スマートフォンで強豪3社出揃う

10月11日、MicrosoftはWindows Phone 7を搭載したスマートフォンを9機種発表した。AppleのiPhoneからはじまり、GoogleのAndroid OSを搭載したスマートフォンが登場し、遅ればせながらMicrosoftのものが、ここに登場した。これで今、IT業界、さらにはコンシューマー・エレクトロニクス業界をソフトウェアでリードする3社が、スマートフォンでも本格的に競合することになった。スマートフォンでは、他に以前からBlackberryで有名なResearch In Motion (RIM) という有力な企業もいるが、スマートフォン以外のパソコン、タブレットPC、テレビとインターネットの融合等を含めたIT機器という見方をすると、この3社に競合が集約されている。

Microsoftは、以前から携帯端末用にWindows Mobileを提供していたが、これはAppleのiPhoneやGoogleのAndroidに比べると、一世代前のものという感があり、市場シェアもどんどん低下の一途をたどっていた。8月までの3ヶ月の平均では、comScore社の調査結果によると、Appleの24%、Googleの20%に比べると、Microsoftは11%と差をつけられている。その巻き返しを狙ったのが、このWindows Phone 7だ。

Microsoftは、この分野で大きく遅れをとっているので、機能的に異なった特徴を持たせている。AppleとGoogleのものは、比較的機能やユーザー・インターフェース(最近は、使い勝手という意味で、User Experienceという言葉がよく使われる)が似ているが、Microsoftのものは、CEOのSteve Ballmer氏が「A Different Kind of Phone」と言うように、一味違っている。

具体的に違いを見てみると、最初に出てくる画面がまず違う。AppleやGoogleのものでは、アプリケーションが並んでいるが、Microsoftのものは、Live Tilesというものが並んでいる。一見アプリケーションと同じように見え、実際アプリケーションでもあるのだが、その表示内容が、自動的に変わる。たとえば、ニュースのアラートが自動更新されたり、Facebookの友達の状況も自動更新される。これらが、それぞれのアプリケーションを起動させなくても見ることができるのが特徴で、Microsoftでは、これをStart Experienceと言っている。

また、Microsoftならではと言えるのが、Microsoft Officeとの連携だ。EメールでのOutlookとの連携はもちろんのこと、Powerpointのプレゼンテーションを見たり、編集したりすることができる。ノートパソコンまで持ち歩かなくても、オフィスの延長として、ある程度使える点は、仕事でMicrosoft Officeを使っている人には、便利な機能だ。

画面がタッチスクリーンで、ソフト・キーボードだったり(ハードウェアとしてキーボードが付いているものもある)、アプリケーションをダウンロードして使う等の機能はAppleやGoogleと類似している。カメラについても同じだが、カメラで撮ったものをすぐにアップロードするための機能など、使いやすさ、user experience向上に努力したあとが見られる。

また、サービスの面でも、AT&TのU-Verse Mobileアプリケーションにより、テレビ番組をいろいろ見ることができるのも面白い。モバイル向けテレビ番組配信は、MoviTVなど、サードパーティからも提供されているが、AT&TとMicrosoftは、光ファイバーのIPTVによるU-Verseテレビ番組配信でパートナーシップを組んでおり、U-Verse Mobileが他社とは異なった独自のサービスを提供する可能性がある。

Microsoftの大きな課題は、後発なので、アプリケーションの数の少なさだ。今回の発表でMicrosoftは、多くのソフトウェア開発者がMicrosoft Phone 7用のアプリケーションを開発中とのコメントに留めているが、先行するApple iPhone向けの25万以上のアプリケーションや、Google Android向けの7万以上のアプリケーションに比べれば、かなり少ないところからのスタートになる。そのハンディを新しいuser experienceでどれくらい挽回できるかが注目される。

以前からMicrosoftは必ずしも新しいものを市場で最初には出しておらず、少し遅れて出しながらも、あとでその失地を挽回し、トップに立ってきた。今は当たり前となっているパソコンのグラフィック・ユーザー・インターフェース(GUI)も、もとはといえばAppleが始めたものであり、Windowsは後発だった。このときは、すでにMicrosoftのOS用に書かれたアプリケーションが数多くあり、企業で多く使われていたため、ユーザーはAppleに移行することなく、MicrosoftのWindowsを待ってくれた。

また、インターネットのブラウザーのときは、Netscapeが最初に世の中に広がったブラウザーだったが、その後MicrosoftがInternet Explorerを出し、MicrosoftのOSと一緒に出荷したため、一気に広がった。しかし、今回は、そのような力ずくによる失地挽回は難しい。本当の意味でMicrosoftの製品の良さが評価されないと、市場には受け入れられない。

いづれにしても、今回の発表で、スマートフォンの世界でも3社が出揃い、RIMを加えれば4社が競合する形であり、市場、ユーザーにとっては歓迎すべき状況だ。パソコンのOSのほとんどがMicrosoftに押えられたり、インターネットのサーチでGoogleが圧倒的なシェアを持ち続けているのに比べると、はるかに健全な姿といえる。今後少なくともこの3社が、ITの幅広い分野で競合し、さらに新しい企業が参入してくることにより、市場も技術もより発展していくことだろう。

ところで、今回のMicrosoftの発表した9機種の中に、日本メーカーのものは一つも入っていない。AppleのiPhoneはもちろんAppleが唯一のメーカーだし、GoogleのAndroidを搭載したスマートフォンにしても、日本では日本メーカーのものがいくつか発売されているものの、米国では、ほとんど発表もされていない。

携帯端末といえば、日本発と言ってもいいほど、日本が最初、世界に先行していた。にもかかわらず、スマートフォンの世界では、基盤となるソフトウェアに全く参加できていないだけでなく、ハードウェアのスマートフォン自体でも、米国では、その影が皆無に等しい。これでは世界市場でとても勝ち抜いていけない。何故このようなことになってしまったのか、日本のメーカーには是非戦略を立て直し、今後このようなことが、スマートフォンだけでなく、他のIT製品、コンシューマー・エレクトロニクス製品でも起こらないよにしてもらいたいと強く願っている。

(11/01/2010)


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