インターネット30周年

インターネットが間もなく30周年を迎える。インターネットの起源は1969年11月21日、米国国防総省(Department of Defense)の傘下にあったAdvanced Research Projects Agency (ARPA) が全米各地に散らばっている研究機関の研究成果や情報を効率よく共有するために構築したネットワークARPANETの接続実験(カリフォルニア大学ロサンゼルス校とSRIインターナショナルの間)に始まる。1983年頃にインターネットと呼ばれはじめたこのネットワークは、その後しばらく研究者同士のみによって使われ、コンピューターに詳しい人間でないと扱えないようなものであった。また、米国政府の資金援助があったため、当初民間での使用は不可能であった。それが、1991年に民間に開放され、1992年にWorld Wide Web (WWW) の概念が登場し、1993年にブラウザーが登場して、素人でも簡単に使えるものとなり、その後の急激な発展はご存知のとおりである。

以前にも少し書いたかもしれないが、インターネットの利用はまず電子メールとファイル転送から始まった。アプリケーションとしては極めて単純なものであるが、それでもインターネットで世界中の人たちと、しかもそれぞれが持っているコンピューターの機種に関係なく、このようなコミュニケーションが出来るということは、それだけでも極めて大きなことである。実際、電子メールとファイル転送だけでも企業や個人の生産性は大きく向上した。今やビジネスマンにとって、電子メールは電話などと同様、もしかするとそれ以上に重要な道具となっている。

次にWorld Wide Web (WWW) が登場し、企業は一斉に自社のホームページを構築し、個人でもホームページを持つ人がたくさん出てきた。そして、そこで会社の紹介や、製品の紹介を行いはじめた。電子メール、ファイル転送をインターネット利用の第一段階とすると、これはインターネット利用の第二段階と言える。

米国では、このWWWの利用が、単に情報提供的なものにとどまらず、マーケティング、サポート・サービス、そして後で出てくるインターネット・コマースへと広がるわけだが、WWWが登場して間もない1995年頃は、米国でもインターネットの利用者が20-30才台の男性に偏っていたり、企業も皆がみんなインターネットを使っているという状況ではなかったので、この分野での発展には少し時間がかかった。

その代わりに米国企業が目をつけたのが、インターネット(またはインターネット技術)の社内使用、つまりイントラネットである。イントラネットは通常の情報システム構築に比べると、はるかに短い時間で構築でき、使用するコンピューターの機種も気にする必要がなく(それまでは異機種コンピューター間の情報システム作成には大変な労力を要した)、また、グラフィック・ユーザー・インターフェースで非常に使いやすかったので、あっという間に広まった。そして、企業はイントラネットの活用によって、社内の情報伝達の迅速化、情報共有による生産性の向上、紙のドキュメントの減少によるコスト削減等、多くのメリットを享受した。これがインターネット利用の第三段階といえる。

イントラネットで大幅に生産性が向上することを発見した米国企業は、今度はそれを関連企業や大手顧客、サプライヤーへと広げ始めた。いわゆるエクストラネットである。これがインターネット利用の第四段階といえる。エクストラネットは単に関連会社等との情報共有にとどまらず、取引のインターネットによる電子化へと発展していった。ここまで来ると次の段階のインターネット・コマースとどちらに分類するか難しくなる。

そして、最後は関連会社などに制限せず、あらゆる企業取引、消費者への販売にインターネットを使う、インターネット・コマースの段階(インターネット利用の第五段階)へと広がっていた。これは米国でもついここ1-2年の話であるから、1998年ころから本格化したといってもいいであろう。ここへ来てインターネット・コマースが大きく開花したのは、インターネット・ユーザーが大きく広がったことと深い関係がある。消費者では女性ユーザーも男性に負けないくらいに数が増え、年齢も若者から高齢者まで幅広くなった。企業ユーザーも、今やインターネットを使っていないなどという会社を探すのが難しいくらい、インターネットが当たり前の存在となった。

1993-1995年ころはインターネットをどれくらいの人が使っているかというような話題も多かったが、今は人口の何10%が使っているかというような話で、人数は大きくなりすぎて、それほど大きな興味の対象ではなくなった。米国では、経営幹部の64%がインターネットを自分で使いこなしているという調査結果も出ているほどである。ただし、同じ調査結果で日本の経営幹部はまだ15%と低いが。

ネットワーク社会というものは、その利用価値がユーザー数の増加に指数的に比例して大きくなる。例えば、電話も持っていない人が多かったような時代には、自分が電話を持っていても、かける相手が少ないのではあまり役に立たないが、それが誰でも持っている世の中になると、その価値はとてつもなく大きくなる。インターネットもその利用者がここ数年大きく広がり、その価値がとてつもなく大きくなった。しかもインターネットは電話のように単純な通信手段ではないので、その利用方法も、5年前には考えられなかったようなものが次から次へと出てきた。

日本でのインターネットの広がりを見ると、まだ米国より2-3年遅れているという感がある。これもやはりインターネット・ユーザーの広がりの日米間のずれと無関係ではないだろう。日本の多くの企業はまだインターネット利用の第二段階で止まっているようなところが多く見受けられる。しかし、ここ数ヶ月の動きを見ていると、米国でのインターネット・コマースの広がりを受けて、第五段階に一部足を踏み入れている企業が増えてきている感じがする。ただし途中の第三、第四段階が抜けたままになっているような気もするので、これは気がかりだが。

インターネットが広がり始めた1995年の7月には、私のインターネットの最初の本である“インターネット・ワールド”(丸善ライブラリー)が出版されたが、その本のなかを見ると、インターネットの特徴、メリットが色々と書かれている。そして、よくあるブームだと4年たって振り返ってみると、色々書いたことがまだ実現していなかったりする場合が多いが、インターネットに関しては、全くその逆で、そのとき書いたことがほとんど起こっており、さらにそのときには想像も出来なかったような新しいことが次々に起こっている。それも予想をはるかに上回る早さで。まさにインターネット革命というような言葉が、大げさではなく、実感として感じられる。

(99-11-01)


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