斧と鉈



斧 (1)歴史編
  (2)現代編
  (3)実用編

鉈(制作中)




(1)歴史篇

 斧は、ナイフと並んで人類にとって最も古い工具であり武具でありまた祭具であって、ヨーロッパの森の民の間では少なくとも1万年前には打製の石斧が使われていたし、日本でも旧石器時代から縄文時代初めには打製や磨製の石斧が盛んに使われていた。

《工具》

 斧には古来「縦斧」と「横斧」があり、縦斧は柄に対して刃がほぼ平行についているのに対し、横斧は鍬(くわ)のように柄に対して刃先が直交するようについている。縦斧は生木を切り倒したり丸木を割ったりする大まかな作業に向き、横斧は木材の表面を削ったり加工したりする細かい作業に向く。

 また刃の付け方には「両刃」と「片刃」があり、両刃は普通、両側に左右対称のふくらみを持たせながら刃をつけるのに対し、片刃は片側を平らにしてもう片側に刃をつける。両刃は大きな木を伐ったり割ったりするのに適し、その場合刃の両側のふくらみが割れ目を押し開く役目をする。片刃は鋭利に切り取るのに適している。太古から世界中に両刃縦斧、両刃横斧、片刃横斧があるが、片刃縦斧はほとんどない。

 日本では紀元前5000年頃までは横斧が優勢だったが、前3500年頃から縦斧も盛んに使われるようになり、縦斧を立木の伐採し荒削りするのに使い、横斧を木材の加工用に使った。弥生時代になると、大陸から稲作文化と共に斧作りの技法も伝わって、両刃縦斧と片刃横斧を作って分け使い分けるようになる。後者がやがて鉄器時代を迎えて「釿(ちょうな)」に発展する。

 前200年頃から大陸系の鉄器が入ってきて、やがて国内でも鉄器製造が行われるようになって、弥生時代の終わり近い紀元250年頃には石器が完全に駆逐される。この頃には鉄斧のほかには「鑿(のみ)」や、「槍鉋(やりがんな)」と言って長い棒の先に槍の穂先状の刃をつけて木材の表面を削り加工する道具が作られた。斧と釿と槍鉋による製材法は後に「鋸」と「台鉋」に取って代わられる。

 弥生の遺跡から出土した斧を見ると、形は長方形もしくは刃先に向かってやや末広がりになっていて、今の斧と何ら変わらない。木を切り、割り、削って家や生活用具を作る営みは斧の歴史と共に古いのである。

 後世に「鉞(まさかり)」と呼ばれるのは、縦斧の頭がL字形にくびれて刃先が広くなったもので、最初は木樵が大型のものを製材用に用いたが、やがてもっと小型のものも作られて大工が材木加工に使った。金太郎こと坂田金時が担いでいるのは大鉞だが、絵本ではしばしば鉞だか斧だか分からないような富士山型の斧頭のものが描かれている。ちなみに、金太郎がなぜ鉞を担いでいるのかというと、彼は雷神と山姥の間に生まれた怪力の神童で、鉞を持つことで父が雷神であることを誇示しているのである。斧を雷と結びつける伝説や神話は、日本に限らず世界各地にあり、それは落雷が大木を切り裂くことからの連想かもしれない。

 斧は古い日本語では「多支=多岐(たき」」と呼ばれ、鉞は「多都岐(たづき)」と呼ばれた。鉞はその字を書いてハツリとも言い、それは木の表面を「はつる」という動詞からの転用だろう。釿は「手斧」と書いてそう読むこともあり、これは「ておの」が「ちょうな」に転じ、後に鉞の字が当てられたことを意味しているのかもしれない。

《武具》

 斧はまた早くから、狩りのための猟具であり戦いのための武具でもあった。西欧中世の騎士は馬上で特大の鉞のような斧をブンブン振り回して敵を倒したし、フランスの侵略と戦った英国の農民軍は、森の道具である斧を主な武器として戦場を駆けた。北欧のヴァイキングも斧を有効に使って船を襲い、その伝統は今もスウェーデンの「斧投げ競技」に引き継がれている。またアメリカ先住民は「トマホーク(Tomahawk)」と呼ばれる斧を狩猟や戦闘に使った。

 スウェーデンには「斧投げ協会(The Swedish Axe Throwing Society)」があって、毎年選手権大会を催している。1991年までは男性だけの競技だったが、翌年からは男女それぞれのチャンピオンが選ばれるようになった。ダブルビットと言って、ヘッドの中央に柄があってその左右にカーブをつけた刃があるタイプのかなり大型の斧を、両手で振りかざして背中から頭越しに6.1メート離れた的に向かって投げて点数を競う。それ専用の斧は、長さ61センチ以上、刃長15.2センチ以下、重量1134グラム以上と決まっていて、的は直径91.4センチ、地上から中心までの高さ150センチの木製で、中心に当たれば5点、その外側なら4点と、ダーツのように得点する。3回の投斧で合計得点が高い者が勝つ。2つの刃があると言っても、どちらが当たってもいいというわけではなく、構えたときの前刃(Fore-Bit)の先端(Toe)が的に突き刺さらなければならない。

 米国でも「トマホーク投げ」はナイフ投げと並んで、子供も含めた“ファミリー・スポーツ”として結構行われているようで、ネット上で検索しても全国団体は見当たらないが、地方の例えば「ロッキー山脈ナイフ&トマホーク連盟」が地区の選手権大会を催していたりする。

 米先住民はかつて石斧を使い、それを「トマハック」と呼んでいた。初期の植民時代に欧州の貿易商が鉄製の斧を持ち込んで、毛皮などとの交易材料に用いたため、先住民の間にも鉄斧が普及した。この欧州産の輸入物の斧は、最初「トレード・アックス(trade axe=輸入斧もしくは商人斧?)」と呼ばれたが、やがて先住民の呼び名に倣って「トマホーク」と呼ばれるようになり、米本土でも盛んに作られるようになった。と言っても、先住民だけがトマホークを使ったわけではなく、白人の開拓農民も初期の革命軍も工具や武器としてこれを使った。

 17〜19世紀に製造されたトレード・アックスやトマホークは蒐集趣味の対象で、「トレード・アックス&トマホーク蒐集家協会」のホームページ(と言っても個人のマニア仲間が開いているだけのようだが)もある。登山用のピッケルのように片方が尖ったピックになっているもの、その部分がハンマーになっているもの、煙草用のパイプを兼ねているもの(こんなもので煙草を吸わなくてもよさそうだが)など、いろいろあるが、標準的なのは、ヘッドの上部は水平であるのに対し下部が斜めに広がっていて、他に余計なものが何も付いていないタイプである。柄はストレートがほとんどで、材質はヒッコリーである。

《祭具》

 森林伐採用の工具としての斧は、神を懼れ魔物を退けるシンボリックな意味を持った。日本の木樵や農民たちの間では古くから、木を伐る前に幹に斧を突き立てて山神(やまのかみ)に伐採の許可を得、酒を酌み交わす「斧立て祝」の習俗があった。『延喜式』によると、大嘗祭の斎場を造営する際には「山神を祭り、酒を供えてから斎斧(いみおの)を取り、はじめて木を伐り、然る後に諸工(もろもろのたくみ)が手を下す」ことになっていて、これは木樵の旧い儀式がそのまま宮廷に取り入れられたものだろう。伊勢神宮の遷宮でも最初に斎斧の神事が行われるし、諏訪大社の御柱祭では御柱の伐り出しに朱塗りの神斧が用いられる。

 修験道で峰入りする山伏にとって斧は、草木を打ち払いながら道なき道を行くための実用の道具であると同時に、魔物を追い払う呪(まじな)いの法具でもあり、斧を持つ者を隊列の先頭にして進んだ。彼らは山の民で、金属探鉱、製鉄、鍛冶の技術やそれにまつわる呪術と結びついていたので、斧に特別の思い入れがあった。例えば熊野山伏は、鍛冶屋の神である鍛冶明神を敬い、そのためにいつも斧を肩に掛けていたという。日本の斧には今も「七つ目」と言って、表に3筋、裏に4筋の線が刻まれているが、これは山の民の魔除けの呪いの名残である。

 武具あるいは刑具としての斧が、王権の権威と結びついたのは当然である。中国では、殷・周の時代から青銅で作られた刃長30センチもの大きな鉞が王の象徴とされ、進軍するときは王自らが黄金で飾った斧を持った。また王が将軍に敵の討伐を命じるときに斧を下賜した。実際に斧が使われなくなった後代でも、王の衣装や装飾に斧のデザインを用いる習わしは長く続いた。古代地中海のミノス文明では双頭の斧が宗教上の象徴として重んじられ、また北米先住民は翡翠や蛇紋石などの美しい石を磨いた祭儀用の斧を作った。

《参考》
●竹中大工道具館 http://www1.sphere.ne.jp./tknk-mse/INDEX.htm
 同上「斧、鉞」 http://www1.sphere.ne.jp./tknk-mse/dougu/dogu6-10/06ono.htm
■村松貞次郎『大工道具の歴史』(岩波新書、1973年)
■前久夫『道具古事記』(東京美術、1983年)
■『竹中大工道具館・展示解説』(同館、1989年)
■佐原真『斧の文化史』(東京大学出版会、1994年)


(2)現代篇

 さて、斧が誰でも使う道具で、一家に一丁備えていて当たり前だったのは、欧米では19世紀中頃、日本では20世紀中頃までで、つまりは家庭の主な燃料が薪であった何万年かの時代が終わって、石炭や石油に置き換えられたことで斧の生活の具としての歴史も終わったのである。今では伐採はもちろん薪割りもチェーンソー1台で済んでしまうことになって、それでも敢えて斧で薪を割るのは薪ストーブのあるカントリー・ライフにこだわる人の趣味の世界である。

《モールとラージ・アックス》

 両手で振り上げて太い丸太を叩き割る大型の斧は、英語では「スプリッティング・モール(splitting maul=薪割り斧)」(あるいは単にモール)と呼ぶ。スウェーデンの代表的なメーカー「グレンシュフォシュ・ブルクス(Gransfors Bruks AB)」の製品ラインで一番大型の薪割り斧は、斧頭の重量2497グラム、刃長64ミリ、柄長792ミリで、刃の反対側がクサビを打ち込むためのハンマーになっているため「Hunmer-poll Axe(後頭部ハンマー付き斧)」と呼ばれており、鋼製のクサビとセットで購入するよう奨めている(日本で1万3500円、クサビは5900円で普通は2本必要──価格は代理店である長野県駒ヶ根市のストーブ専門店「ファイヤーサイド」社のカタログによる国内定価)。同社のそれよりやや小さい薪割り斧は「ラージ・スプリッティング・アックス(Large Splitting Axe)」で、これは重量1590グラム、柄長690ミリ(同1万2500円)で、ポール(後頭部)は「クサビを打ち込むようにはデザインされていない」と明記されている。ヘッドの重さが1.5キロ程度までは「(ラージ)アックス」と言い、2.0キロくらいから上になると「モール」と言うのが欧米人の語感であるらしい。

 米国の代表的メーカー「スノー&ニーリー(Snow & Nealley)」の場合は、最大のモールは重量3624グラム、柄長900ミリで、グレンシュフォシュのより一段と大きい(42.95ドル)。米国にはもっと重い「マジック斧」(メーカー不明)があって、これは総重量5500グラム、柄も鉄製で手元にラバー巻いていて長さ770ミリ、普通の斧では割れない硬い丸太や節のある薪を魔法のように一刀両断してしまうのでその名が付けられている(これもファイヤーサイド社で扱っていて1万3500円)。

 日本の薪割り斧は、欧米のモールと比べて総じて斧頭がやや小さく柄は長い。斧自体の重みよりも遠心力を利用しようという発想なのだろうか。土佐の有名な刃物鍛冶「豊国鍛工場」の昌之の薪割斧は、重量2150グラム、刃長90ミリ、柄長900ミリで、柄材は樫。これはモール級である(ネット通販で1万円)。「菊堂」の木割斧は、重量1500グラム、柄長900ミリ(東急ハンズで扱っていて7920円)。ラージ・アックスに相当すると考えてよい。

《アックスとハチェット》

 もともと明確な境界があるわけではないから定義は難しいが、いろいろなカタログを見比べると、重量が900以下550くらいまで、柄長が650以下400ミリくらいで、大きめのものは両手で使うこともあるが基本的には片手で使うことができるものをアックスと言い、もっと小さくて片手でしか使いようのないものを「ハチェット(hatchet=手斧)」と呼んで区別しているようだ。

 グレンシュフォシュ社のラインナップには次のようなアックスとハチェットがある。[ ]内の用途は私が勝手に分類したもの。私が持っているのはSmall Forest Axeで(写真)、形がなかなか美しい。「20年間保証」の保証書が付いているのがすごい。

用途・製品名
重量
刃長
柄長
特徴
[森林・狩猟用]




Traditional Forest Axe
  905
  88
625
両手で持って倒した木の枝を払う
Small Forest Axe
  680
  81
475
薪作り用。上より小さく携帯可能
Hunter's Axe
  680
  81
475
上と同型で後頭部に皮剥用の刃が
[木工用]




Large Carpenter's Axe
  905
100
500
大型ナイフのような削り出し加工に
Small Carpenter's Axe
  680
  88
450
上と同じく刃も柄も直線で刃が薄い
Swedish Carving Axe
  905
108
350
カーブした大きな刃で木工や彫刻に
Swedish Broad Axe
1359
175
500
さらに大きな鉞型の刃でログを加工
[キャンプ用]




Wildlife Hatchet
  453
  75
350
アウトドア活動で腰に下げて使う万能手斧
                 

 もう1つスノー&ニーリー社のアックスとハチェットのラインナップは次のようである。
用途・製品名
重量
柄長
特徴
[森林用ラージ・アックス]



"Our Best" Single Bit
1586
750
森林作業プロ用のラージ・アックス
"Our Best" Single Bit
1024

上よりやや小さく家庭などで汎用に
Mini Maul
1359
450
ヘッドが重いが柄はハチェット並み
[一般用アックス]



Penobscot Bay Kindling Axe
  793
450
片手で薪割りをするのに使いやすい
Hudson Bay Camping Axe
  453
600
同社の代表的な汎用ハドソンタイプ
[特殊な型]



Double Bit Axe
1359
900
双頭刃で片方を鈍く片方を鋭く研ぐ
Pulaski Axe
1359
900
後頭部が鍬型で穴・溝掘りに使える
[ハチェット]


Boys Belt Axe
  453
375
子供も使えるキャンプ用ハチェット

 スノー&ニーリー社の代表的なアックスである「ハドソン・ベイ」型は、カナダのハドソン湾地方の先住民やアウトドア愛好者に広く使われているタイプで、先住民のトマホークを踏襲してヘッドの上部は直線で下部は130度くらいに開いて刃先がやや長くなっている。元々は1670年にイギリス王室のお声掛かりで設立された毛皮貿易のための「ハドソンズ・ベイ会社」が、仕事に必要な道具として自社でこのような斧を生産したことからそう呼ばれる。ハドソンズ・ベイ会社は今もカナダのマニトバにあって相変わらず毛皮を扱っている“カナダ最古の会社”である。米国ではスノー&ニーリー社はじめ同社が本拠を置くメイン州でこのタイプが多く作られている。それに対して、ヘッドがほとんどストレートでやや刃先に向かって開いている標準的なタイプは、米国では「ミシガン」型、スウェーデンなどでは「ヤンキー」型と呼ばれている。

 ドイツのチェーンソー・メーカー「スチール(STIHL)」も数種類の斧を出している。私が持っているのは小型の手斧で(写真)、重量 グラム、刃長 ミリ、柄長 ミリでずいぶん前に東急ハンズで求めたが、杉の木を薪割りしようとしたら柄が折れてしまった。クレームを付けて「天下のスチールがこんな粗悪品を売るとはどういうことなのか、ちゃんと説明してほしい」と言ったが、ただ黙って柄を交換して返してきただけだった。東急ハンズもスチールもいい加減なのだ。ちなみに、欧米の斧を買うと、刃が付けてない場合がある。グレンシュフォシュは刃を付けて皮のケースに収めて売っているが、スチールは刃がなくケースもないので、買ってきたら自分で刃を研がなければならない。

 日本の斧は、基本的にはミシガン型と似ているが、ハドソン型のように上部がストレートで下部がややカーブを描いて広がっているものも多い。地方によって微妙な違いがあり、「土佐打刃物連合協同組合」で出しているパンフレットを見ると、土佐型根切斧、信州型根切斧、紀州型根切斧、節切斧、バチ斧、サツマ型、吉野斧、消防斧……など23種類の斧と9種類の鉞のヘッドの違いを比べることができる。多くが上部はストレートだが、吉野型、紀州型は上部もゆるやかにカーブしている。

 日本の手斧(「ちょうな」でなく「ておの」=アックス)は、豊国鍛工場の昌之のもので重量960グラム、刃長80ミリ、柄長450ミリだから、グレンシュフォシュ社のフォレストないしスモール・フォレストのアックスにほぼ相当する。

《参考》
■『ウッディライフ』第77号「アックス」(ウッディアイテム考現学第3回)
■『The Axe Book』(グレンシュフォシュ社刊、1997)
●ファイヤーサイド社 http://www.firesidestove.com/
●グレンシュフォシュ社 http://www.gransfors.com/htm_eng/index.html
●スノー&ニーリー社 http://www.snowandnealley.com/am.htm
●ハドソンズ・ベイ社 http://www.hbc.com/hbc/
●豊国鍛工場 http://www.toyokuni.net/
●土佐打刃物連合協同組合 http://tosahamono.com/→「斧」のページへ


(3)実用篇

《枝を払う》

 今では、木を切り倒すのはもちろんのこと、枝を払って丸太にするのも、さらにその丸太の幹を適当な長さに切って円筒型の丸木を作るのも、チェーンソーの仕事である。しかし、せっかく大きな斧を持っているから、せめて枝を払うくらいはそれを使って気分を出したいということもあるだろう。

 横倒しになった大きな木の枝を払って丸太にするには、グレンシュフォシュ社で言えば「フォレスト・アックス」のような、両手で振れるだけの柄長のある、刃が薄くてカーブしているアックスを持ち、払いたい枝のある反対側に木の幹に並行して地面に立って(刃が滑っても脚に当たらないようにするため!──決して幹の上や他の枝の上など不安定なところに立ってはいけない!)、ゴルフのスィングのように体の右上に振り上げて枝の付け根の根元に近い側に振り下ろす。太い枝の場合は反対側からも切り込みを入れる。

《薪を割る》

 伐採したばかりの生木は45%程度の水分を含んでいる。薪として燃やすには水分が25%以下になっていなければならず、そのためには(出来れば冬に伐採して)一夏を超えて最低1年間は乾燥させる必要がある。と言っても、丸木や枝をそのまま置いておいたのでは、樹皮が水分の蒸発を防ぐ役目をするので乾きが遅い。しかも丸木は乾くほど堅くなって1年後にはカチンカチンになる。裁断した丸木はすぐに薪に割り、割る必要がない細い枝は斧で樹皮を数センチの幅で剥いで乾燥を助けるのがよい。

 太い丸木を割るには、厚みがあって頬の張っているヘッドと長い柄を持つ斧が適している。グレンシュフォシュ社で言えば「スプリッティング・モール」と「クサビ」のセットである。

 台木は、樫のような堅い木のほうが持ちがよい。その上に、丸木を縦に置くが、普通、頂点側を上に根元側を下にしたほうが割りやすい。他人が周りにいないことを確かめて振り上げ、柄の尻を握って十分に遠心力を効かせて振り下ろし、刃が木に当たる時に腰を落としてグリップの位置を木の上部よりも低く保つようにする。グリップが高いと、力が入らないばかりでなく、ミスしたときに刃が自分の足先に向かう危険がある。

 普通は丸木の中心に斧を入れる。枝を払った跡があれば、それを中心線に持ってくると割りやすい場合がある。太い丸木は、中心から割ろうとせずに、最初に左右3分の1ずつに割れ目を入れてもよい。もっと太い場合や、木が堅く乾いていて割れそうにない場合は、クサビを入れる。クサビは2本使って、交互に動かしながら裂け目を広げていく。普通のアックスをクサビの代わりに使ったり、それをクサビの打ち込みに使ってはならない。アックスはそのように後頭部に強い衝撃を与えるようには作られておらず、それがアックスとモールの決定的な違いであることを理解しなければならない。

 刃が木に食い込んだが一発では割れないという場合、そのまま持ち上げて向きを変え、斧の後頭部を台木に打ちつけて、木の重みで割るという方法もある。食い込んだ斧を抜こうとして左右にこじると柄の付け根が痛むので、かならずポンプを汲むように上下に動かすようにする。

《薪を積む》

 薪を積むのも1つの技術である。一般的な30センチ前後の薪を積む場合の基本は……、

(1)水はけのよい、出来るだけ平らな場所に、敷き木(細い丸太など)を2〜3本敷いて、薪が直接地面に触れないようにする。

(2)乾燥しやすくするために、樹皮を下側にし、適当な隙間を空けて、崩れないように積む。

(3)大量に積む場合は、端を壁や杭などで支え、あるいは60〜90センチの半割りの薪を作っておいて井桁に組んで、安定させる。

(4)上にシートか波トタン板をかけて1年間以上乾燥させる。


 薪もきれいに積めば一種のアートで、日本では東北地方で今なお「木ヅマ」と呼ばれる立派な屋根の付いた薪の垣根を作る地域がある。スイスやスウェーデンでは、庭先に円形積みして上に花鉢を飾ったり表札を吊したりしてエクステリアにするやり方がある。前出の『The Axe Book』に紹介されている方法は、(1)地面に細い丸太を格子状に敷き、(2)その上に大きめの薪を粗めに並べ、(3)真ん中を空けて外周が円形になるようドーナツ状に積んでいく、(4)小さな薪や不定型な薪は真ん中の穴に放り込む——というもの。崩して燃すのが惜しくなりそうだ。

《参考》
■『The Axe Book』(グレンシュフォシュ社刊、1997)
■深澤光『薪割り礼讃』(創森社、2001年)


 

(制作中……)