれて、大手企業のIntelやIBMなども、この技術のより幅広い使い道を探っている。今後もデジタル・コンテンツ流通に、さらに新しい方式が出てくることが期待される。

(00-10-1)


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