このコラムを始めて以来、毎年11月にはエレクトロニック・コマースについて書いているので、今年もこのことについて書いてみることにする。
今回は4回目になるが、エレクトロニック・コマース(その4)ではなく、インターネット・コマースというタイトルにした。今でもエレクトロニック・コマースという言葉はあるが、インターネットを利用したエレクトロニック・コマースという意味で使われはじめているインターネット・コマースという言葉のほうがより適切であると思うので、このようにした。エレクトロニック・コマースという言葉はスマートカードなどを使った電子マネーも含まれると思うが、実際、米国でホットなのはあくまでもインターネットを使ったエレクトロニック・コマース、すなわちインターネット・コマースだからである。
すでに昨年のレポートで、1995年から1997年の2年間の変化については述べたので、ここ1年の動きについて見てみたい。昨年も書いたようにインターネット・コマースはまず一般消費者向けよりも企業間の取引への利用が先行しているという状況があり、この傾向に大きな変化はない。しかし、企業間でのインターネット・コマースの普及度合は、1年前と今では大きな違いがあるといえる。
例えば、ネットワーク機器メーカーのシスコ社はインターネット・コマースを開始後わずか2年で、すでに売上の50%以上をインターネット・コマースで行っていると述べている。これは毎日の売上にして1千万ドル(約11-12億円)にものぼる。この例でもそうだが、インターネット・コマースは基本的に物を“売る”ためにインターネットを利用するということが最近までの中心であった。
しかし、ここ1年でまた新しいことが起こっている。それは“買う”ためにインターネットを利用することに焦点をあてた企業が増えてきたことである。もちろんシスコ社が製品をインターネット上で販売するときにも、それを買う側の会社、人があったわけだが、これはあくまで“売る”側が中心のインターネット・コマースであるといえる。“買う”側が中心のインターネット・コマースとは、買う側がそのためのシステムを用意し、幅広いサプライヤーから色々な製品を購入するというものである。
なかでも、最近注目されているのは、製造の直接原価にかかわらないもの、いわゆるMRO (Maintenance, Repair, and Operations)といわれる範疇のものの購入にインターネット・コマースを利用し、企業効率を向上させようというものである。MROの中には、文房具、机などの備品、コンピューターなどが含まれる。また、必ずしも物理的な製品ではなく、サービスの購入ということも考えられる。一見このようなもののコストは大したことがないように思われるかもしれないが、たとえばロサンゼルス郡の年間MROコストは数百億円にもおよび、仮にその10%が削減されただけでも数十億円のコスト削減となる。これら“買う”側のシステムとして販売されているソフトウェアも既にいくつかある。
このようなシステムの利用による利点は、購買のための事務コストの削減(インターネット利用により、効率化がはかれる)、購買価格の低下(複数競合メーカー製品を比較し、最も安いものを購入できる)、在庫費用の削減(在庫品の集中管理による在庫削減、注文から納入までのターンアラウンド・タイムの削減による在庫削減)などが上げられる。このような、“買う”側に立ったインターネット・コマース・システムは、これから多いに注目されるところである。
また、業界あげてのインターネット・コマースも注目されている。これはインターネット・コマースと呼ぶか、業界エクストラネットと呼ぶか微妙なところであるが、まあ両方が重なりあっているところというあたりだろうか。この具体的な例としては、自動車業界が行っているAutomotive Network Exchange (ANX) が有名である。今までは、自動車の各メーカーが、VAN (Value Added Network) などを利用し、EDI (Electronic Data Interchange) などを行っていたが、これを複数の自動車メーカーにより、また、インターネットを使用して実施するところに大きな特徴がある。まだパイロットが始まったばかりだが、その将来が注目される。
このように、企業間インターネット・コマースは企業のビジネスのやり方をいよいよ大きく変えようとしてきている。インターネット・コマースでいかに早く効率のよい企業運営が出来るかは、企業の将来の大きな鍵のひとつである。
一般消費者向けのインターネット・コマースも、すでに昨年来動きのあった分野で、その成長が目覚ましい。コンピューターのハードウェア、ソフトウェア、書籍、音楽CD、トラベル関連チケット、スポーツや演劇等のイベント・チケットなどの販売では、売上高がかなり伸び、既存の(インターネット以外の)販売方法をとっている企業に影響を及ぼすまでに至っている。
また、銀行や証券会社によるインターネット・バンキング、インターネット・トレーディングも、今や常識化しており、以前はこれが出来るのが差別化につながっていたが、もはやこれを実施していないと遅れをとるという時期に早くも来ている。 特に証券業界では、インターネット・トレーディングに特化したE*TRADE社などが低価格を売り物にシェアを伸ばしており、いままでの高い手数料を取ってビジネスを行っていたところは証券業界の恐竜(時代の変化に対応できず消滅した)になってしまうのではないかとまでいわれている。同じようなことがコンピューターのダウンサイジングが騒がれたとき、大型メインフレーム・コンピューターに対しても言われたが、メインフレーム・コンピューターは今でも消滅はしていないものの、コンピューター市場全体におけるシェアは以前に比べて大幅に小さくなっており、同様のことが証券業界にも起こる可能性が高い。
インターネット・コマースは1995-1997年の間は、騒がれたほどには発展しなかったという感じがあるが、今年はその流れが変わってきた。今まで川の支流のようにばらばらにちょろちょろと流れていたものが、いよいよ一つの大きな川となってきた感じである。しかし、本番はまだまだこれからという面も強く、インターネット・コマースがいよいよ急上昇カーブにさしかかってきたといえる。
(11/01/98)
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