近隣地域へのGoogle効果

シリコンバレーは、ご存知のようにITやバイオ等の先進ベンチャー企業の宝庫であり、それら企業が近隣地域へもたらす影響は大きい。シリコンバレーは100万人近い人口のSan Jose市を除くと人口数万人規模の小都市も多く、その町でビジネスを行うベンチャー企業の栄枯盛衰は、市の財政や、近隣都市の各種ビジネス等に大きく影響する。

たとえば、1990年代後半のインターネット・ベンチャー・バブルの頃は、多数のベンチャーが起業し、その多くが資金も豊富に持っていたため、近隣地域はかなり潤った。当時は、ハイウェーを走る車も増え、渋滞する時間帯も長くなったりしていたが、それだけでなく、ベンツやBMWなどの高級ヨーロッパ車がかなり目についた。これは、いくつものベンチャー企業が株式上場(IPO)し、多くの従業員が多額のお金を手にして、このような高級車を多数購入したためであることは、言うまでもない。これら高級車を取り扱うディーラーなどでは、ビジネスが大幅に増え、歩合性中心の給料をもらっているディーラーのセールスマン達も、その恩恵に大いにあずかったわけだ。

オフィスビルにしても、その当時は借りる場所がないほど需給が逼迫したので、貸手のオーナー達も強気で高い値段でオフィス貸しに走っただけでなく、一部のオーナーは、ベンチャー企業の株式上場で得られる大きな利益の一部をほしがり、ストックオプションを要求したところもあった。ストックオプションをもらったのは、オフィスのオーナーばかりでなく、ベンチャー企業を支援する弁護士、コンサルタントなど、多岐にわたっていた。

バブルは2000年の途中あたりにはじけ、現在はハイウェーを走る車の渋滞も、昔と同じ程度に戻り、高級ヨーロッパ車も随分数が減ったように思う。一時に比べればかなりよくなったけれども、オフィスビルにいたっては、景気がある程度回復した今でも、まだまだ空きスペースが多い。

このように、しばらくベンチャー企業のIPOによる潤いの少なかったシリコンバレー地域だが、GoogleのIPO以来、Google1社だけで近隣地域社会に対する大きな効果が出ている。先日、地元有力紙のSan Jose Mercury紙に出ていた記事によると、2004年から2006年にかけてのGoogleの地域社会に対する効果は190億ドル(約2兆1850億円)以上とのことだ。これは、アイスランドやパナマ、バーレーンなどの国のGDPを越える金額というから、その額は並大抵のものではない。これに、いわゆる経済で言うマルチプレクサー効果を加えると、有に500億ドル(約5兆7500億円)と越えるのではないかと考えられている。

どこにどういう効果が出ているかというと、たとえば、Googleの所有する土地建物やコンピューターなどの資産に対する税金がSanta Clara郡に対して8億ドル(約920億円)近くあるとか、1艘65万ドル(約7500万円)もするカスタム・ボートがたくさん売れている、などという次第である。しかし、他のベンチャー企業の場合と少し異なる、Googleらしい効果というのもいくつか出ている。

たとえば、創業者のLarry PageとSergey Brinが電気自動車のベンチャー企業Tesla Motorsに出資するなど、地球温暖化防止など、グリーン指向のため、Googleは自社ビルにソーラーパネルを設置するのに今年5月に280万ドル(約3億2200万円)を投資し、ソーラーパネル会社に大きな利益をもたらしている。また、自動車よりも自転車ということで、1台1万5000ドル(約170万円)程度する高級自転車もかなり売れているらしい。

ベンチャーのIPOで儲けたお金で高級住宅を買うということもよくあることだが、Googleの場合、当初は他のベンチャー企業のときのように、いわゆる高級住宅が売れたが、最近ではIPOも済んで、株価上昇もそこそこのため、中級レベルのものを中心に売れているとの話だ。といっても、ここで言う高級住宅は1,000万ドル(約11億5000万円)級、中級レベル住宅は200-400万ドル(約2億3000万―4億6000万円)レベルということで、われわれ庶民とは次元の違う話だ。

また、Googleは、いつでも社員が無料で食べることができるカフェテリアを持つことでも有名だが、その中にはヨーロッパからの高級食材も使われているようで、それらの輸入業者、さらには、その生産地であるヨーロッパのいろいろなところまでGoogle効果が波及している模様だ。

しかしながら、このようなGoogle効果も、すべての人にプラスの効果があるわけではない。中にはマイナス効果を被る場合もある。例えば、無料のカフェテリア、それに会社が大幅に補助して健康診断やマッサージを提供しているおかげで、近隣のレストランや医者、マッサージを行っているところで、Googleに入り込めなかったところは、逆にビジネス機会を奪われてしまっている。レストランなどは、単にGoogleの人達がお客として来ないというだけでなく、自分のレストランのシェフを高給でGoogleにスカウトされてしまったりと、そのマイナス効果が重大な場合もある。

Googleはビジネスの面でも、インターネット広告関連会社やサーチエンジン関連会社の評価額を上げたりと、その効果は多岐に広がっているが、上に見たように、地域社会への効果は極めて大きい。

Googleの創業者達は、IPOで得られた資金を自社の発展に使うだけでなく、地球温暖化防止など、社会的な貢献に使いたいと、早い時期から発言しており、注目される。MicrosoftのBill Gatesが最近Microsoftの本業の仕事からはなれ、社会貢献のための自分で作った基金運営にもっと時間をさくことにしたが、企業寄りの政策を堅持するBush政権に代わり、是非MicrosoftやGoogleの人達が、近隣地域だけでなく、世界レベルでこれからの社会にどんどん貢献してもらいたいものである。

(10/01/2007)


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