外部からの見方が必要な日本企業


昨今の日本の新聞をにぎわしているものといえば、証券会社の総会屋との不正取引、銀行による不正融資のニュースであろう。この一連の事件から、最近よく聞く言葉として、企業統治というものがある。このような不正が、今後起こらないようにするためにはどうすべきか、という観点から、企業統治の重要性が大きく叫ばれている。

その中で出てきている監査役制度の強化、なかでも外部監査役の導入という議論はもっともな議論であり、そのような方向で進められるべきであると思う。しかし、最近の証券不正は企業トップの深くかかわっている不正であり、単に外部監査役を導入したからといって、外部監査役がトップの不正の可能性について常に詳細な調査を、しかもその企業の協力なしに出来るとは考えにくく、この問題が外部監査役の導入で解決する問題とは考えにくい。これはむしろトップの倫理感にかかわる問題であろう。

この外部監査役の不正防止に対する効果については、必ずしも肯定的ではないが、日本企業が企業経営するにあたって、外部からの見方を取り入れるべきであるという点については、多いに賛成である。そもそも日本企業は外部からの血がほとんど入っていない純血に近い企業が多い。まず、新入社員のほとんどは学校卒業と同時に入ってくる。最近中途採用も増え、多少状況が変ってきたといっても、まだまだ大企業の場合、若手社員の中途採用が中心で、他社で経験のある有能なマネジメントを中途採用するという動きは、ごく一部を除き、ほとんど行われていない。

その上、取締役会はすべて身内で固められており、外部からの取締役が入っている企業はほとんどない。ご存じのように米国企業では取締役のほとんどが社外の人間であり、内部の人間としては会長、社長だけであったり、それ以外の人が入っていても、あと数人程度である。ただし、この米国のやり方がいいかというと、これにも私は疑問があり、株主の代表であるという意識が強過ぎるこれら社外取締役によって、短期的な株価向上のための短期的な利益の追及などの弊害が出ている。また、このような短期的な利益向上に貢献しない経営者の首を簡単にすげかえ、膨大なお金をかけて、突然外部から社長をもってくるというのも、過去の結果を見ても、必ずしもよい結果ばかりが出ているとはいえない。

しかし、日本の、特に大手企業はあまりに純血過ぎて、物の見方、考え方が片寄りすぎてしまう傾向が強い。自分達の論理がそのまま世の中で通ると思ってしまったり、本当の世の中の動きが見えなくなってしまう場合も多々ある。今までの右肩上がりの経済成長、規制によって安定したビジネスを行っていたような環境では、このような状況でも大丈夫だったかもしれない。しかし、昨今の規制緩和の流れ、今後も低成長が予想される経済環境、またインターネットに象徴される環境の大きな、そして急激な変化の中では、もはやひとりよがりな考え方では、とても競争社会を勝ち抜いていくことは出来ないであろう。

外部の見方を取り入れる一つの方法として、社外取締役の採用はもはや必須といっても過言ではないのではなかろうか。それも、単にかざりのように顔を連ねるためではなく、本当の意味での外部からの物の見方、考え方をその企業の経営に反映させるための社外取締役が必要なのである。外向けの宣伝のために“わが社には社外取締役がxx人いる”などと言っておいて、いざ取締役会となると、それら社外取締役にあまり問題を起こすような発言をしないようになどと頼んでいるようでは、一体何のための社外取締役かということになってしまう。くれぐれもそのようなことのないようにしたいものである。

しかし、先ほども言ったように、米国流にほとんどの取締役を社外の人間でかためるというのも、色々と弊害が多く、これは勧められない。まずは数人の社外取締役からはじめ、最終的には取締役の半数前後を社外取締役にするのが理想的ではないかと私は思う。そういう意味で、最近ソニーがそのような形の取締役会をめざしているのは注目される。

また、社外取締役は単に数がいればよいというものではなく、本当に会社のために真剣に考えてくれる人、また、会社のために役立つ外部からの物の見方、考え方の出来る人材でないと、意味のないものとなってしまうことは、言うまでもない。具体的には、その会社が事業を行っている業界のなかにいながら、違う立場で活動している人、例えば、同じコンピューター通信業界でも、ハードウェア、ソフトウェア、サービス、そのなかでもいくつかに市場は細分化されるが、そのような“近いが同じではない”市場関係者はひとつの有力なグループである。このような人間が真剣にこの企業のことを考えてくれれば、より幅広い業界の見地からの物の見方が得られ、その企業にとって多いに役立つであろう。

注意すべき点としては、お互いの事業が競合してはいなくても、どこかで利害関係が発生することは十分考えられ、そのような状況が発生した場合、その社外取締役がどのような立場をとるかである。そういう意味では、最近のアップル社の社外取締役陣には、データベース・ソフトウェア大手のオラクル会長であるラリー・エリソン等が含まれているのは注目される。

この他にも、その会社のユーザー的な立場のとれる人、また、業界知識等にとらわれず、企業経営全般や企業倫理について、大所高所から意見を出してもらえる人も、有効であることはもちろんである。さらに、その産業全体が外国にリードされているような場合、例えば情報産業における米国のような場合、米国に住んでいる人間からの物の見方を取り入れることは大きなメリットがある。

外部からの物の見方、考え方を取り入れるという意味では、外部コンサルタントの利用も多いに役立つ。トップ・マネジメント向けに限らず、各事業部レベルでの経営判断、研究開発の方向ずけなどにも、その業界、市場動向、関連技術などに詳しい社外コンサルタントの果たせる役割は大きい。ただし、取締役会での判断をあおぐような問題については、外部コンサルタントはそこに意見を入れ、決定に影響を与えることは出来ても、最終的な取締役会での議論に参加することは出来ない。そういう意味では、社外取締役、外部コンサルタント両方の活用が、今後日本企業にとってさらに重要となってくるであろう。

(10/01/97)


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