農と言える日本・通信 No.12 1999-11-04     高野 孟

●次回の鴨川集合は11月13〜14日、今年最後の公式日程です。帯広集合は11月20 〜23日、寒風原野の乗馬トレッキング、薪で炊くサウナ、バーベキューが中心です。 詳細はお問い合わせください。

●《研究》お米とご飯について
 前々号で「米ヌカのパワーと魅力」について述 べましたが、その後、お米とご飯についての本をいくつか読んで、「なるほど」と思 うこともいくつかあったので、頭を整理するためにメモしておきます。

■米を買う

(1)生産者から玄米で送ってもらう

 米は、生産者から玄米で送ってもらって、自宅の家庭用精米器でその都度炊く 分を搗いて、搗きたてをを炊くのがベストである。この場合、玄米のまま炊いたり、 七分搗き・五分搗きなど好みの程度に搗いて炊くことも出来るし、また搗いた後の米 ヌカを活用することも出来る。搗きたてがおいしいのは、コーヒーを豆で買ってきて その都度淹れる分だけ挽いて淹れるのがおいしいのと同じことである。

 生産者の段階では、籾を強制火力乾燥にかけずに自然乾燥させ、玄米状態で温 度10〜15度、湿度70〜80%で貯蔵されたものが、一番味が落ちないとされている。

 われわれ鴨川組とその関係者16人は、鴨川の棚田で出来る無農薬・低農薬の長 狭米コシヒカリのを計130キロ余り、月に1度送ってもらっていて、そのうち私を含 む3人は玄米で受け取っている。玄米だと、冷暗所に保管すれば品質、食味が劣化す ることはほとんどない。玄米は虫がつきやすいが、日本的木造家屋ではまず虫がつく ことはなく、マンションの場合は注意が必要となる。

(2)生産者から精米で送ってもらう

 セカンド・ベストは、生産者から精米したものを送ってもらって炊くことであ る。白米は精米されたとたんに生鮮食品になるので、1カ月分をまとめて受け取った 場合、適切な保存状態であっても、ある程度の劣化=老化は避けられない。保存は、 直射日光や台所の火の近くを絶対に避け、風通しがよい乾燥した冷暗な(15度以下の )場所に置かなければならない。半端な場所に置くより冷蔵庫のほうがベターで、家 庭用の精米保冷庫があればベストである。

 賞味期間は、新米であれば、収穫された9月頃から翌年3月頃までは精米後2 カ月まで大丈夫だが、4〜5月は約1カ月、6〜7月は20〜25日、8〜9月は15日― ―と、米自体が古米化するにつれ短くなる。

(3)精米業者から買う

 やる気のある米屋は、当日もしくは前日に搗いた米を売る。店頭で「精米年月 日」の表示を確かめて、5日以上過ぎたものを置いているような店はやめたほうがい い。「原料玄米」の表示は「1類80%以上」などとなっているが、「類」は味による 格付けで1から5まであり、1が一番おいしい。しかしこれだけでは分からないので 、何をどうブレンドしているのか、聞けばきちんと説明してくれるような店が望まし い。

 月に10キロ消費するとして、5キロを2回買うよりも2キロを5回買う方がベ ターである。

(4)スーパーや自動販売機で買う

 やめたほうがいい。偽ブランド、古米ブレンド、農薬使用、保管状態、保存剤 使用(見かけの上だけ劣化を防止)など、確かめようもない。

■米を研ぐ

 野菜は「洗う」が、米は洗うとは言わず「研ぐ」と言う。刃物を研いで銀色に 磨き上げるのと同様、心を込めて米粒を磨いてキラキラと光る銀舎利を食べようとい う心がけである。だから必ず手の平で米粒同士をこすり合わせるようにリズミカルに 研ぎ、間違っても泡立て器などで掻き回して、金属臭を移したり米の表面を傷つけた りしてはならない。

 昔は精米技術が進歩していなかったので、付いているヌカが多く、ギュッギュ ッと音がするほど研がなければならなかったが、今はかなり精製してあるので、余り 強く研ぐと米が砕けてデンプン質が流れ出してしまう。

 水を3〜4回換えて、3〜4分以内に手早く研ぐ。時間をかけすぎると、水分 を吸いすぎて後の水加減が難しくなる。研ぐ直接の目的は、米の表面に付いたヌカを 落として臭みを取ることである。数回水を換えるうちで第1回目に最も大量かつ急速 に米が水を吸収し、2回目以降はそれほど吸水が進まない。そのため、1回目でもた もたしていると、いったん米の表面から離れて水中に浮遊したヌカの成分が、水と一 緒に再び米の内部に吸収されて臭みが染みつき、2回目以降にいくら洗っても落ちな くなる。そこで、1回目はたっぷりと水を入れて素早くかき混ぜ、10秒ネ内に水を捨 てることが肝心になる。

■米を浸す

 人間の消化機能では生のデンプンは消化できないので、水を与え火にかけて、 デンプンの分子の隙間に水が入り込んで分子の結合を緩め「糊化=アルファ化」させ て消化しやすくする。そのためには、研いだ後、米の中心まで水が浸透するよう浸し ておく時間が必要である。普通、浸してから30分間に急速に吸水が行われ、2時間以 内で完了する。夏の気温30度の時は30分、冬の気温5度の時は1時間半でほぼ吸水が 終わると考えてよい。浸す時間がない場合は、30〜40度のぬるま湯に30分浸せば大丈 夫。逆に余り長い時間浸すと、米の組織が崩れやすくなる。

 玄米は吸水が極めて遅く、2時間では6〜7%の水しか吸収しない。完全に吸 水するには20時間かかる。

 炊き上がった時に、余分な水分が残らず、全部の水がちょうど米の中に吸収さ れた状態にするのが「水加減」である。おいしいご飯は、精白時には15%前後である 水分含量が65%程度に達している状態であると言われ、それには精白米に対して重量 で1.3倍強、体積で1.2倍の水が必要となる。新米は水分が多めなので、体積で1.1倍 、古米や玄米は1.2〜1.3倍を目処とする。

■米を炊く

 昔から「初めチョロチョロ、中パッパ……」という火加減についての格言があ るが、これは水に浸す時間がない場合の話。最近のマイコン内蔵の炊飯器には、水に 浸す時間がない場合のモードを選択できるようになっているが、これは最初に「予熱 」「前炊き」プロセスがあって40度くらいを一定時間保って浸水させてから炊き始め るもので、まさに「初めチョロチョロ」を実践しているのである。

 鍋や釜で炊く場合、最初は強火と中火の中間くらいがいい。炊き始めは、米が 釜の中を対流して均一に攪拌され、ムラなく火が通るよう準備されなければならない が、ある程度火が強くないと十分な対流が起こらず、かといって強すぎると早く沸騰 しすぎて米粒の表面だけが先にアルファ化して内部への熱伝導が悪くなる。従って沸 騰するまで10分間程度かかるのがベストである。

 私の家では、韓国の黒石の鍋で炊く。石焼きビビンバに使うどんぶりと同じ材 質の分厚い鍋にに同じく石の重い蓋が付いたもので、これだと最初から強火にしても 石が暖まる時間がゆっくりなので、沸騰までにちょうど10分かかって具合がよろしい 。普通の文化鍋を強火にかけた場合は5〜6分で沸騰するので、強火よりやや弱くし て沸騰までの時間を延ばしたほうがよい。

 沸騰して今にも吹きこぼれそうになったら弱火にする。吹きこぼしてしまって は、水分が足りなくなって芯が出来たり焦げたりするし、吹いてきた「おねば」こそ ご飯のおいしさの秘密とされているので、これを逃がしてはならない。昔の釜に大き な分厚い木の蓋が付いているのは、このおねばを逃がさないためであり、上述の石釜 の重い蓋も同じ意味がある。ある研究によると、ヌカの最下部のデンプン層との境界 に「アリューロン層下底圏」と呼ばれる100〜200ミクロンの層があり、これが米の食 味にとって最も大事な因子を含んでいる。この組成粒子が湯に溶けだしたのが「おね ば」で、炊き上がり間際にそれが一段と濃縮されながら米粒の表面に付着し、滑らか な口当たりとほのかな甘みや芳ばしい香りを与えるのだという。吟醸酒がちっとも美 味くないのは、この肝心の部分を削ってしまうからだという説もある。

 文化鍋の場合、吹いてからやや弱火にし、水気がすっかりなくなったあたりで ごく弱火にして底が焦げ付かないようにする。上述の石鍋だと、石がゆっくり冷めて いくので、最初からごく弱火にして10〜10数分で火を止めるとちょうどよい。釜底が うっすらキツネ色になっているのが最高の炊き上がりで、そのきつね色の部分から出 るメラノイジンという香り物質がご飯のおいしさに大いに影響がある。そのため、昔 、かまどで炊いた時は、最後に細割の焚き付けを入れてパッと火を強め、釜の中でピ チピチと音がするのを合図に火を落とした。その伝で、一度サッと強火にしてから火 を止めるのがいい。昔風の寿司屋は今も釜でご飯を炊いて、2升5合だと2合分ほど がお焦げになるようにして、寿司飯を取り出した後の釜底のお焦げが熱いうちに醤油 をたらしてかき混ぜ、おにぎりにして店員が食べる。

 炊き上がったら10〜15分蒸らす。これは、デンプンのアルファ化には100度近い 温度が最低20分、出来れば30分持続することが必要で、それには沸騰から火を止める までの時間では足りないからである。先の格言は「赤子泣いても蓋取るな」「親父死 んでも蓋取るな」と続くが、実際、蓋を開けると水蒸気が逃げて急激に温度が下がり 、アルファ化の仕上げが出来なくなる。しかし、蒸らす時間が長すぎると水蒸気の逃 げ場がないまま温度が下がって水滴がたまり、ご飯が水っぽくなる。

 そこで、適当な時間に蓋を取り、しゃもじで軽くかき混ぜて余分な蒸気を飛ば すとともに、米の味を均一にした後(釜底中央がまずく、釜の中程外側がおいしい) 、木製のおひつに移す。おひつは余分な水分を吸い取ると同時に保温の役目をする。 乾いたふきんを掛けると水分のコントロールになお効果がある。

■玄米を炊く

 玄米は、(1)最初に1時間ほど水に浸してから研ぎ、(2)圧力鍋に玄米とその1.2 〜1.3倍の水を入れて一晩浸す。(3)鍋を強火にかけ、(4)沸騰して重りが動き出して から1〜2分待って、弱火にする。(5)20分炊いて、最後に15〜30秒強火にして火を 止める。

 ――というわけで、皆さん、ご飯をおいしく食べるために努力しましょう。忙 しい生活では炊飯器も仕方ないですが、2000年問題もあるし(家電に組み込まれたマ イコンが危ない)、停電になったらご飯も炊けないというのでは情けない。鍋釜で試 行錯誤しながら上手に炊けるように習熟するのが一番です。▲