農と言える日本・通信 No.42  2000-12-22      高野 孟

●[鴨川報告]大豆の選定がなかなか大変でした!

 今年最後の鴨川集合は、トラストした大豆の「選定作業」で、なんだそんなことと思われるかも知れませんが、これがなかなか大変で、枯れた鞘の破片やゴミや小石の混じった豆をまず「唐箕(とうみ)」という博物館モノの木製大型機械(←写真)を通して大雑把に選別してから、それを今度はお盆やに取って一粒ずつ精査して、変色して硬化した粒や発育不全でシワシワになった粒、細かい石やゴミを取り除いていくわけです。

 お頭の福井さんらは慣れているので、四角い木のお盆に豆を取って、少し向こう側に傾けると完熟した丸い豆だけが転がって集まって、手前側に悪い豆や小石やゴミが残り、ある程度溜まるとお盆の先だけをポンと跳ねて丸い豆だけを前に落とすというやり方でどんどん進めますが、我々がやると豆と一緒にゴミも落としてしまったりするので、結局、一粒ずつ指先でつまんだりしていて時間がかかります。寒空の下、20数人が地面に敷いたシートに座り込んで土曜日午後と日曜日午前の約6時間を費やして、ようやくトラスト分=1反歩から約150キロの収穫を得ることが出来ました。

 今や日本は世界最大の大豆輸入国で、国産化率はわずか3.8%(99年度)。500万トン近い輸入物のほとんどはアメリカやカナダの大農場で、収穫前(プリハーベスト)も収穫後(ポストハーベスト)もたっぷり農薬を振りかけられた、しかも半分以上は遺伝子組み替え品種と言われるもので、それが醤油や味噌や豆腐や納豆となって店頭に並びます。

 だから無農薬の国産大豆がいいということになるのですが、国産農家の多くも、輸入物と価格競争するには“効率的な”方法を採らざるを得ないでしょう。とすると、「輸入物は危ない!国産に限る!」という農協的な「食料安全保障=食料自給率向上」という論理では片づかないわけで、こうやって信頼できる農家と親類づきあいをして教えてもらいながら、自分たちも汗をかいて、国家としてではなくて個人としての食糧自給率を高める以外にないのではないかと思います。そういう意識がかなり広がってきて、いま全国で70以上の大豆トラストがあって我々と同じようなことに取り組んでいると言いますが、数年前までは3%前後だった国産化率が4%近くまで微増したのはその反映なのでしょう。

 ちなみに、作家・スポーツ評論家で鴨川長狭米の愛用者である玉木正之さんが時折我が家に届けてくれる京都「近喜」の極上の豆腐・揚げには「当店では遺伝子組み替え大豆は使用しておりません。国内産丸大豆100%ですので安心してお召し上がり下さい」と書いてあります。良心的な豆腐屋さんはみなこのように、信頼できる契約農家が作った無農薬・低農薬の有機国産大豆を使って、にがり以外の凝固剤や、揚げの場合には膨張剤などを入れずに手作りで作っています。

 なお「丸大豆」というのは、まん丸の大豆という形のことを言っているのではなくて「丸のままの大豆」という意味で、つまり粉末化されたクズ大豆のようなものを使っていないということらしいです。逆に言うと、スーパーなどの安い豆腐はそういう材料を使っている場合もあるということでしょう。豆腐ひとつも納得・安心して食べるのは大変なことなのです。鴨川自然王国では2月に、豆腐づくりと味噌の仕込みをイベントとして行いますので、是非ご参加下さい。

●[提案]「里山探検隊」を結成しよう!

 帯広には馬で山野を走る「十勝森林警備隊」がありますが(別に何にも警備していないんですが、そう名乗るのが面白いということです)、このほど鴨川では「大田代・里山探検隊」を結成するという高野提案が採択され、先日の大豆選別作業が終わった日曜日の午後、藤本敏夫、鈴木英幸、新井欣三、小原利勇、高野の隊員5名が第1回探検を行いました。

 藤本氏が“聖地”と崇める(王国ホームページの藤本連載「僕の自然王国」参照)ガンコ山北側の森の道を下降し、鴨川平野を潤す加茂川(川はこう書きます)の源流の1つである谷を探索しました。そこは鬱蒼たる広葉樹中心の森で紅葉(もみじ)の巨木がたくさん生い茂っている中に山から浸みだした清流が沢をなしている美しい場所で、下の集落が用水の採取のために設けているビニール管が見え隠れしているのがちょっと残念ではありますが、そのパイプを点検に上がってくる人のほかは訪れる人も皆無で、そのままそこに座って一日過ごしたいと思うほどの安らぎに満ちていました。そこは紅葉(もみじ)の紅葉(こうよう)が余りに美しいので「紅葉谷(もみじだに)」と名付けることにしました。そこからガンコ山西側の急斜面の杉林を這い登って、山頂から通常の登山ルートで東側に降りるまで、休憩を入れてざっと1時間半の行程でした。

 私の提案はこうです。鴨川自然王国の2001年の活動の1つとして(大田代集落から始まって次第に大山地区→長狭地域と広げていく)「里山探検隊」を結成し、農林作業プラスアルファの楽しみとして、例えば集合の際に日曜日の作業が終わった後の昼から行うとか、盛り上がってくれば別に集合日を設けるとかして、やっていくのはどうでしょうか。

 何をするのかというと、「地元学」の方法を採り入れて、我々が地元にあるさまざまな資源を再発見して、その保全と活用を考えていくことです。地元学は、仙台の結城登美雄さんが宮城県のみならず東北の村々をくまなく歩いてじいさん、ばあさんと茶飲み話をしながら、そこにある昔ながらの暮らしぶり、自然となごみながらつちかわれてきた生活文化を書き留める仕事をしている(『東北やま紀行/山に暮らす、海に生きる』=無明舎出版刊)中で提唱したもので、その結城さんから「ブナ林帯のめぐみ」という絵地図を見せられて触発された熊本県水俣市の企画課の職員の吉本哲朗さんが、同市で「ないものねだり」ではなく「あるもの探し」だということで仲間と実践して(『私の地元学』=NECクリエイティブ刊)、「地元学協会」も設立(吉本事務局長)、以来、各地でそのような取り組みが広がりつつあります。

 吉本さんは11月に発刊された「現代農業増刊」=『日本的グリーンツーリズムのすすめ』の中でも執筆していて、こんな会話から「水俣地域資源マップ」づくりが始まったと書いています。
「うちには資源は何もない。どうすればいいのか」
「では川には何がいる?」
「川にはアユ、コイ、ダクマ、ウナギ……」
「そうや、山にはどんな食べ物がある? 大きな樹はあるか? 神社は? 漬け物のおいしいのは誰が作ったものか?」
「そらあ、山にはドゼン、ゼンマイ、ヤマイモ、ヤマモモ。大きな樹はイチョウにナギノキに……」
 それらを、場所が特定できるものは1万分の1の地図のその場所に、特定できないものは余白に書き込みながら、「そんなんでいいの?」「いいんです」「そんだったらいっぱいある」というようにしてマップを作り上げていったのです。やってみると思いがけないものもいろいろ出てきて、ギンギツネがいた、世界最小のハッチョウトンボがいた、ケンポガナシという珍しい木が全部で10本あった、樹齢850年のナギノキがあった、ハゼの木が多くて和蝋燭の原料として全国の生産量の3割を占めていることが分かった、昔の風よけの石積みが9カ所あった、等々。それらを写真付きの情報カードに記録して、それを元に絵地図を作りました。すると「何もない」(裏返すと「何か」は都会にあるものだ)と思っていたのは錯覚で、実はいろいろな生活文化や資源があることが分かってきて、「そうか、当たり前がすごいんだ」と村のみんなが考え直したのです。

 土曜日昼のトラスト世話人会で私がこういうことをここでもやってみようと、まあいつもの思いつきなのですが、提案すると、石田三示さんも「大山千枚田保存会」の会長として千枚田にやってくる棚田オーナーたちで同じようなことをやろうと考えていたということで、じゃあ連携しつつやろうじゃないかということになり、絵地図は画家である新井さん(「はじめ」の名料理人というのは仮の姿なのです!)が担当することも決まりました。で、私が日曜日に早起きしてパソコンを叩いて作った取り敢えずの「里山探検隊チェックリスト案」は以下の通りです。

(1)このリストを「こんなこともあるよ」というみなさんの知恵を集めて膨らませていく。

(2)範囲は、大田代周辺から始めて、次第に大山、長狭へと広がるイメージで。

(3)「鴨川市史」やその他の記録を出来るだけ当たって、テーマごとに資料を集める。地図・資料集めというところから市の企画課を巻き込む。

(4)各テーマによって、村の長老、元校長さん、郷土史家、生物学者、野鳥観察家、昆虫採集家、野草採集家、森林ウォッチャー、樹医、炭焼のベテラン、建築家等々、専門知識を持った人の名前を挙げて、順次協力を求めていく。

(5)出来れば地元の子供たちにも参加してもらう。

(6)ということを進めつつ、手軽なところから順次、行動日程にしていく。

[チェックリスト案]

A 水の体系と生態

 水源、源流、地質と水質、棚田の水構造、加茂川水系の特徴など(専門家の実地診断)
 湧き水[キムテツ山へ行く途中の森の中に凄いのが1つありましたね]、名水
 鉱泉[500メートルほど下で湧いているという話があった]
 池、沼、小川、井戸など(言い伝えの聞き取り、生き物調査)
 治水の歴史(記録資料、言い伝え、象徴的建造物)
 水のある景観、ダム、橋、生き物、

B 森と木と草花

 嶺岡山系の植生、それを残している典型的な自然林、森林の現状診断(専門家の診断)
 清澄山東大試験林(この地域の植生を最もよく残す)の見学・観察
 巨木[石田三示宅裏の300歳の椎なんて周りを整備して注連縄でも張ったら?]、名木
 伝説の木、木のある景観
 竹林、竹利用の知恵、竹炭産業、炭焼き体験
 森と田の草花、山野草・キノコ・山芋、昔ながらの食べ方
 鳥、ホタル、昆虫
 森林整備計画、ツリーハウス計画

C 山と道

 主な山(田山、ガンコ山、キムテツ山……)、名称の言われ、伝説
 道、昔の道、散策路・自然観察路・ハイキングコース・「馬の道」の開拓可能性
 祠(ほこら)、社(やしろ)、地蔵尊、道祖神、道しるべ、隠れた記念碑、墓
 
D 村の暮らし

 棚田の歴史(昔の田植え、神事、田植え唄?)
 茅葺きの歴史(大田代に茅葺き職人集団がいた!)、昔ながらの構造の農家の造り
 里山の暮らしの技術や手仕事の記憶、昔ながらの道具
 神社・寺院とその歴史、祭り、民間信仰、昔話・伝説[代々木忠の古農家の幽霊!]
 特徴ある農産品、昔の食生活や料理(おばあちゃんの味)
 畜産(馬と牛)の歴史、嶺岡牧場(日本酪農発祥の地)、地元の牛乳
 酒作り、寿万亀?
 料理屋、旅館[街道沿いに「うなぎ・春木屋旅館」があるが、このへんにウナギが?]

 というわけで、鴨川愛好者のみなさん、来年はこのプロジェクトをスタートさせて一層楽しく遊びましょう!▲