最近の米国での話題と言えば、もちろんニューヨーク、ワシントンDCでの同時多発テロであり、9月11日からの1−2週間は、米国全体が暗いムードであった。日本人の行方不明者もかなりおり、読者の皆様の関係者で被害にあった方々に対し、哀悼の意を表します。私の会社に一年半ほど前に数ヶ月働いていた人も、たまたま出張でニューヨークに行き、その時間にツインタワーの104階あたりで会議をやっていて、難に合った人もいる。テロの撲滅は非常に難しいであろうが、何とか今回の事件を機に世界中の国が立ちあがり、テロ撲滅へ努力してほしいものである。
さて、テロ事件でIT不況もさらなる打撃を受けてしまったが、そもそも今回のIT不況の源は何なのか、そして、どうしてそれが広がっていったのか、というのが、最近のシリコンバレーでの話題である。インターネットによるe-革命を先導してきたインターネット関連ベンチャー企業(中でもe-コマースを中心とするドットコム企業)がウォールストリート(株式市場)の態度急変(赤字を出していても売上さえ伸ばしていればいいという見方から、利益を出さないといけないという見方に変わった)に伴い、苦戦を強いられ、次々と倒産、リストラによる業務大幅縮小に陥った話は7月にも書いた。しかし、そもそもインターネット関連ベンチャー企業に、何故あれほどのお金がつぎ込まれたのか、が大きな問題である。
この状況に対し、ベンチャー・キャピタル会社のインターネット関連ベンチャー企業への安易な投資に批判が集まっている。先日出席した、あるパネル・ディスカッションでも、そのことが話題になった。ベンチャー・キャピタリストは、インターネットの急激な発展をみて、読みを誤ったと言っている。確かにインターネットは当初、市場調査会社による予測をはるかに上回る早さで、異例の発展をした。インターネットのユーザー数しかり、e-コマースしかりである。
しかし、いわゆるインターネット株バブルが膨らんできた頃は、もはやインターネットの将来性がどうの、ということよりも、ともかくインターネット関連ベンチャー企業に賭ければ、必ず儲かるという状況になった。そのため、緻密な将来予測などやらず、ともかく競ってインターネット関連ベンチャー企業に投資するという環境になってしまった。ベンチャー・キャピタル会社というものは、今までベンチャー企業の事業計画を精査し、慎重に慎重を重ねて出資を決めるものであった。それが、事業計画の精査どころか、紙の上での事業計画をベンチャ―・キャピタリストが作ってあげ、投資を正当化するまでにいたっていた。これは私の知り合いでベンチャーを起こした人間の生の声であるから、間違いない。
このインターネット・ブームで、従来からのベンチャー・キャピタル会社だけでなく、新たにベンチャー・キャピタル会社を起こす人、会社も多く、新規参入組は、なおさらこのような雰囲気が強かったと思われる。何故このように、ベンチャー・キャピタル会社は安易な投資を続けたのか。それは、このような安易な投資をしても、大いに儲かったからである。この点について、ベンチャー・キャピタル側は、自分達に対する責めもわかるが、自分達がこのような対応をとったのは、市場がインターネット関連株に過剰反応し、インターネット関連ベンチャー企業のビジネス状況や将来性を無視して投資し続けたからであると言っている。つまり、ベンチャー・キャピタル会社は集めたお金をベンチャー企業に投資して、その企業が株式上場して利益を上げればいいわけで、ただそれを実行しただけという訳である。昔はそのために、投資する会社を精査し、慎重に投資先を決めていたが、インターネット株バブルのときは、ともかくどんどん投資し、早く株式上場させればいいというふうに、世の中が変わったので、それに合わせた、ということである。
ベンチャー・キャピタリストの連中も、さすがにこのようなことを正直には言わないが、今回のインターネット株バブルと、その崩壊で、最終的に儲かったのか、という質問に対しては、儲かったという答えが返ってきていることからも、この推測が正しいと判断出来る。その結果、インターネット株バブルとその崩壊で、ベンチャー・キャピタルはお金を儲け、それにうまく乗って株式上場させた会社の人達も大いに儲けた。しかし、遅れて株式投資をはじめた一般の人達は、大いに痛手をこうむったということになる。
日本の10数年前の、土地や株バブルの時も、儲けた人もいれば損をした人もいる。儲けた人達も、土地や株が、本来の価値より明らかに高過ぎると承知しながら、バブルのゲームで儲けようとしたということであろう。
このようにベンチャー・キャピタル会社や一般投資家のインターネット関連ベンチャー企業への過剰な投資からバブルが生まれ、その崩壊とともに、これらベンチャー企業の多くは、資金難に陥って、倒産や大幅縮小を余儀なくされた。そしてこれらインターネット・ベンチャー企業相手にビジネスをやっていた企業も、多くの顧客を失い、連鎖反応を起こして倒産や業務縮小に陥った。最初の破綻は、単なるインターネット上のe-コマースという、誰でも安易に参入できる市場で過当競争が起こり、これらの企業が利益を上げられないばかりか、損失が拡大するのを見て、市場がこれらドットコム企業を見放したところから起こった。そして、これらドットコム企業相手にビジネスを展開していたe-ビジネス・ソリューション構築会社や、ウェブ・ホスティング等を提供するインターネット・データセンター(IDC)なども、次々に苦境に立たされた。IDC大手のExodusも、つい最近、会社更生法の適用を申請するにいたった。
このような、ドットコム企業に端を発したIT不況であるが、もう一つ、大きな震源がある。それは、通信サービス会社による過剰投資から来るものである。実は企業のレイオフの規模から言うと、こちらのほうが、ドットコム企業のものより、はるかに規模が大きい。日本のIT不況を起こす原因となったのも、むしろこちらのほうである。
通信サービス会社もインターネットの急激な発展にビジネス・チャンスを見、通信設備増強に多くの投資を行った。また、DSLなどの高速通信サービスを提供するベンチャー企業もいろいろと現れ、ここにもベンチャー・キャピタル会社が多くの安易な投資を行った。その結果、ドットコム企業間で過当競争が起こったように、通信設備が過剰になってしまった。一説によれば、敷設された光ファイバーのうち、使用されているのは、その一割にも満たないとのことである。このような豊富な通信設備は、将来的には極めて有効なものであるが、短期的には企業収益を圧迫する。そのため、通信サービス会社も業務縮小、新規投資の大幅カット、ベンチャー系企業は倒産に追い込まれるなどの状況となった。
通信サービス会社が苦境に陥ると、当然通信機器メーカーに大きな影響が出る。大手のCisco、Lucent、Northern Telecomなどが、大幅な人員削減に走ったのは、このためである。そして、これら通信機器メーカーの苦境は、さらに半導体、部品メーカーへと広がった。半導体は、さらに半導体製造機器メーカー等へと波紋が広がった。日本の大手ITメーカーに大きな影響が出たのは、このあたりである。最初に述べたドットコム企業から来るものは、極めて少ない。
日本の場合は、さらに別な事情として、携帯電話の市場の伸びが今までほどではなくなってきたこと、パソコン需要も一巡してきたこと、さらに、コンピューター・メーカーでは、ハードウェア中心からソフトウェアやサービス・ビジネスへの移行を十分にやって来なかった「つけ」がついにきたという面も大きい。このように、日本と米国のIT不況には、共通な面もあるが、かなり異質な面も多い。
すでに何回かのレポートで書いたので、詳しくは述べないが、IT不況と言っても、ITの使われ方が縮小し始めたとか、重要性が低くなったということでは決してない。インターネットによる世の中の大きな変革も本物である。目先のIT不況という言葉に翻弄されず、その中身を理解し、これからのITの重要性を見失わないように注意する必要がある。
(01-10-1)
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