今年も先週、ラスベガスのCOMDEXに1日だけ行ってきたので感想をレポートしてみたい。
今回のCOMDEXは随分と変わってしまったなあというのが実感である。何が変わったかというと、メインの出展企業が大きく変わった。ここ数年、米国の大手パソコン・メーカーなどが少しずつCOMDEXから撤退しはじめていたが、今回はそれが一段と進み、メインの会場をざっと見る分には、マイクロソフト(これは勿論米国企業だが)とアジア諸国(主に日本と、それに韓国と一部台湾などのアジア諸国)のショウのようになってしまった。
私は10年ほど前からほとんど毎年COMDEXに来ているが、昔はIBM(子会社のLotusを含む)、Apple、Intel、Dell、Sun、Computer Associates、HP、Microsoft、Motorola、Oracleなどがメイン会場の真ん中近辺に大きなブースをかまえ、いかにも米国のコンピューター・ショウという感じであった。それが、1社また1社と撤退し、今年はIBM(Lotusを含む)、Intel、Motorolaなども撤退し、今あげた会社で残っているのは年々大きさを増すMicrosoftと、HP、それに小さなブースを出していたComputerAssociatesくらいであろうか。
残りの会社も、正確に言うと全く撤退してしまったわけではなく、展示をやめて、顧客と商談の出来るミーティング・ルームだけとか、IBMのようにMicrosoftのパートナー・コーナーに豆粒のようなブースを出したり、会社のトップが出てきてキーノート・スピーチを行うなどして、何らかの形で参加はしているのだが、自社の展示ブースをやめてしまったという点では、COMDEXに来た一般の人から見ると、やはり撤退したとしか見えない。
また、会場の中心部の一部が食べ物コーナーに割り当てられるなど、出展のキャンセルを思わせるところがいくつもあり、出展規模も全体として縮小していたように思われた(主催者側によると、出展企業数は前年より多いとの話だが、以前より空きスペースが多かったように思われた)。会場にブースを出している人の話でも、今年は来場者も昨年より少ないという感想であった。まさにCOMDEXは曲がり角に来たという感じである。
代わりにメインに躍り出たのが、日本企業を中心とするアジア勢である。私は時間がないので、いつもメイン会場を中心に見るが、Microsoftの例外を除き、歩いても歩いても、見えるのはほとんど日本企業であり、その中に韓国や米国の会社がパラパラ混ざっているという感じである。
これだけを見ると、一件アジア勢がパソコン業界を圧倒しはじめたかの感があるが、勿論そういう訳ではない。COMDEXが高くつくことは、何年も前から言われていたが、いよいよ米国企業はこの高価なCOMDEXに出展する価値がないと判断したから撤退したのである。話によると、主催者側が1平方フィートあたり20セントで借りている会場が、1平方フィートあたり49.95ドル(何と約250倍)で売られているとの話で、また、COMDEX開催中のホテルや、一部の飛行機会社が特別料金(安いのではなく、高い特別料金)を設定しており、あらゆる面でCOMDEX出展はお金がかかり過ぎるという訳である。
もうひとつの大きな理由は、昔それほど種類のなかったコンピューターやネットワークのショウが、最近非常に多くなり、細分化されてきたことが上げられる。例えば、ネットワークでは、以前からあった2つの大きなショウが数年前に一つになったNetworld+Interop、インターネットではInternet World、さらにコンピューター・テレフォニーに関するもの、オブジェクト関連のもの等々、ほぼ毎週(場合によっては同じ週に複数)米国のどこかで、何かのショウが行われているという状況である。
このように多数の細分化されたショウが存在するため、企業側としてもそのすべてに出展していたのではお金がかかり過ぎ、効率が悪いので、出展するショウを選び出したわけである。特に焦点の絞られたショウのほうが、来る人達も真剣に出展物を見てくれるので、より有効であると言える。
その点、COMDEXは特別な分野というよりも幅広く業界の様子を見たいという感じの人(私もその一人だが)が比較的多く、直接商売につながりにくいという点も事実である。ただし、COMDEXが無意味なものになっているわけではない。多くの小さな無名の会社にとっては、自社の製品を見て、評価してもらう大切な場である。また、そのような無名だが、よい製品をもった会社を探すため、じっくり何日もかけてCOMDEXの会場を回るような人にとっては、これからも極めて重要なショウであり続けるだろう。
しかし、日本からわざわざ見に来る必要があるかというと、あまりなくなってきたように思う。以前からも焦点のはっきりしないショウではあったが、それでもCOMDEXに来ることによって、米国のコンピューター業界の雰囲気をなんとなく感じ取れたような気もするが、今年のようなCOMDEXでは、それも難しくなってきてしまった。これをいい機会に、どうせ日本から来るなら、もっと自分の仕事に直結した、焦点のはっきりしているショウのために米国に来ることをお薦めしたい。
こんな状況であるから、そのなかからトレンドを見るといっても、何か日本企業のトレンドを見ているような感じもするが、それを含めて目にとまったものをいくつか上げると、以下のようである。
一昨年、昨年と広がりを見せている日本勢を中心としたデジタル・イメージ関連ハードウェア周辺機器は、また一歩前進したという感じである。以前はデジタルカメラが前面に出ていたようだが、今回は一歩進んで、デジタルカメラで撮った写真を直接パソコンなしでプリントできるものなど、インプットだけでなく、アウトプットまでの流れが手軽に、しかも安価にできるようになってきたのが注目された。
また、米国ではまだまだ重いノートブック・パソコンが多く使われているが、多くの日本メーカーから小型、軽量のものが出展されていて、注目をあびていた。さらにノートブック以外に、デスクトップ・パソコン用のフラットパネル・ディスプレイも多く出展されていて、結構目立っていた。
それ以外では、数はそれほど多くないが、デジタル・テレビ放送開始に関連して、パソコンでデジタル・テレビを見るための製品などもいくつか見られた。また、音声認識システム、生体情報による識別システムなど、先端技術がいよいよ実用化段階に来ていることを示すものもいくつか見られた。
COMDEXは、私のように米国に住んでいて日本企業の動向を見に行くことに意味があるならいいが、そうでなければ時間をかけてゆっくり細かい出展まで見ないと、意味がなくなってきたようだ。どうぜ行くなら2-3日じっくり時間をかけて、さもなければもう行くのをやめてもいいかもしれない。
(12/01/98)
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