投票の結果は、恐らく皆さんもご存知の通り、リコール成立(約54%がリコール賛成)、シュワちゃん(Arnold Schwarzenegger氏)が予想以上の差(48%以上を得票し、2位の候補者に16%もの差)をつけて新カリフォルニア州知事に当選した。
リコールというものは、民主主義の発展した米国でもそれほど頻繁にあるものではない。米国の歴史を見ても、州知事のリコール成立は、1921年ノースダコタ州でLynn T. Frazier氏がリコールされて以来、わずか2回目である。
そもそも何故今回現職知事のGray Davis氏はリコールされるはめになったのか。大きくは2つの理由がある。一つはここ数年の経済状況の悪化に伴う州財政の急激な悪化に対し、対応が悪かったことが上げられる。もう一つは、昨年大きな問題となったカリフォルニア州の電力問題に関し、これまた対応が悪く、電力不足による大停電等の大きな混乱はなかったものの、逆に高価な電力を外部から多く購入し、州民に大きな損失を与えてしまったことである。
経済状況の悪化は、単にカリフォルニア州だけではなく、米国全体にわたるものであるが、なかでもインターネット関連のバブルがはじけ、大きな打撃を被ったシリコンバレーを擁するカリフォルニア州に、その衝撃が大きかったことは否めない。このこと自体を州知事の責任というには無理があるが、その結果生じた州の大幅財政赤字に対する対応が悪かったということである。
具体的には、州民にひどく評判の悪い自動車登録税の大幅値上げ、そして、なりふりかまわぬ予算カットである。予算カットは、われわれの身近でもいろいろと起こっている。例えば、大学に行けない人のためのコミュニティー・カレッジ(ここで2年間で必要な単位を取ると、通常の大学の3年に編入できる)でのクラスが削減されたり、子供の学校の音楽のクラスがなくなってしまったりと、日本ではちょっと考えられないようなことが簡単に起こってしまう。
また、一時は、議会でいろいろなコストカット案を通過させるための脅しでもあったと思うが、もしそれが通らないと、警察官や学校の先生の給料を米国で許可されている最低賃金(Minimum Wage)にしなければならない、などという話も出て、大変空恐ろしい状況であった。
このような状況に加え、電力問題での失態、またこの電力問題を含め、知事が特定グループ(special interest group)の味方をするために、州の財政を犠牲にしているといううわさも飛び、州民の怒りがついに爆発したというところだろう。このめったにないリコールという状況に、ポルノ女優まで含め、実に135人も知事選挙に立候補し、あまりの馬鹿さ加減にカリフォルニア州民も恥ずかしい思いをしていた面もある。
選挙戦当初はSchwarzenegger氏も圧倒的優位ではなく、もう一人の共和党候補(Tom McClintock氏)と票の取り合いになり、その結果、民主党の候補(Cruz Bustamante氏)が勝つのではないかという予想があったときもあったが、Schwarzenegger氏がその知名度にものを言わせ、また、いわゆる専門の政治家(carrier politician)ではない点を強調したのがよかったと見えて、結果的には大きな差をつけて勝つことになった。Schwarzenegger氏が強調した、「州民対政治家("The people vs. the politicians")という構図がうまく州民の気持ちを捉えたのだろう。彼は「州民が勝利するためには、“いままでどおりの政治”が負けなければならない(“For the people to win, politics as usual must lose")」とも言っていた。
Schwarzenegger氏の手腕はもちろん未知数である。州の赤字は80億ドル(約9,000億円)といわれ、場合によってはもっと大きな額かもしれないと言われており、これを公約どおり、自動車登録税を上げず、教育費をカットせずに解決するのは、容易なことではない。しかし、それでも彼に投票した人が多かったのは、ともかく現状を変える必要がある、そして、プロの政治家でなくてもいいから、特定グループの味方をするような専門政治家には引き下がってもらいたいという強い思いだろう。
ちなみに、Schwarzenegger氏はほとんど政治の経験がないことは確かだが、夫人のMaria Shriverさんは、故Kennedy元大統領の姪ということで、以前から政界入りを考えていたのかもしれない。ただし、Schwarzenegger氏は共和党から出ており、Kennedy一家は皆、民主党だから複雑である。もっとも、このことがSchwarzenegger氏が民主党の強いカリフォルニア州で、民主党支持者からの得票も多く得た理由の一つと考えられる。
選挙戦の終盤で、突然Los Angeles Times紙がSchwarzenegger氏の15〜20年前のセクシュアル・ハラスメントに関する記事を出し、一時大きな話題となったが、投票を左右するほどには影響せず、選挙民にはむしろDavis陣営の苦し紛れの選挙戦術(事実かどうかは勿論不明)と映ったのかもしれない。
素人知事が成功するとばかりは限らない。米国でも、1998年にミネソタ州知事になった、プロレスラーのJesse Ventura氏は、あまり大した業績も残さず、1期で知事の座を下りている。勿論その対局には、俳優からカリフォルニア州知事になり、最後は米国の大統領になったRonald Reagan氏がいることは言うまでもない。
今回のカリフォルニア州知事選挙は、日本の状況にも大いに通じるものがあるのではないだろうか。長野県で田中知事が当選し、一度は議会の反発を受けて辞任したが、それでも県民は田中知事を選んだというのは、やはり特定グループの味方をするような専門政治家ではない、県民のために動く素人知事にやってもらい、世の中を変えてもらいたいという気持ちからであろう。
日本ではこれから衆議院議員選挙であるが、日本の現状を改革しようと小泉首相は叫ぶが、その小泉首相率いる自民党は、まだまだ特定グループの味方をする専門政治家の多い政党に見える。小泉首相には改革を推進してもらいたいが、自民党に投票して、本当にそれが実現するのか。今回も選挙民にとって、わかりにくい選挙のようだ。
(10/01/2003)
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