今年もCOMDEXの季節がやってきた。昨年に続き、私の目に写った今年のCOMDEXをレポートしてみたい(COMDEXがなにかご存じない方は丁度1年前のレポートも合わせて御覧いただければ幸いである)。今回も1日で広い会場を駆け回ったので、見落としも色々あると思うが、今年のCOMDEXの感触というものは得られたと思う。
昨年の私のレポートを見ると、“大きな話題はやはりインターネット”と書いている。今年も日本の新聞等ではCOMDEXでのインターネットが大きく書かれていたようである。しかし、私の目には今年のCOMDEXは全く別なものに見えた。ある種の大きな変わり目の感触があった。
インターネットも勿論色々関連製品が出ていたが、もはやインターネットは“当り前”という感じで、特に目新らしさはなく、話題性もそれほどなかったように感じられた。せいぜい、追い上げに必死のMicrosoftとNovellがインターネットを強調していたのが印象的だった程度であろうか。
注目を集めるかと思われたネットワーク・コンピューターも、SunやOracleという中心企業の不在、また、出品していたIBMも、強調していたのはメインフレームとの接続用ダム端末の置き換えやワークステーションのXターミナル代わりの利用で、いわゆるJAVA等を利用した本格的なネットワーク・コンピューターの指向が弱く、COMDEXでのネットワーク・コンピューターの存在感は全く感じられなかった。IBMが唯一本格的なネットワーク・コンピューターとして出品していたものは、“将来テクノロジー”という形をとっており、その製造も外部のOEMに委託を予定しているとの説明で、歯切れが悪い。こんなことでパソコン業界を牛耳るWintel(MicrosoftとIntel)陣営に大きな脅威を与えるような嵐が吹くのかと、大きな疑問が残る。
では、今年のCOMDEXで私の目を引いたものは何か。それはデジタル・イメージ関連の周辺機器ハードウェアである。具体的にいうと、デジタル・カメラ、安価で高性能なカラー・プリンター、そしてDVDである。
ここ何年かのCOMDEXはコンピューターのダウンサイジング、そしてインターネットを含め、ソフトウェアが中心であったように思う。ところが、今年は、ソフトウェア会社があまり目立たない。確かにMicrosoftやNovellは相変わらず大きなブースでやっていたが、例えば、数年前まで派手な展示で目立っていたソフトウェア会社大手のComputer Associatesなどは探さないと見つからないほどの小さなブースしかなく、また、データベース関連企業もほとんど見当たらない状況である。
私の目からは、これが大きな変化に見えた。ソフトウェアの波からデジタル・イメージ関連周辺機器ハードウェアの新たな波への移行である。もちろんソフトウェアが重要でなくなったという訳ではなく、デジタル・イメージの処理もソフトウェアに頼るわけであるが、新しい大きな波という意味での変化である。もしかすると、日本に住んでいて、デジタル・カメラなど既にたくさん街中で見ており、インターネットに今年ようやく目覚めた人達にとっては私のいう事がピンとこないかもしれないが、これがシリコン・バレーに9年近く住んでいる人間の見た今年のCOMDEXである。
私の見たこの新しい変化が正しいとすると、これは日本企業にとって極めて重要な事である。というのは、デジタル・カメラ、カラー・プリンター、DVD、いずれをとっても、日本企業が主力の製品群だからである。今までも、日本企業は周辺機器ハードウェア分野でディスプレイ・モニター、プリンタ等で活躍していたが、デジタル・イメージがさらに新しい波を作り出そうとしているのである。COMDEXでもこれらの製品群を展示している日本企業にどことなく久々に元気さが感じられた。
これらデジタル・イメージ機器は今後オフィスだけでなく、一般家庭へも広く普及すると考えられるので、その影響はかなり大きい。コンピューター本体、およびソフトウェアで遅れがちな日本企業もいよいよ出番という感がある。
ただし、当然のことながら、これらの製品が広く普及するには時間がかかる。今年のCOMDEXで注目を浴びたといっても、来年すぐに大きな市場が見込めるというわけではない。インターネットが急激に普及したほどの速いペースは期待出来ないであろう。だが、この新しい波は確実に押し寄せ始めているという気がする。
インターネットは今年のCOMDEXで注目すべき存在ではなかったと言ったが、インターネットの情報通信市場全般に与える影響が極めて大きい事に変わりはない。このデジタル・イメージの新しい波にも、インターネットが大きな影響を与えている。例えば、デジタル・カメラの普及はパソコンによるイメージ処理、そしてインターネットを利用した容易なイメージ転送と切っても切れない関係にある。そういう意味では、このデジタル・イメージの新しい波の今後を見守る上でも、インターネットの影響から目がはなせない。
(12/01/96)
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