(今年の春まで、ロシア語のボランティアだった、平野進一郎さんからの手紙です。現在モスクワのラジオ放送に勤めています) チェルノブイリ子ども基金の皆様 皆様お変わりなく、お元気でご活躍のことと存じます。当地は先日までの30度の気温が嘘のように、今日はどんよりとした空で木枯らしのような冷たい寒が吹き荒れ、吐く息も白く、昼間の気温もようやく10度といったところでした。東京では11月位の感じでしょうか?兎に角、夏が過ぎ、秋が迫っているのが感じられます。お湯はこの1か月間止っていましたが、今日から再び出るようになり、一安心です(一方、お給料は1週間以上遅配で、いつ出るかわかりませんが…)。 仕事の方は、キツイということはありませんが、毎日時間に追われて翻訳し、かつ読むのは大変です。本来1年位たってのはずが、いきなり毎日、政治解説1本とニュース2、3本があり、毎週の定期番組1本も担当になり、気が抜けません。1年位たてば少しは慣れて楽かもしれませんが、それまで職場があるかどうか…。 街は華やかですが、我々国営企業は相変わらずです。日本を離れて淋しいことはないのですが、毎日「政府の公式見解」ばかり訳して、それを声にするのは精神的に良くない面もあります。 さて、この夏の保養プロジェクトはいかがでしたでしょうか?ベラルーシについてのイメージが日に日に悪化していますので、ちょっと心配です。こちらのニュースには、ウクライナのクチマ大統領よりベラルーシのルカシェンコ大統領の方が、圧倒的に沢山出ておりますが、ろくでもないものばかりなので嫌になります…。何はともあれ、基金の活動に実害をもたらさないことを祈るばかりです。 私は一応、「科学」番組担当なので、放送の中で使ったチェルノブイリやロシアの原子力関連の話題は、時々まとめてそちらに送るようにしたいと思います。それから、ウクライナ語の放送を聞くと、毎日のようにチェルノブイリの話題をとりあげている(小児甲状腺ガンの話題なども)のですが、当然、なんとなくしかわからないのが、もどかしく残念です。 ここにいると、チェルノブイリなどについては日本にいるより情報が乏しく(放送局のすぐ近くの原子力エネルギー省には色々あるのでしょうが…)、どうなっているのかわからないのは、かえって私のような者には、不安になります。家のそばにある、この地区から派遣されたリクビダートルの碑にも、人々はあまり関心はない(アフガニスタンの碑以上に)ようですので、何だか悲しい気もします。ようするに、ここにいると「チェルノブイリ」は日本にいるより遠い存在に思えてくるのです。ですからもし、翻訳などで特別急がないものは、こちらで出来るのであればお手伝い致します。可能な限りのことはしたいと思います(この街があまりに、この国の実態とかけはなれており、そうした本当の「危機的」なことに触れるようにしないと、こちらの意識も現実離れしそうなので、むしろ何かすることが必要だと感じます)。ちなみに、先日お便り紹介番組の中で、天気の操作技術に関する話題があり、「初めてそうした技術が使用されたのは、チェルノブイリの事故時に放射能を含む雲が、人口密集地に近付く前に雨を降らせた、というケースだ。」というテキストの記述を訳したのですが、上層部のチェックをパスしているので、これはロシアの公式見解として事実といえるかもしれません。そのうち書いた本人に聞こうと思いますが、どうなのでしょうか…。 とりあえず、こちらは無事で何とかやっておりますので、ご安心下さい。出発前には色々としていただいたにもかかわらず、きちんとお礼の出来ないままになっていること、お許し下さい。もう少し落ち着いたら、定期的に、また個別にお便りしたいと思います。 日本はまだ暑いかと思いますが、どうぞ夏バテなどされないようご活躍下さい。 皆様のご幸福をお祈りして今回は失礼致します。 さようなら。 98.8.12. 平野 進一郎 (編集部注・この手紙の直後に、ロシアは経済危機に陥っています。お給料はもらえたのでしょうか?) |