アートコンペ現地報告


「空を見るための道具」希望21での作品制作を終えて 川田 学

 今回の作品は、長い板を斜めに固定した単純な道具で、きれいな空とその眺めに価値を見出だせる人がそこにいて初めて成立するものでした。「きれいな空を見ると、それだけでちょっといい気分になる」という純粋な気持ちが文化を越えて伝わったらいいなと思ったのです。

 辛い病気と戦っている子どもたちを、芸術作品によって元気づけるなんて、言うのはカッコいいけど実際何ができるんだろうと悩みました。「病気は治らないかもしれないけれど、今、太陽の光や風に揺れる木、枝、身のまわりの自然を感じることで生きていることを実感している」という子どもの作文を見て、応募を決意しました。

 実際の制作は理屈通りにはいかない部分も多く、制作途中で構造を考え直すこともありましたが、英語のできる子が他の人との通訳役をしてくれたり、子どもたちがいつも作業を手伝ってくれたおかげで、期間内に4本の板を設置することができました。

 子どもたちと一緒に決めた場所に、「昼寝する板」「風を見る板」「朝日を待つ板」「夕日を見る板」の4本をたてていったときは感無量でした。板にもたれてずっと空を見ている子どもの姿を遠くから見ていて、ようやく、この作品を作って良かったなと思いました。

*****

 希望21滞在中に彫刻部門の受賞作品も設置されました。それぞれの作品がもっている力によるのでしょうか。どの作品もサナトリウム敷地内の中心になったような印象があり、まるでずっと以前からこの場所に置かれていたように感じたのは僕だけではないと思います。

 作品の存在は、「チェルノブイリの子どもたちの健康を世界中の人が祈っているんだよ」ということを目に見える形として表していると思いました。

*****

 作品の制作を終えた今、モノづくりの意義が確認できた気がしています。作品と一緒に、自分にとっての大切なよりどころがひとつ、遠い異国に設置されている気がします。

【注】川田さんの作品の他に、彫刻部門の浦野八重子さん、池田政治さん、横田隆資さん、3人の作品も収められています(詳細は基金ニュース29号参照)。

 作品にはそれぞれ<'97チェルノブイリ・メモリアル・アートコンペティション><作品名><作者名><チェルノブイリ子ども基金>の文字が英語、ロシア語で表記されたプレートがつけられました。希望21に設置された作品は、文化交流会資料ビデオの中でも紹介されています。


No.30目次へ / ニュース一覧へ