さて、10月14日(土)と15日(日)は大豆とさつまいもの収穫です。特に大豆畑トラスト会員の皆さんは奮ってご参加下さい。いつものように、土曜日の昼に集合、午後は作業、夜は宴会、日曜日の午前も作業で、昼に解散です。大豆と芋の作業が土曜の午後で終わってしまえば、山賊小屋脇の森林の整備作業を行います。
準備の都合がありますので、必ず王国のほうに参加を連絡してください。とくに高速バス利用の方はその旨を明らかにしないと迎えの車が出ませんのでご注意下さい。
(3)反UHTキャンペーン
UHT牛乳なんて危ない!というキャンペーンの先頭に立ったのは「反LL実行委員会」と「日本消費者連盟」でした。反LL実行委員会は、早くから食品の安全問題や有機農法に関心を寄せていた東京都立大の電気工学の助手の高松修が代表で、ロングライフ牛乳に反対する運動を続けていました。その高松が『新鮮な牛乳を求めて』と題した著書を日本消費者連盟から出したのが1978年、また『食べものの条件』という績文堂から出した本の第1章を「牛乳」に当て、汚染された土や草で病的な状態で飼われている牛、そこから搾った乳の質の悪さ、超高温処理による成分破壊などを指摘したのが81年のことです。
そういう下地の上に、消費者連盟自身が機関紙「消費者リポート」82年6月7日号で「超高温の加熱牛乳でマウスが死にます/50年前のマウスの実験/LLミルクは超高温に加熱します」という衝撃的な記事を掲げたことにより、反UHTの一大キャンペーンの幕が切って落とされました。あとはいちいち経過を追うわけに行かないので、反対側が繰り出した論点を要約します。
(a)日本のUHTは120〜130度2秒だが、その前に85度6分の「予備加熱」を行っており、欧米では予備加熱は10〜45秒であり、日本式は栄養損失が大きい。
(b)UHT牛乳では可溶性カルシウムは加熱によって晶質状化されて人体に吸収されない形にまで壊滅的に破壊され、LL牛乳では良質なカルシウムはほとんゼロになっている。
(c)加熱によって牛乳の蛋白質の20%を占めるホエー蛋白は破壊もしくは変性して消化吸収されない。
(d)加熱によって褐色反応と呼ばれる化学反応が起きて、アミノ酸やビタミンの一部が減って栄養価が下がり、また5-ハイドロキシメチルフルフラールという毒性物質が生成される。
(e)高温処理で乳酸菌が死滅するため、乳酸菌が他の雑菌の増殖を抑えて日持ちをよくする効果が失われる。
(f)蛋白の1.3%を占めるトリプトファンという物質は高温加熱で発ガン物質になる。パックの内側を消毒する際に残留した過酸化水素に発ガン性がある。
(g)ヨーロッパ先進国ではパストゥリゼーションが主流で、北欧では96〜100%がそうであるのに、日本では原乳の質の悪さをごまかすためにUHTが早くから導入され、主流となっている。
(h)パックの中でクリーム化することを避けるためにホモジナイズ(均質化)処理が行われているが、それによって脂肪の自然な状態が壊されて酸化したり光化学反応したりしやすくなる。
高松はその後も何冊か牛乳告発の本を出し、一時は自ら牛を飼育することまで始めましたが、次に紹介する高橋晄正などとの論争のあとなぜか牛乳への関心を捨ててしまったようです。いま手軽に入手することができる本で基本的にこれらの論点を引き継いでいるのは、小寺とき=みんなの牛乳研究会代表『おいしくて安全な牛乳の選び方』(岩波ブックレット、90年)、平澤正夫『日本の牛乳はなぜまずいのか』(草思社、97年)などです。
(4)キャンペーンへの反論
こんなふうにボロクソに言われたら、当のメーカーがきちんとしたデータを出して正面切った反論をして、オープンな議論に委ねればいいと思うのに、どうも日本ではそうならないのが不思議ですね。このパターンは、同じ消費者連盟系のジャーナリストが『買ってはいけない』を出してベストセラーになって、その主張やデータの採り方が私のような素人から見ても著しく偏っていたりひん曲がっていたりするのに、メーカー側は“黙殺”を決め込んでいるという昨今の状況にも通じています。
ちゃんとした論争史がない(少なくとも私が調べた限り見あたらない)のであまり自信がないのですが、反UHTキャンペーンに対して医学・栄養学的な観点から最も包括的に反論したのは、高橋晄正で、その主張は『牛乳・その選び方──低温殺菌か超高温殺菌か』(薬のひろば97号、「薬を監視する国民運動の会」刊、85年10月)に集約されています。高橋は、東大物療内科講師を定年退職して和光大学講師に転じた医学博士で、アリナミン、グロンサンなどの薬がインチキであることを告発する消費者運動の理論的支柱となり、71年には「薬を監視する国民運動の会」を組織して研究誌「薬のひろば」を発刊しました。アカデミズムに立てこもったり、メーカーや役所に媚びてメシを食うのでなく、自ら運動に身を投じて科学面からそれを支えてきたことを自負しているタイプであるだけに、反UHTキャンペーンの非科学性に対する批判にはきわめて説得力があるように感じられました。彼の上記論点に対する反論の要旨は次の通りです。
消費者連盟が「マウスが死にます」の根拠として持ち出したのは、ビタミンCが発見される途上で行われた実験の1つで、牛乳を30分加熱してビタミンCを破壊し、それだけで飼育したマウスが壊血症になって死亡することを立証しようとしたもの。30分も加熱すればビタミンCが破壊されるのは当たり前だし、それだけを与えて他のものを与えないマウスがビタミンC不足に陥るのは当たり前であって、この結果を2秒間加熱のUHTもしくはLLによる牛乳の“危険性”と結びつけるのは余りにも無茶で、現在のUHT牛乳で飼育された動物が良好に発育しているという数々の実験結果を無視している。牛乳の加熱処理によって失われるのは後述(d')のように20〜25%であって、しかも日本人はそのマウスと違って他の食品から十分なビタミンCを補給していて牛乳にその補給源を期待していないので、その程度のビタミンCの損失があったからといってUHTあるいはLL牛乳が危ないということの理由には全然ならない。
(a')欧米では予備加熱が短いというのは、IDA(国際酪農連盟)リポートNo.496に出ているグラフの誤読で、欧米でも85度4〜6分の予備加熱が標準であることは本文をちゃんと読めば書いてあるし、同リポートの著者に手紙を出して確認したところ、「欧米では予備加熱が10〜45秒」というのは全くの間違いであることがはっきりした。
(b')まずカルシウムは元素であって、核反応でもしない限り「破壊」されることはなく、UHTでもLLでも、処理の前と後でカルシウム総量はほとんど変わらない。透過性(透析膜を通じて吸収される)カルシウムの一部が加熱によって非透過性に変わることは事実だが、非透過性カルシウムは吸収されないと考えるのは間違いで、腸管を通じて別の形で吸収される。
(c')加熱によってホエー蛋白は変性するが、変性は破壊ではなく結合構造の変化であって栄養価にも消化吸収にも関係がないというイロハを理解していない。食品は調理(加熱・乾燥・泡立て・酸やアルコールの使用など)すればすべて変性し、それがいやなら毎日サシミと生野菜で暮らすほかないが、それらも胃に入ると胃液の中の塩酸によって変性する。多くの場合、蛋白質は変性によって消化されやすくなるのである。
(d')UHTによるリジンなどアミノ酸の損失は最大でも5%であり、例えばみそ汁の加熱による遊離アミノ酸の損失が25〜45%であるのと比べれば栄養的に問題になるほどのものではない。また5-ハイドロキシメチルフルフラールについては、最新の測定技術ではほとんど検出されず、また各種の動物実験でも有害性は認められていない。ビタミンは、低温殺菌でB1、B6などが10%以下、Cが20%程度減少するが、UHTでも同じく10%、25%程度であり、どちらにしても日本人のビタミン摂取量全体にとってわずかな差でしかない。
(e')低温殺菌牛乳には乳酸菌が残っているので「抗菌作用があり他の悪い菌を食べてくれる」とか「冷蔵庫に入れなくてもヨーグルトになるから大丈夫」などというのは、細菌学的に根拠がなく、消費者に誤った衛生思想を広めるものである。かつてソ連のメチニコフがブルガリア・ヨーグルトを賞賛して「乳酸菌健康法」を世界中に広めたが、メチニコフは今はそれを撤回している。
(f')加熱によってトリプトファンが発ガン物質になるという主張は「5時間(UHT処理の2秒に対して9000倍!)も加熱した場合」の知見に基づいていて、まったく意味がない。製品化された牛乳に含まれる過酸化水素は平均0.03ppmであり、一般の食品中のそれに比べ100分の1程度の濃度にすぎない。また過酸化水素でパック内面を無菌消毒するLL牛乳が、それをしないUHT牛乳より過酸化水素の量が多いという検査結果は存在していない。
(g')西欧諸国で「パストゥリゼーションが主流」であるのは北欧4カ国、イギリス、アイルランド、オランダ、オーストリアの8カ国であり、おおむね寒い国である。それに対してUHTの比率が高いのはドイツ、フランス、スイス、ポルトガルなど7カ国である。アメリカ、カナダ、オーストラリアではUHTはほとんど行われておらず、これは国土が広く都市近郊に牧場があって牛乳の輸送が容易であることに関係している。日本では国土は狭いが都市近郊の牧場設営はますます難しく、牛乳の輸送距離は次第に延びる傾向にある……。
と、まあ一応双方の論点が出揃ったところで、じゃあ何が問題かはまた次号で。▲