インテリジェント・エージェント


いつもの西海岸メディア・レポートでは、その時のシリコン・バレーの最新状況を色々と報告しているが、今回は少し趣向を変え、これからの技術として注目されているものの一つをご紹介したい。インテリジェント・エージェント、またはソフトウェア・エージェントといわれるものである。

一般にコンピューターに何か仕事をやらせる時にはプログラムを書いて実行する訳であるが、これには多くの手間と労力を要する。これをもっと身近に自分の秘書か誰かにものを頼むようにコンピューターに依頼したいと思うのは人間の当然の要求である。例えば、電子メールを秘書に代わりに読んでもらい、特定の内容のものだけ選び、緊急のものなら電話で連絡してもらいたい、と考えるかもしれない。また、インターネット上で何か情報を探すにしても、一つひとつのWWWページを自分で読みながら探すのではなく、誰かに頼んで最終結果だけほしいと思うかもしれない。そして、その事をコンピューターに依頼するのに、いちいちプログラムを書いたりせず、人間が話す言葉をそのまま理解してもらいたいと思うであろう。インテリジェント・エージェントとは、簡単にいうと、このような事をやってくれる、インテリジェントな、コンピューターのソフトウェアで作られた秘書のようなものである。

インテリジェント・エージェントと呼ばれるほどではなくても、例えばインターネットのサーチ・エンジンなどは、ある程度このような秘書的な手伝いをしてくれる。ただし、ここで紹介したいものは、サーチ・エンジン・レベルのものより、2歩も3歩も先を行くものである。このシステムはSRIインターナショナルが開発した、オープン・エージェント・アーキテクチャーと呼ばれるものである。

インテリジェント・エージェントのようなものは、本当はデモで実際に動いているのを見るのが一番であるが、ここではそのような訳にもいかないので、何とか言葉で説明を試みたい。デモは見せられないものの、概念的な話をしているだけではよくわからないと思うので、具体的にどんな事が出来るか見てみたい。

まず、手元にパソコン機能のある携帯端末があると想定する。これに小さなマイクがついているとする。さて、これに向かって“私にセキュリティに関する電子メールが来たら、電話ですぐに連絡して下さい”と頼んでおく。こちらからの依頼はこれだけである。こうしておくと、このインテリジェント・エージェントは到着する電子メールをチェックし、セキュリティに関するものが見つかったら、すぐに私の居場所を見つけ、電話をかけて知らせてくれる。何だか狐につままれたような感じであるが、実際、このようなデモを実施する事が出来る(ただし、今のシステムは英語のみであるが)。

もう少し中でなにが起こっているか説明してみたい。まず、“私にセキュリティに関する電子メールが来たら、電話ですぐに連絡して下さい”と音声で伝えた訳なので、まず、音声認識エージェントがこれを音声からテキストに変更する。次に、テキストに変更されても、まだ人間の言葉そのままなので、次は自然言語処理のエージェントがそれをコンピューターがわかる言葉に変更する。コンピューターがわかる言葉になると、電子メールをチェックしはじめなければならないので、電子メール・エージェントにこれを依頼する。すると、電子メール・エージェントは一つひとつの到着する電子メールをチェックしはじめる。

そして、セキュリティに関するメールが来たら、これを私に知らせるため、お知らせ担当のノーティファイ・エージェント(Notify agent)にその仕事を頼む。このノーティファイ・エージェントは私が今どこにいるか、スケジュール・エージェントに問い合わせる。そこで、この時間に私がEK101という部屋でミーティングをしているとわかる(私のスケジュールは事前に教えておく必要があるが)。そこで、今度はそこの部屋の電話番号を調べるため、データベース・エージェントに問い合わせ、内線番号が1234であるとわかる。

さて、電話で電子メールの内容を知らせるためにはテキストを音声に変えなければならない。そこで、これは音声合成エージェントに頼む事にする。電話番号がわかり、テキストが音声に変えられると、最後は電話エージェントが実際に私のいる部屋に電話をかけ、電話をとったのが私である事を確認の後、音声でメールの情報を伝えてくれる。以上である。

何だか裏方は結構大変なようであるが、使う側からは何も見えない。一番最初に説明した、狐につままれたような状況のままである。コンピューターに詳しい人なら、こんな事をすべて携帯端末で出来る訳がない、と思われるかもしれない。おっしゃる通りである。実はそれぞれのエージェントは自分が動きたいコンピューターで動いている。したがって、あるエージェントはパソコンで、また別のエージェントはワークステーションで動いている。そしてこれらがネットワーク上でうまくつながり、お互い連携しあって仕事をこなしているのである。

この分散化され、オープンなことが、このシステムの大きな特徴である。このシステムの他の特徴としては、既存のソフトウェアがそのまま使える事、エージェントは自由に入れ替えが出来る事、質問内容が固定されていない事(例えば、先ほどの例で、セキュリティ以外のなんでもよい)、入力方式としては音声以外にも、ペン入力、ジェスチャー(ペンで画面上のものに丸をつけるなど)、キーボード入力、また、それらのコンビネーションも使えるようになっている、等があげられる。

なお、このシステムに興味がある方は、一度SRIインターナショナルのWWWページで詳しい説明を読んでみていただきたい。URLはhttp://www.ai.sri.com/~oaa/である。

このエージェント・システムに限らず、ソフトウェアの世界は、まだまだ新しいものが沢山出てきそうである。ソフトウェアを中心に、(勿論それを支えるハードウェアも大切だが)情報通信産業はまだまだ発展しそうである。

(10/01/96)


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