当地のこの冬は、記録的な暖冬です。一年でもっとも「厳しい」はずの2月ですが、平年の気温を5度以上も上回って、日によってはプラスにまで上昇しています。気まぐれなロシアの空のこと、このまま春を迎えるのかは、まだ定かではありませんが、日差しは強まって、季節が確実にめぐっていることだけは、感じさせてくれます。 さて、ご存知のように、ここロシアは、突然の大統領の辞任により、「新しい指導者」とともに西暦2000年を迎えました。そしてまた、「戦争」とともに新たな年を迎えています。 このチェチェン共和国を舞台にした「戦争」は、当初、最短の期間、最少の損失で完了するとして始められました。しかし、もともと反ロシア色の薄い北部の地域は、順調にロシア軍が制圧下に置いたものの、戦線が南部山岳地帯に及ぶにつれ次第に戦局が悪化しています。これによりロシア軍の犠牲者の数も、前回の作戦時と同様の勢いで増えつつあり、政府・軍部のとる強硬策に少しずつですが、国内でも疑問を呈する声が上がり始めています。圧倒的な軍事力を背景に、このまま行けば短期的にはロシア軍が勝利を収めるのは、確実と見られますが、地元市民に深い憎悪を残した以上、長期的に見て、どうなるかは不透明です。経済的に大きな恩恵を与えるか、圧政を敷くしか安定を保つ道はないでしょうが、今のロシアにはどちらも困難です。結果的に、これが新政権にとって非常に高くつくものであろうことは、今から予想できます。 そもそも戦争に正義はありえないことですが、このチェチェン戦争の場合も、どちらが正しいともいえません。ロシア側のとる手段が正しくないのは明らかですが、チェチェン側に関しても、この3年間ほぼ独立状態にあったにもかかわらず、支配勢力は結局、内紛に明け暮れ、国を犯罪の巣に変えてしまったことは否めません。また、武装勢力は、しかるべき訓練を受けた「プロ」が多数含まれると見られています。一方、ロシア軍側は、「徴兵」による「アマチュア」兵士も多く駆り出され、前回の作戦同様、このことが犠牲を増やす一因といわれます。アフガニスタンや、またチェルノブイリと同じことが繰り返され、時の政権によって、いとも簡単に現場に「人命」が投入されているのです。 今、表向きほとんど西側の町に劣らないような、華やかさを見せるモスクワですが、一方でアフガンやチェチェンなどで負傷し、手や足を失ったいわゆる「傷痍軍人」の姿も至る所で見かけます。これに、外に出られない人々、チェルノブイリの元除染作業員などを加えると、この町だけでかなりの数の、国の「犠牲者」がいることが容易に想像できます。そして、また新たな犠牲者が生み出されています。14年目の4月26日が、まもなく巡ってきますが、ロシアでは、「チェルノブイリ」はまた一段と、遠くになりそうです…。 ウクライナやベラルーシの情勢についても触れたいと考えましたが、紙面が尽きてしまいました。両国の主なニュースや現地でのチェルノブイリ関係のトピックについては、「原子力安全研究グループ」のホームページhttp://www-j.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/Chernobyl/ で今中哲二さんがまとめていらっしゃいますので、関心のある方はそちらもご覧いただければ、幸いです。 (モスクワ・平野進一郎) |