日本ではまだそれほど騒がれていないように思えるが、米国ではこれが大きな問題となっている。私は仕事の関係上、3つのEメールアドレスを持っているが、そのうちの一つなど、毎日50以上、最近は100近くものSPAMが送られてくる。もちろんいちいちそれらのSPAMを開いて読んでいたのでは、半日くらいが無駄になってしまう。
ここまで多くのSPAMが来る人ばかりではないかもしれないが、本来のメールの数よりも多いSPAMを受けている人は決して少なくない。これは、個人でもそうだが、会社のEメールでも同じで、大きな問題となっている。最近のメールは単なるテキストだけでなく、写真などのイメージ情報も入っているため、これらSPAMがインターネット全体に及ぼす影響も少なくない。現在のインターネットの通信トラフィック量の40%はSPAMだというある調査結果も出ている。こんなもののためにインターネットのスピードが遅くなったのでは、たまらない。
インターネットが広がり始めた1995年、私は「インターネット・ワールド」(丸善ライブラリー)という本を書いたが、その中で、このような話を書いている。「インターネットには暗黙のエチケット(またはネチケット:Netiquette)がある。その最も大切なものの一つとして、電子メールで一方的な広告を受け手に無断で送ってはならないというものがある」。また、当時このネチケットを破ったアリゾナ州の法律事務所が大量の抗議文を受け、その会社のインターネット・アクセスを、プロバイダーが中止したという話も書いている。今から思えば、古きよき時代の話というところである。
SPAMに対する対策が何もない訳ではない。コンピューター・ウィルスにアンチウィルス・ソフトウェアがあるように、SPAM対策用のアンチSPAMソフトウェアも出てきている。アンチSPAMソフトウェアには大きく2つのタイプがあり、一つは受信メールのうち、SPAMらしきものを判別してフィルターしてくれるもの、もうひとつは自分が受けてもいいメールだけを受け付けてくれるものである。
第一の方法は、SPAMの発信アドレスと思われるもののブラックリストを持ち、そこから来るメールをSPAMと判断するもの、メールのタイトルや内容を見て(例えば、Viagraという言葉とSaleという言葉がある等)SPAMと判断するもの、さらに複雑なAIを用いてSPAMを判断するもの、また、これらのテクニックの組み合わせでSPAMを判断するものなどがある。
このようにしてSPAMと判断されたものには、**SPAM**というしるしをつけてそのままメールボックスに入れるか、別なSPAM用の特別Folderに入れるか、あるいは、そのメールの発信者へそれを送り返すということも出来る。これらはユーザーが事前に決めておく。これはSPAMと判断されたものが100%SPAMとは限らないからである。つまり本当は知らない人からのSPAMではなく、自分の知っている人からのものなのに、アンチSPAMソフトウェアが勝手にSPAMと勘違いすることがあるからである(これをFalse Positiveという)。勿論、この逆に本当はSPAMなのに、アンチSPAMソフトウェアがそのように判断せず、通常のメールボックスに入れてしまうものも当然出てくる。
第二の方法は、Eメールを受け取ってもいい相手だけを登録しておき、あとは受け取らないという方法である。ブラックリストに対する言葉で、ホワイトリストというものを使う。こうすれば、SPAMは決してメールボックスに入ってくることはない。
しかし、ホワイトリストに登録していない人からのEメールで、本当は読みたいものがあっても、それは入ってこない。そこで、これらのはじかれたメールを入れておくFolderを作り、そこを自分でチェックして、本当は受けてもいいものは読み、自動的にホワイトリストに加えるというような方法をとることになる。これが面倒な場合は、ホワイトリストにないものは、一方的に返送してしまうということも、技術的には勿論可能である。
このようにSPAMに対するいろいろな自衛手段があるとは言うものの、十分なものとはいえない。実際、SPAMを発信する側も、アンチSPAMソフトウェアを欺くような方法をいろいろと考えて対抗してきており、いたちごっこの様相を呈している。
そこで、米国では36州がSPAM対策法案を通した。カリフォルニア州は、1998年に成立させた法律に加え、さらに厳しいSPAM対策法を通過させ、来年1月から施行される予定である。これによると、SPAMメッセージ1件につき$1,000の賠償をユーザーは発信者に要求することができるようになる。
米国連邦政府も、つい最近、上院でSPAM対策のための法案を可決し、下院で審議されることになった。これは、すでに法案の通っている、電話による物品販売勧誘を防止するための法案に似ている。 これは、“Do Not Call”(電話しないでほしい)登録をしておくと、電話による販売業者がそのような家庭に電話をかけることが許されず、違反した場合は、罰金を取られるという仕組みである。これに倣い、"Do Not SPAM"登録をしてもらおうというわけである。もしこのようなものが出来れば、それに登録すると言っているユーザーは70%を超えている。
これらのSPAM対策法案が実効を上げられるかどうかは、意見の分かれるところであるが、つい最近、SPAMを不特定多数に送っていた2人が1998年のカリフォルニア州で成立した法案をもとに訴えられ、裁判所は$2Million(約2億2千万円)の支払いを命じた。一つ一つのSPAMの発信源を突き止め、支払いを命じるのは難しくても、このような裁判結果により、SPAMを出す人達が、自主的に減少することを期待している。
このような法律によるSPAM対策にも大いに期待したいが、それでもすぐにSPAMがなくなるということはなさそうなので、当面の対処方法としては、自分にあったアンチSPAMソフトウェアを利用し、またSPAMに対しては、決して返事をしない(2度と送らないようにという返信メールも、単にそのアドレスが存在することを相手に確認させるだけで、かえってSPAMを増やす結果になるだけである)というところであろう。
ユーザーとSPAMを送る人達との戦いは当分続きそうである。
(11/01/2003)
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