日本企業のe-エコノミーへの対応は、米国に比べ、2、3年は遅れている。しかし、携帯電話を利用したモバイル・インターネットでは、日本が米国より2−3歩進んでいる。なんでも一番になりたがる米国であるが、携帯電話の普及、そしてモバイル・インターネットにおいては、日本およびヨーロッパに遅れをとっていることは、米国でも皆、認めているところである。
携帯電話の広がりは特にサービス価格が安く、電話機そのものも軽くて小さいPHSが出現したころから、セルラー系との間で価格競争となり、日本では一気に広まったように記憶している。これにくらべると、米国ではセルラーが比較的高価で、しかも携帯電話機そのものが大きくて重かったということもあり、なかなか広まらなかった。やっと街や出先のビジネス・ショーのようなところで携帯電話を使うのを多く見かけるようになったのは、つい1998年の後半ころからである。これに対して、携帯電話の既に広まっている日本では、NTTドコモがインターネットを使えるiモード・サービスを1999年2月に始め、2000年8月には、1,000万ユーザーを越え、2,000万人も超える勢いで、爆発的な広がりを見せている。
米国でも今年に入ってモバイル・インターネットが大いに注目を集めている。しかし、米国の事情は日本のiモードおよびそれに類するモバイル・インターネットの動きとは、かなり違った動きをしている。私も日本に毎月のように出張しているので、日本でのモバイル・インターネットの状況は、ある程度わかっているつもりだが、私の理解では、日本のiモード等を利用したモバイル・インターネットは、その利用が個人によるものが中心であり、使われているアプリケーションも、eメール、そして簡単な情報検索が中心である。なかでも、大学生や高校生などのユーザーが多く、ビジネスマンの利用者でも、その用途は、同様の簡単なもののようである。
もちろん、機能的には、それ以外にも通常のインターネットのように、携帯電話を使って、商品をインターネット上で購入したりということも可能ではあるが、そのようなことまで、携帯電話を使ってやっている人がたくさんいるとは、私の知る限り聞いていない。したがって、日本でのモバイル・インターネットは、その登録ユーザー数は急激な伸びを示しているが、そのアプリケーションは今のところ比較的単純なものにとどまっているといえる。
では、米国ではどうか。米国でも一部の人達は日本と同じようなeメールや簡単な情報検索が広まると考えている人達もいるが、これは少数派の意見である。大多数の人間は、米国では、携帯電話の小さなボタンを押しながらのeメールや、小さな画面を使っての情報検索をするような人達はごく一部にしか広まらないだろうと言う意見である。私も全くそれに同意見である。
日本ではこのような遊び半分的な使い方(といっては言い過ぎかもしれないが)が、モバイル・インターネットに限らず、結構多くの人達に広がる傾向がある。いわゆる日本人的な仲間意識とでもいうか、皆がやり始めると、いっしょになってやらないと、話が合わない、仲間はずれになってしまうという気持ちから、どんどん広がっていく。これに対し、米国では本当に何かの役にたたない限り、よけいなものにお金をかけない。隣の人が何かやっていても、自分は自分という意識が強く、皆がやっているから、ということでものが広がるということは少ない。しいて言えば子供用のおもちゃは例外かもしれないが。
米国でモバイル・インターネットが注目されているのは、むしろビジネス利用である。いわゆるビジネスの本格的なアプリケーションにモバイル・インターネットがこれから大きく普及するだろうということである。つまり仕事上、オフィスにおらず、どこか外で仕事をしている人達をインターネットでつなげ、仕事のやり方を一新しようという、企業のe-改革の一環としてである。
具体的に言うと、例えば、セールスマンが会社の製品情報や顧客情報を外出先からインターネットを経由して入手する、あるいは得た情報を本社に即時に送るようなことが考えられる。これ以外にも、トラックの運転手、保守サービス要員など、外で仕事をしている人達へのサポートをモバイル・インターネットを経由して実施しようというものである。こうなると、情報量は携帯電話の小さな画面では到底足りない。したがって、使用される端末機は、現在の携帯電話よりも、むしろPalmのようなPDA(Personal Digital Assistant)が主流になってくると予想される。これが米国で今、ホットに騒がれているモバイル・インターネットの実像である。日本のiモードの使われ方とはかなり違う。
しばらく前に、ある雑誌で、携帯電話によるインターネット利用が日本で米国よりかなり進んでいるということから、インターネットで日米大逆転というような記事を見たような記憶がある。確かに、モバイル・インターネットのユーザー数では日本が米国をはるかに上回っているので、そういう意味で、日本が米国より勝った部分ができ、それをもって日米大逆転と言えないことはない。しかし、インターネットの世界で日米大逆転と言っても、一体なにが逆転するかにもよるので、この議論は注意を要する。
私が注目するインターネットによるe-革命の進展という観点でいくと、まだ日本における携帯電話によるモバイル・インターネットは、個人利用がほとんどで、本格的なビジネス利用はまだこれからである。また、e-革命による変化のすべてがモバイルに変わるというわけでもないので、今までの遅れをこれだけで取り戻すことは出来ない。したがって、携帯電話によるインターネット利用の急激な普及だけでは、インターネットで日米大逆転などという話には到底ならない。本当の意味で逆転するためには、もっと企業が本格的な業務にモバイル・インターネットを使う必要がある。
その点では、まだ日本は残念ながら、それほど先行しているとはいえない。そして、米国も今年からモバイル・インターネットが大きく注目され、PDAを使ったモバイル・インターネットでは、これから米国が日本やヨーロッパを逆転する可能性もある。
ただし、米国でモバイル・インターネットが急激に広がるためには、まだまだ障害も多い。その大きな要因のひとつは、携帯電話で使われている通信プロトコルが複数あり、互換性がなく、お互いに話ができないという点である。これはこれから出てくる第三世代の無線通信技術(3G)でも米国内では、統一されない可能性があり、今後に問題を残している。また、第三世代になった場合、十分な周波数帯域があるかという点も問題が解決しているとは言えない。
今月に入り、NTTドコモがAT&Tワイヤレスに出資し、筆頭株主となることが大きなニュースとなっているが、このような米国の事情を考えると、NTTドコモが思惑どおり米国でその地位を確保するのは容易ではない。いずれにしても、iモードによってモバイル・インターネットの普及に火をつけたという意味で、日本の携帯電話業界は高く評価されるべきではあるが、それがそのまま世界制覇とか、e-革命における日米大逆転などには、簡単につながらないという点は理解しておく必要がある。
(00-12-1)
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