農と言える日本・通信 No.2 1999-07-07            高野孟



 以下は高野が6月28日付で藤本敏夫さんほかに提案したものです。藤本さん及び鴨川自然王国理事会で基本的に了承を得、また自治労の鈴木英幸さん(千葉県君津市山中の実家でヤツガシラを作って出店するそうです)、帯広の平林英明さんからも賛同を得たので、みなさんにもお知らせし、ご意見を求めます。

■「電脳楽市・食と農」についての試案    99-06-28 Takano


 このほど鴨川の「山賊クラブ」=石井三示さんと相談の上、「長狭米」の限定直販を募集し、今年収穫分の完全無農薬米についてはたちまち完売となりましたが、これを1つの先鞭として、「鴨川自然王国」として自前の産品や傘下の山賊クラブなど各農家の産品、あるいは佐々木さんのチランジア、恩田さんの陶房本郷の焼き物、朝倉さんのみねおか竹炭の竹炭・竹酢液(などが実際に参加可能であり、また適切なのかどうか私は確かめていませんが、イメージとしてはそういう)周辺協力関係にある人たちの産品まで含めて、出来れば統一的に「鴨川自然王国」ブランドとして直販メニューを整えていくようにしたらいいと思います。

 さて今ここに提案するのは、さらにその先です。

 先日以来、鴨川・十勝両王国を中心としたホームページをどう再編・整備するか頭をひねってきて、そのための別添の手書き図を一部の方にはファックスしましたが、これを眺めているうちに、どうせなら、単に各個のホームページをリンクし合うにとどまらず、この図の下の方の点線部分をインターネット上の共通の広場として独立させて『電脳楽市・食と農』(名称は考えて下さい)を開設し、そこに並んでいる産品、エコライフのための設備・道具類、農作業などの参加型プログラム、指定?飲食店、関係ある本だけを扱う書店……などがあって、全体として、藤本流の食と農の考えにもとづいた「21世紀・農的生活」のための1つのライフスタイルの提案になっているという形にしたらどうだろうか、と考えるに至りました。

 そこには、鴨川自然王国の産品だけでなく、十勝自然王国の平林さん=ランチョエルパソからは地ビール、手作りハム・ソーセージなど、旭川の旭油脂=大塚さんからはひまわり油、ひまわりバター、道産天然芥子など、遠軽の花田さんからははちみつ、プロポリス、熊・鹿・トド?の肉などという具合に、鴨川と十勝を双軸としてお互いに関係が広がりつつあるさまざまな農産品のメニューに加えて、それらとも関連する農作業・森林作業・各種の体験教室など行動的なプログラムへの参加呼びかけのメニューがあり、さらに例えば札幌の後藤さんの自然循環トイレ(藤本新居に採用)など農的生活・エコライフの道具・設備の推薦・斡旋メニュー、さらには鴨川や十勝などの産品を一部使っている“指定”飲食店リストまで網羅されます。
 メニュー上では均一的な表記で商品・サービスの内容が紹介されますが、そこからさらに各出店者のホームページにリンクを張って、詳しい説明に引き寄せることはもちろん可能です。

●インターネット・ショッピングの状況

 インターネット上のショッピング・モール(買い物散歩道)は、アメリカの本屋「アマゾン・コム」はじめ大成功しているところもあるがそうでないところも多く、まだ模索期という感じですが、これで決済方法の簡略化・安全化が進み、あるいはその1手段として電子マネーが普及するようになれば、爆発的に発展していくと思われます。

 最近、日経新聞などでも話題になった日本の成功例の1つは、MDMという会社が運営する「楽天市場」(http://www.rakuten.co.jp/)です。従来の日本の電子ショッピング・モールがややもすれば大きく商売にしようと焦って、出店者にかなりの初期投資(サーバーの設営など)と高額の家賃(数十万〜百万円)を強いて、しかも商品内容の管理が自由でないなど、いろいろ問題があってうまく行かないところが多いのに対して、ここは、初期投資なし(パソコンとインターネットがあれば誰でも参加・操作できる)、家賃月額5万円、参加者が自由にモノを売れるフリー・マーケット方式ということで、13店で出発してたちまち200店、売上げ合計1億円を超えるようになりました。しかし、フリーであるだけにメニューは雑ぱくで、大手のデパートのお中元セ[ルから、個人の古着屋のたぐいまでが分類されて並んでいるだけで、市場全体としてはただの空間であって何の主張も考えもありません。運営の方法としては参考になる部分があるという程度です。

 ニッポン放送事業部が「サイバーマート楽市楽座」を開いていますが、主には放送番組の宣伝で、メニューとしては、○○農園の「塩梅」、××漁業の「鮮魚」、コンパックの「ノートパソコン」など、脈絡不明なものが10件ほど並んでいるだけで、名前負けの感があります。
 
インターネット上で検索をかけると、楽市や楽市楽座の名称はけっこう使われていますが、各地のふるさと物産館(岐阜県養老町など)、景観保存の町並み(会津)、お祭りやきのこ市などのイベント(伊賀上野市など)がほとんどで、内容は局部に偏っているか、上のニッポン放送のように貧弱かですし、また「電脳楽市」という言葉も、埼玉だかの電器屋さんがメニューの一部で使っているのが見つかった程度ですので、われわれが「食の電脳楽市」として打って出ることに問題はなさそうです。「電農楽市」でもいいかも。

 食の電脳市場として割と有名なのは「バーチャル八百屋」(http://www.yaoya.com/)で、これはある農家がニフティサーブを通じてジャガイモを販売したのがきっかけで、全国各地の農家・農園・漁協その他が参加して(10数軒のようです)、月1万2000円の家賃と売上げの5%を収めてやっているものです。1日10万ヒットというから大盛況と言えるでしょう(ヒットとは、1人の人がそこにアクセスして3つのページを見て出ていくと3ヒットと数えて、そのホームページの言わば視聴率を計る方法です)が、どのくらいの売上げになっているかは分かりません。出店を積極的に募集しており、けっこう申し込みがあるようですが、現実には、本当にいいものかどうか確かめるのが結構大変なようです。

 もちろん、個々の農家や末端農協や商工会などが産品をホームページで販売するのは増えていて、その中には、父ちゃん母ちゃんの顔や手入れを怠らない畑の様子などまで写真で入れて親しみやすさを出している「親父の田んぼ、お袋の畑」(http://www.bekkoame.or.jp/~zabi/)のようなものもありますが、しょせんは「私たちはこんなことをやっています」という程度で、インターネット直販が商売になっているところは少ないようです(これら食と農の関係のホームページについては、『現代農業』2月増刊号「インターネットで自然な暮らし」に紹介があります)。

●まだどこにもない独特の「楽市」

 そこで、われわれが「食の電脳楽市」をやるとすれば、それは単にモノを売るのでなく、21世紀的な暮らしにふさわしい、まさに本当の意味の「楽市」にしなければなりません。楽市は本来、自治の精神にもとづいたモノやサービスや情報の自由な交流空間であったのです。

(1)独自の時代観、食と農についての考え方を下地にした明確なコンセプト

 藤本流の食と農の考え方に立脚して、「21世紀、すべからく日本人は農的生活を心がけるべし」という主張を押し出し、そのこと自体を議論する一大フリー討論広場を設ける。藤本が改めて宣言を書き、それに関連する『現代有機農業心得』抜粋はじめ資料も搭載し、例えば私も「シジョウ経済からイチバ経済へ」とかいう小論文を出して参加し、それについて『ボランタリー経済』の著者=金子郁容慶大教授が何か意見を言ってくるとか、関東農政局の課長が「持続型農業」について考えを述べるとか、自治労の「農ネットワーク」も発言するとか、いう具合にする。またこの議論に関係するような仮想書店を開設して通販する。

(2)知り合いを中心にした“顔の見える関係”の中でモノとサービスを提供

 出店は自由ではなく、メニューに何を並べるかは、藤本を座長とする「座会」の協議と納得によって決定される。基本的には、自分や仲間が自ら作っているモノ、前からの知り合いでお互いに何をやっているか見えている関係や、さらにその知り合い(例えば十勝の平林さんの知り合いでまともなジャガイモを作っている人とか)くらいまでの範囲の人が作っているモノが中心になる。少なくとも座会メンバーの誰も会ったことのない人が行ったこともない場所で作っているようなモノは載せない。従って「バーチャル八百屋」などのように見ず知らずの人の不特定多数に出店募集をすることはしない。
 シジョウ経済では、モノはすべてカネに換算されヒトは見えなくなってしまい、そこにこそ無知や無責任や誤魔化しや放埒がふくらむ余地があるのに対して、イチバ経済は知り合い縁者や顔見知りやお得意さんといった“顔の見えるヒトとヒトの関係”をベースにしていて、そこでうわさ話や耳より情報が交換されたり、場合によってはカネを介ンさせずに物々交換でお互いに欲しいモノを手に入れることも十分にありうる。従来の原理主義的有機農家がやってきたのは生産者と消費者の緊密な「親戚づきあい」だが、そこまで単線的で他の入り込む余地がないような関係でなく、見知らぬ人でもブラッと入ってきて意外な出会いを楽しむことができるけれども、しかし付き合いだして常連になれば次第に顔見知りの関係になっていくという、野放図なシジョウ経済と頑なな反シジョウ経済の中間あたりが狙い目になる。

(3)コミュニティ通貨導入の実験も考慮

 その延長には、「コミュニティ通貨」の導入もあるかもしれない。地域振興券はお上が発行したが(世紀の愚策!)、欧米市民社会で何千も実験例が出ているコミュニティ通貨はもっと自治的なもので、例えば介護のボランティアに熱心に参加してその報酬としてドルでなくコミュニティ通貨を受け取って貯めておくと自分が介護される番になったときにその分だけはサービスを受けられるとか、それを持って指定の協賛店に行くと割引でモノが買えるとかいった仕組みである。われわれの場合、田んぼの草取りなり森林作業なりを半日やると藤本の肖像入りの“鴨川ドル”紙幣を1枚受け取り、それが例えば3枚あると出来た米をいくらか割引で買えるといったふうになる。
 労働をカネに換算するのでなく、かといってタダの奉仕あるいはお遊びに終わらせるのでもなく、仮想コミュニティ内部で独自の仕方で評価しお互いの関係を強める方向でそれを使うことになる(地域マネー・エコマネーについては『現代農業』5月増刊号「自給ルネッサンス」に何本か論文が並んでいて参考になる。ただし、ここで2本の記事を書いている加藤という通産官僚は、言っていることは悪くないが人格的には飛んでもない食わせ者で、サンフランシスコ領事館勤務当時にシリコンバレーでやっていた研究会{私もちょっと参加してました}の成果を自分の手柄として独占してメンバーの大ひんしゅくを買った人物なので要注意)。

(4)受け身の消費者であるだけでなく、能動的な行動者になるよう勧める方向

 単に受け身に「いいモノが欲しい」という消費者にとどまるのでは面白くない。自分も出来るだけそのモノを作っている現場に行って、作っている人に会い、作業にも参加して顔の見える関係に加わることが大事になる。そのために、そのモノに関わる参加型のプログラムを提示する――長狭米を買うだけでなく田植え・草取りに参加する、焼き物を注文するだけでなく体験教室に行く、ひまわり油が気に入ったら帯広の畑に行ってみる――という具合に、出来るだけアクションへの参加を呼びかける。「森林ボランティア」などアクションを呼びかけているホームページはあるが、モノとアクションを結びつけて多様な選択可能性を示すことがこの「電脳楽市」のユニークな特徴になるだろう。

(5)それらが全体として21世紀型農的生活のライフスタイル提案になる仕掛け

 モノのメニューがあまりに散発的では魅力に乏しいので、いくら知り合い関係を中心にすると言っても、その知り合いとか推薦とかを辿って、一応、暮らしの基本に関わる米、醤油、味噌、塩、酒、ビール、野菜、肉……など、そこで推奨されているモノや道具を使って自分の暮らしを再構成できるような“品揃え”が必要になる。藤本新居が導入した札幌の後藤さんの自然循環型汚水処理施設なども「使ってみたら」のコメント付きで推薦メニューに入るだろう。少し広げて考えれば、私の長年の知り合いの千葉トヨペットの勝又社長も同社鴨川支店を参加させたいと言っているので、トヨタのエコカー「プリウス」の“見本”を1台王国に寄付して貰い特別割引販売を斡旋するというようなこともあるかもしれない(可能かどうか知らないが)。あるいは、やはり知り合いの朝日ソーラの林社長に太陽熱温水器・発電器で参加しないかと声をかけることも出来る。いろいろな広がりがありうるが、しかし、顔の見えない関係にまでは絶対に広げないことが肝心である。
 モノだけでなくアクションがあるので、これは休日の過ごし方の提案にもなる。さらには、田舎暮らしをしたい人には、佐藤彰啓さんの「ふるさと情報館」、鴨川市の「空き屋対策」、連合本部と農協が協力して始めようとしている田舎暮らし斡旋計画などとリンクしていて家探しを手伝うことが出来るし、藤本校長の「定年帰農講座」や福島の今井さん講師の「森林ボランティア講座」もあるだろう。要するに、「楽市」に首を突っ込むとどうしても農的生活に近づいていってしまうというように仕組むことである。

●具体的には――

(1)まず「座会」を結成する。藤本、平林、鈴木、高野……など5〜6人? ここで議論をして全体の構成や仕組みについて決める。

(2)最初の出店・参加者をリストアップし、メニューを考える。また今後の拡張可能性を出し合って、手順や問題点を検討する。

(3)各出店・参加者は提供できるモノやサービスについてきちんと計画を立てる。モノの場合、現在は生産量に限りがありすぐに売り切れになってしまってもやむをえない。スーパーではないから、いつもその品があるとは限らない。

(4)バーチャル書店は、関係者の著書および関係者が推薦する書籍を通販するということで、鴨川自然王国事務局が担当したらどうか。古本屋をやるのも面白いが、これは手間が大変。

(5)「電脳楽市」サーバーの設営、システム、デザイン、決済方法などを技術的に検討し、サーバーを立ち上げる。これは少なくとも最初は、サーバーの置き場所とアドレスの割り当て、その管理も含め、高野の(株)ウエブキャスターで担当可能。

(6)各出店者は別に自分のホームページを持たなくても、「電脳楽市」に参加でき、注文や決済を代行して貰うことは可能。しかしせっかくだから自分らのやっていることを詳しく知って貰う方がいいので、出来るだけ個別のホームページを制作して「電脳楽市」からリンクを張るようにしたい。

(7)今年9月から運用開始し、年内には1日10万ヒットくらいになり、数年で売上げ1億円になることを目指す?!

                                 以上



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