融合するオフィス機器

オフィス機器の融合が着実に進んでいる。いままで別々の機器として使われていたプリンター、コピー機、スキャナー、ファックスが融合し始めている。それぞれの機器がネットワークを通して連携し始めているという面も勿論あるが、それだけではない。これらの機能を融合したオフィス機、MFP(Multi-Function PrinterまたはProduct)、あるいはMFD(Multi-Function Device)と呼ばれるものの出現である。

実際、このような機器が身近なのは、オフィスではなく、家庭かもしれない。家庭用のオールインワン(All-in-one)と呼ばれる機器がそれである。価格も米国で言うと$200以下であり、手ごろである。複数の機器を買うより安く、場所もとらないので、最近我が家でも1台購入した。

オフィスでも同じようなことが始まっている。はじまりはコピー機のデジタル化である。昔のコピー機はアナログで、簡単に言うと、1枚1枚写真をとるような形でコピーをとっていた。したがって、同じ原稿のコピーを10枚とろうとすると、10回写真をとるように光ったのを記憶している人も多いだろう。しかし最近はコピー機がデジタル化し、原稿を一度写真のようにとったイメージをデジタル化し、それをプリントする。したがって、同じ原稿のコピーが10枚必要な場合も、写真をとるような操作は一度でよい。あとはデジタル化されたイメージが10枚プリントされるわけである。

一方、プリンターはコンピューターからデジタル化された情報をもらい、それを印刷する。したがって、デジタルコピー機とプリンターは原理的に同じ(細かい点での違いはあるが、ここでは省略する)である。つまり、デジタルコピー機をネットワークでコンピューターにつなげれば、プリンターとして使えるわけである。

その一方で、いままでオフィスでコピーしていたものを、コピーする変わりにプリンターで出すようになっていないだろうか。例えば、昔だと、同じ原稿が10部必要な場合、1部をプリントし、それを9部コピーして必要箇所に配っていた。これが最近は10部全部をプリントしてしまう、またはネットワーク経由で電子版の原稿を必要箇所に送付し、それぞれの場所で必要に応じてプリントしてもらう。このようにすると、郵送の手間やコストもはぶけ、また遠距離の場合には、時間もかなり節約できる。おそらく皆さんもすでにこのようなやり方をしているのではないだろうか。

このようにコピーせずに必要部数をプリントすることが進み、コピー機の利用は年々低下している。逆にその分プリントは増加している。これはコピー機メーカーにとっては、大きな危機である。そこにコピー機のデジタル化という流れが起こった。そこで、コピー機メーカーはコピー機にプリンター機能を加え、またスキャナー機能、ファックス機能等も加え、MFPとしたのである。デジタル化があらゆるものの融合を進めているが、オフィス機器でもそれが起こっているわけだ。

今でもコピー機として売られているものもあるが、次第々々にMFPとして売られるもののほうが多くなってきている。そして、単にそれだけではなく、MFPのプリンターとしての機能を強調し、プリンター業界に殴りこみをかけている。コピー機需要の減少という危機を、デジタルコピー機をMFP化することにより、逆に攻めに転じているわけだ。

プリンター業界も負けじと、プリンターをベースにしたMFPを市場に投入しはじめている。まさにこれはプリンター業界とコピー機業界、それにスキャナーやファックス業界を巻き込んだ、オフィス機器業界の戦争である。

メーカーも大変であるが、プリンターやコピー機を販売している会社にとっても、これは大きな変化である。メーカー直販は別にして、いままではプリンターを売っている会社とコピー機を売っている会社は、米国では全くと言っていいくらい異なり、いよいよこの2つの異なった流通チャネルの戦いが始まっている。

プリンターやコピー機を売る側だけでなく、買う側も、実はいままでは社内の別々な部署でこれらのオフィス機器を買っていた。プリンターは主に情報システム部門(低価格のものはそれぞれの部門)、コピー機は総務部門的なところである。これがMFPの世界になったとき、どこでどのような購買判断がなされるか、これら社内部門の綱引きも始まっている。これはデータ通信と音声通信が各々別々で取り扱われていたものが、IPを使った通信になったとたんに融合し、PBX(構内電話交換機)がIP-PBXになって、購買判断をする部署が変わるのと同じである。

メーカーにとって、MFPの出現は熾烈な戦いのはじまりであるが、ユーザーにとっては、メリットが大きい。MFPという複数の機能をもったオフィス機によって、コスト削減が可能だからである。Eメールの広がりによって、あまり使われなくなったファックス、コピーせずにプリントすることが多くなったために、あまり使われなくなったコピー機、これら使用率の下がった、しかしなくては困る機器をひとまとめにしてくれるので、コスト的に最適化がはかれる。

以前から紙の資料の電子化によるドキュメント・マネジメントが叫ばれているが、紙はなかなかなくならない。自分の仕事を考えても、ある程度の資料を電子化したとしても、いろいろなものを読むためには、紙で読むほうがコンピューター画面で読むより目に優しく、ペーパーレス化はとても出来そうにない。しかし、コピー、プリント、スキャン、ファックスなどの仕事のやり方を変え、効率化するという意味でのドキュメント・マネジメントなら十分出来そうである。これを機に、ユーザーの間では、消耗品や保守費用も含め、オフィス機器のTCO(Total Cost of Ownership)を見直す機運が高まっている。

実際、メーカーやこれらMFPを販売している会社は、単純な箱売りではなく、オフィスの業務フローを分析した上で、TCOを考慮した最適な機器導入を勧めるようになってきている。製品の機能説明と保守サービス、価格だけの勝負ではなく、より高度なドキュメント・マネジメント・ソリューションを提供することが、重要になってきている。

すでに使っている機器を入れ替えてまでMFPを導入するメリットがあるとは限らないが、新しい機器の購入、リース切れのタイミングでは、MFPを含め、オフィス全体のTCOを考えたドキュメント・マネジメントをどうするか、是非検討する必要がある。

(12/01/2003)


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