ミンスク便り


◇3月も半ばになり、日も長くなり、日中は日差しの暖かさも感じられるようになってきました。まだ夜間の気温はマイナス10℃前後まで下がる日もありますが、春の訪れは確実に近づいています。

◇ベラルーシではこの春、国を挙げた二つのイベントが予定されています。まずは、3月19日の大統領選挙。そして、4月下旬に開催されるチェルノブイリ原発事故発生20年を記念する国際会議です。現在のベラルーシ憲法では、大統領の任期は5年です。当初、同一人物の大統領三選は禁止されていましたが、一昨年の国民投票によりこの制限は撤廃され、現職のルカシェンコ大統領の三選以上に道が拓かれました。最初に当選したのは1994年で、96年に国民投票によって憲法改正、任期のカウントをゼロに戻し、5年後の2001年に再選、今年で在職既に13年目となります。独立してからのベラルーシの歴史は、ルカシェンコと共に歩んできたもの、と言ってもよいでしょう。対立候補3名にはほとんど勝算がなく、一般市民も諦めムード。「結局何も変わらない」という声がほとんどです。また、農村部や高齢者層をはじめとして現政権への支持が強いのも事実です。戦争やテロもなく、治安も比較的いい「安定した」社会は確かに魅力的ではあります。

◇しかし三選後は反対派や言論・行動の自由に対する抑圧がさらに強まることも懸念され、目先の「安定」に身を委ねていてはいけないのではないかという気もします。テレビでは3月19日の投票を宣伝する広告が流されていますが、いかにこれまでの政策が正しく、国が順調に発展してきたかを強調するものばかり。投票当日に武力での政権奪取が計画されていたことが発覚した、という物騒なニュースや、対立候補が警官隊に殴られたという報道も、圧倒的に優勢な政府系マスメディアでは一面的かつ小さな扱いしか受けず、街の雰囲気も至って静か、とても革命など起きそうにありません。変化を望みながらも自ら行動を起こそうとはせず、辛抱強く待っているのはまさにベラルーシ人の国民性なのでしょう。

◇一方の国際会議ですが、これも全体のトーンとしては選挙と同様で、これまでの20年間、いかにベラルーシがこの悲惨な事故の影響を乗り越え、立ち直ってきたかという視点から会議全体の計画が立てられています。事故の深刻な影響を伝える内容などはなるべく目立たないようにしたいという、当局の意図が見え隠れしています。会議の一貫として開催が予定されている広河さんの写真展についてもこのような事情から扱いは微妙ですが、個人のレベルでは一様に歓迎、感謝しており、その意義は大きいと私も確信しています。ベラルーシにとっては数千人の参加する世紀のイベントで、準備に携わる事務局はさぞ苦労していることと思います。会議もいよいよ迫ってきましたが、ここにきて資金不足が深刻化しており、準備事務局は今になって各方面に資金援助を訴えているのだそうです。国連をはじめ国際機関のバックアップはありますが、政治的な事情から欧米各国は積極的な支援を控えており、予算内容を見直すしか打開策はないのかも知れません。

◇最後に気分を変えてオリンピックの話題を。トリノ・オリンピックでは終盤になってフィギュアスケート女子の金メダルで日本中が沸きましたが、実はベラルーシも同じ日、初(そして唯一)のメダル獲得を果たしました。男子フリースタイルのエアリアルで、3選手が決勝に進み、それぞれ2,4,8位に入賞。そして、荒川静香選手の現コーチは元ベラルーシのアイスダンス代表だったとか。大統領の大好きなホッケーも出場せず、ベラルーシにとって盛り上がりに欠けた大会でしたが、最後に少し明るい話題があって救われました。スポーツ振興は国家政策でもあり... とまた政治に話がいってしまいました。今回はこの辺で。

(花田朋子 ミンスク在住 日本大使館勤務)


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