<希望21>訪問 黒部 信一
前号でもお伝えしましたとおり、私たち基金が支援しているベラルーシ学校サナトリウム<希望21(ナジェジダ)>の医療センター拡張に伴い、医療機器を寄贈しました(一部外務省支援委員会より援助)。医療機器はすべて現地医療センターより要望のあったもので、呼吸器および血液循環器に異常を持つ子どもの心電図検査のための、呼吸器・血液循環器の「心電計」「呼吸運動記録器」と、視覚器官への放射能の影響を調べる、眼科医の予備検査のための「検眼鏡」です。
その他医薬品として、抗生物質・解熱剤を送りました。医療機器の視察のために2月に現地を訪問した、黒部信一先生からの報告をご紹介します。
学校保養施設「希望(ナジェジダ)21」に行ってきました
2000年2月11日、ベラルーシの首都ミンスクから約80km北にある、湖の多い地域の森の中にある学校保養施設「希望(ナジェジダ)21」に行きました。ここはチェルノブイリ原発から遠く離れ、放射能に汚染されなかったという場所に建てられています。
原発事故で、広島原爆のおよそ830倍の放射能が放出され、旧ソ連圏に落ちた内の約70%がベラルーシに落ちたといわれ、原発から30km圏を中心とした高濃度放射能汚染地域は閉鎖され、廃村になっていますが、中濃度汚染地域は将来の避難すべき地域とされ、まだ住み続けている人たちがいます。ベラルーシの国土の23%が放射能汚染され、その多くが低濃度汚染地域として残っており、そこから収穫された農作物も果実も、牛、豚、鶏もみな汚染されています。もっと低い濃度で放射能汚染された地域は国土の50%に及ぶとみられていますが、汚染地域とはされていません。
これらの放射能の中濃度および低濃度汚染地帯に住んでいる子どもたちがいます。これらの影響は早期には白血病、甲状腺癌と他の甲状腺疾患が現れ、10年過ぎるといろいろな部位の癌が増えていきます。放射能の影響は、発癌性だけでなく、目や耳などの感覚器、血液や胃腸、心臓、肺の病気や免疫の働きも侵します。
「希望(ナジェジダ)21」の目的は、病気の子どもの保養施設ではなく、放射能の汚染地帯に住んでいる子どもたちが、クラス単位でこの保養施設に来て、授業を受けながら30日間放射能汚染から離れ、放射能に汚染されていない食物を食べ、担任の教師とクラスぐるみの寄宿生活を送ることにあります。ベラルーシの学校は11年制で日本でいえば小学校1年生から高校2年生までが同じ学校で勉強しています。1クラスは25人ですから、15〜6人のクラスもあります。その子どもたちが交替で保養に来ていて、いつも約200人弱の子どもたちが寄宿生活をしており、1カ月ごとに交替しています。
この施設の特徴は、放射能の汚染地帯に住んでいるすべての子どもたちがやってくることです。その子どもたちに希望を持たせることが一番の目的です。始めは、放射能汚染から逃れることでしたが、施設がチェルノブイリ子ども基金とドイツのNGOの援助で充実するにつれ、パソコン、キーボードなども揃い、また絵画や裁縫、編み物などの教室も、体育施設もでき、学芸会なども企画し、楽しい1カ月を過ごすことができる様になって、ここで楽しく過ごす希望ができています。自分の通っている学校ではできないことが、ここではできるのです。家では1日2回しか食べられない貧しい子どもも、ここでは3回食べられます。
ベラルーシは日本の約半分(55%)の広さの、平野ばかりの土地に約1100万人の人が住み、首都ミンスクに200万人が集中していて、地方には人口も少ないため、医療施設は少なく、あっても設備がなく、十分な健診を受けられず、病気の発見が遅れやすいのです。
この施設で健診をすれば、汚染地の子どもたちの病気の早期発見をすることができます。その為、前回は甲状腺用の超音波診断装置と検診車を寄贈し、今回は放射能に弱い目の病気の発見のための検眼鏡と、多用途心電計、肺機能測定器と医薬品を寄贈しました。これらの機器は子どもたちの健診に役立ち、今年の1月から本格的に使用され、検眼鏡は全員に、心電計と肺機能測定器は病気を持つ子どもたちに使用されました。その結果これらの医療器具設置からわずか1カ月半で400人の子どもの検眼をし、白内障の子どもが見つかりました。白内障も放射能の影響によって起きる病気のひとつです。心電計は50人に、肺機能測定器は15人に使われています。
この施設が充実することによって、放射能汚染地域にいる子どもたちに、保養と健診の希望を与え、希望が子どもたちの免疫の働きを活性化し、病気を予防し、病気の子どもたちの回復を促進させていくのです。すでに、このことは現地の医師たちによってデータ上でも確認されてきたと聞いています。こころと免疫(病気と戦う体の働き)の関係が密接にあることが証明されてきました。こころと体の働きが密接な関係を持っており、ベラルーシの子どもたちに希望を与えることが、何よりも大切なのです。
私が行った時に楽しそうに庭でボールゲームで遊んでいた子どもたちが私に「ハロー」と声をかけてくれたことは英語が入っていることを感じさせ印象的でした。ちょうどバレンタインデーの学芸会があり、動物の真似をしたり男の子が女装したり、男女二人が新聞紙の上で踊るダンス競技や、愛の詩の朗読など楽しそうでした。プレイルームでもテレビを見たりゲームをしたりして余暇を過ごしていました。今回の医療機器や医薬品の寄贈が、子どもたちの健康に役立ち、「ナジェジダ(希望)21」がベラルーシの子どもたちの希望になっていることを感じて帰途につきました。
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みなさまのご支援で、子どもたちのために高レベルの医療サービスが可能になります。今後も子どもたちの保養が継続できますことを、心よりお礼申し上げます。
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