チェーンソー 

《あらゆる道具の中で最も危険なものだという認識を!》

 チェーンソーの刃は、回転していないときに手が触れても怪我をするほど鋭利で、それが最高速では秒速20メートルもの速さで回転するのだから、扱いを誤ると致命的な事故を引き起こす。斧などを使う場合の一般的な注意がすべて当てはまるのは当然だが、それに加えて、あらゆる道具の中で最も危険な部類に属するものとして、特別の知識と細心の注意が必要である。

 以下、操作や保守の部分は独STIHL社製の場合に沿って述べているが、基本的なことは他社製でも変わらない。
 

●作業者の心構えと身支度

(1)未経験者や初心者は、必ず「取扱説明書」を通読する。
 その上で、経験者に付き添って貰って指導を受けながらチェーンソーを使用する。
 子供には絶対に触らせない。

(2)声が届く範囲に他の人がいない状況で1人だけで作業しない
 またチェーンが他の人に触れるような状況で使用しない。

(3)身体的・肉体的に健康な状態で使用する。
 薬物やアルコールを飲んで視覚、機敏性、判断力が低下している場合は使用してはならない。
 また長時間の作業で疲労すると、機械のコントロールを失いかねないので、必ず休憩をとる。
 余りに長時間、連続使用すると、振動で手がしびれ、ひいては白蝋病や壊死になる。
 素人の場合、1日のチェーンソー使用時間は2時間以内にとどめるのが望ましい。

(4)服装は丈夫で動きの自由なものを着る。
 スカーフ、ヒモ、装身具類、首や腰に掛けたタオルなど、ひらひらしたものはチェーンソーに巻き込まれるので避ける。
 ベストなのは肩・袖・裾などに切断防止用の補強加工を施した専用のオーバーオールである。

(5)安全帽、厚手の手袋(軍手より革手袋)、スリップしにくい(出来れば)安全靴、防塵眼鏡を着用する。
 

●チェーンソーの扱い

(1)チェーンソーにはいかなる改造も加えてはならない。
 アタッチメントと部品は必ずメーカー純正品もしくは認定品を使用する。

(2)持ち運ぶ時は、エンジンを停止し、チェーンのガードカバーを嵌め、チェーン部分を後ろ向きにして持つ。
 チェーンを裸で前向きにしていると、転んだ時に刃が当たって怪我をしやすい。
 トラックの荷台などに乗せる時はしっかり固定する。

(3)給油する時は、必ずエンジンを停止し、冷めてから行う。
 作業中はマフラーとその周辺が高温になっており、すぐに触れると火傷する危険がある。
 また天候や機械の調子によっては、燃料タンク内の蒸気圧が高まることがあるので、タンクのキャップはゆっくり外す。
 燃料がこぼれてハンドルに付くと手が滑る原因となり、また周りに飛び散ると火事の原因になるので、慎重に扱う。
 燃料を扱っている時に煙草を吸ってはならない。
 給油後、キャップはドライバーで強く締めて、作業中に緩んで外れることがないようにする。

(4)エンジンを始動する時は……、

 (a)葉や枝が落ちていない平らな地面を選び、チェーンが物や地面に触れていないこを確かめる。
  自分以外の人を遠ざけ、また子供や動物などが近寄ってこないか確かめる。

 (b)燃料が漏れていないかよく見る。

 (c)ハンドガードを前方に押してチェーンブレーキをかける

 (d)レバーを最下段のH印(冷気スタート=チョークシャッター閉鎖)にする。
  エンジンが暖まっている場合は、一段上のN印(暖気スタート=チョークシャッター開放)にする。

 (e)左手でハンドルバーを握り、右足先を後ハンドルの中に入れて固定して、右手でスターターグリップを引く。
  周りに平らな地面がない場合、左腕を伸ばして肘をロックし、後ハンドルを両腿で挟み右手でスターターを引く。

 (f)スターターグリップは、力任せに引くと紐が切れる。
  最初ゆっくり引いて、抵抗を感じるところで勢いよく強く引く
  また引いてから手を突然離すと紐が内部で絡まるので、ゆっくり巻き取られるように手を添える。

 (g)なかなか着火せず、H印のまま何度もスターターグリップを引くと、燃料の吸いすぎで余計に着火しにくくなる。
  その場合は、N印の位置でスタートを試みる。
  それでも着火しなければボックスカバーを外してスパークプラグを乾かす。

 (h)エンジンが着火したら、すぐにレバーを一段上のN印に上げ、チョークシャッターを開く。
  すぐにそうしないと、やはり吸いすぎでエンジンが止まる。

 (i)スロットルトリガーを軽く引くと、レバーは自動的にI印(運転)の位置に上がる。
  エンジンはアイドリング・スピードの状態となる(チェーンは回転しない)。
  チェーンブレーキをかけたままスロットルトリガーを引いてフルスロットルまで3秒間だけ加速する。
 (それ以上続けるとブレーキが傷むので。)
 ブレーキが利いていることを確認し、それからハンドガードを手前に引いてチェーンブレーキを解除する。

 (j)刃先を板などに向けて、軽くチェーンを回転させ、刃先からオイルが飛んでいるかどうか確認する。
  これで作業にかかることが出来る。

 (k)新しい機械の場合は、燃料タンク2〜3杯分はフルスロットルにしないで慣らし運転する。
  またチェーンを新しいものに交換した場合は2〜3分間、慣らし回転させオイルを行き渡らせる。

(6)チェーンのたるみを常に注意する。

 (a)エンジン起動時は、チェーンが冷えているので、ガイドバーの下部にぴったり密着し、なおかつ手で回せる程度に張っておく。

 (b)作業中はチェーンが熱で伸びてたるみが出てくるが、バーの下部の溝からチェーンの爪(ドライブリンク)が外れない程度に張っておかないと、チェーンが飛び出す危険がある。
 調整するには、エンジンを止め、チェーンブレーキは解除した状態で機械を横にして置き、ボックスカバーのナットを緩め、バーの先端を持ち上げながらスクリューをドライバーで回す。

 (c)作業が終了したら、チェーンは必ず緩めておく。冷えて縮んだ時にシャフトやベアリングを傷める危険がある。

(7)チェーンソーは必ず両手で握る。片手では反発力に対処できず機械のコントロールを失う。
 また肩より高いところで使ってはならない

(8)安定した足場を確保する。雨や雪で濡れたり凍っていたりする地面で足を滑らせたり、倒木、切り株、根、岩などに躓いたり、落ち葉の下に隠れた穴や溝に足をとられたりすると、回転しているチェーンが身体に触れて大事故となる危険がある。

(9)木や木製品以外のものは絶対に切ってはならない。勢い余って地面を掘って石に当てたり、釘に触れたりすると、チェーンの刃が欠けたり、石や釘が作業者に当たったり、キックバックを起こしたりして極めて危険である。

(10)常に反発力を警戒する。反発力は、回転するチェーンが固いものに当たったり、木や枝に挟まれた時に、機械がコントロールできないほど急激な予想不能の動きをすることで、特に起こりやすいのはバーの先端から上部4分の1が固いものに当たったり挟まれたりした時にチェーンの回転方向とは逆の手前方向に突発的な力が働く「キックバック」で、バーが上に跳ねて機械をコントロールできなくなったり、場合によって作業者の顔面に向かって飛び跳ねて大事故を起こす。

また刃の上部が当たったり挟まったりすると、機械が作業者の方向に強く押しつけるように動く「プッシュバック」が起き、刃の下部が当たったり挟まったりすると、機械が前方に飛び出すように動く「プルイン」が起きる。

 これを避けるには、

 (a)刃の先端や上部で切ろうとしたり、そこを物に接触させたりしない。

 (b)必ずフル・スロットルで切り始め、そのまま最後まで切る

 (c)無理な姿勢や梯子の上など足場が不安定な状態で使うことを避ける。

 (d)目立てしていない刃、緩んだチェーンだと挟まりやすい。
 
 (e)切断中の木が動いて切り口が閉じるとチェーンが挟まってしまうので、断面の動きに細心の注意を払い、必要ならクサビを打つ。

 (f)バンパースパイクを木に当てて切り始めると反発力を防ぎやすい。

 (g)また切断口の延長線上に身体を位置させず、その左側に立つようにすると反発力の打撃を小さくすることが出来る。
 

●立木の伐倒

(1)伐倒する前に、どの方向に倒すかを、立木の傾斜や周囲の状況を考えて決める。
 倒す方向に十分な空間がない場合や、その木や隣の木に太い枝があったり、蔓が絡まったりしている場合は、うまく倒れずに引っかかって、引き倒すのに膨大な時間とエネルギーを費やすことになるので、よく見極める。

(2)倒す方向の反対側の左右45度の方向に退避路を想定し、障害物を取り除いておく。

(3)木の根元のあたりはあらかじめ枝や低木を取り除いて、反発力が起きにくく作業がしやすいようにしておく。

(4)傾いて張力がかかっている木、中が朽ちていたり腐っている木は、伐倒中に突然、思わぬ方向に倒れたり、途中で折れたり、裂けて飛び跳ねたりする危険があるので、初心者は避けた方がいい。

(5)倒す方向に面した立木の根元に、地面に出来るだけ近く「受け口」を切る。上から45度の角度で、木の太さの5分の1〜4分の1の深さまで切り下げ、次に水平に切り込みを入れて、三角形の木片を取り除く。

(6)受け口の反対側の、受け口下端より3〜5センチ上から水平に「追い口」を切る。倒すタイミングと方向をコントロールするために、受け口との間に木の直径の10分の1ほどを切り残す(この切り残しを「弦」と呼ぶ)。方向を微調整する場合は追い口にクサビを入れる。太い木の場合は弦の両側の追い口と同じ高さに切り込みを入れるとバリが残るのを防ぐことが出来る。

(7)倒す時は、その方向に他の人がいないことを確認し、また周辺のあらゆる方向にいる人に声や笛で警告の合図をしてから倒す。予定通りの方向に倒れなかったり、折れたり裂けたり跳ねたりして思わぬ方向に激しい勢いで飛んできたり、大きな枝が落ちてきたりすることがあるので、周辺にいる全員が注意を集中する必要がある。倒す方向の真後ろには立ってはならない。

(8)倒れた木の枝払いは、特に下側になった枝がねじれたり潰れたりしていて反発力を起こしやすいので、慎重に行う。

(9)倒れた木に負荷がかかってたわんでいるいる場合、安易に玉切りしようとすると、チェーンが挟まれる。圧縮がかかっている側に少し切り込みを入れ、次に張力のかかっている側から切っていく。
 

●チェーンソーの保守管理

(1)燃料はガソリンと2サイクルエンジン用エンジンオイルの混合燃料を用いる。

 一般的なエンジンオイル(等級TC)を使う場合はガソリン25に対しオイル1(ガソリン1000cc:オイル40cc)、STIHLの専用オイルを使う場合は50対1の比率とする。混合燃料は2〜3日で使い切る分量を混合し、混合してから30日以上経ったものは使わない

 混合する時は、先にオイルを入れ、次にガソリンを加える。給油する時は、燃料キャップの周りを掃除して、ごみがタンク内に入らないよう気を付ける。

(2)チェーンオイルは専用オイルを用いる。燃料を補給するたびにチェーンオイルも補給する。燃料が空になった時にチェーンオイルが少量残っていれば、チェーンオイルが正常に供給されていることを示す。

 チェーンはいつもオイルの薄い膜に覆われていなければならず、オイルがなくなったり、正常に供給されないとたちまち破損して修理不能に陥る。オイルの量は調整スクリューを回して行うが、通常は真ん中のE印(最も経済的な設定)にしておく。

(3)チェーンブレーキは、趣味で時々使う人でも1年に1度は点検・整備を受ける。

(4)空気取り入れ口、エアフィルターが汚れるとエンジンの出力が低下するので、時折掃除する。

(5)ガイドバーは、チェーンの目立てをしたり交換する度に裏返しにし、一方のみが摩耗することを防ぐ。

 バーの溝やオイルの通り道にごみが詰まっていないか点検する。バーの溝が5ミリより浅くなったらバーそのものを交換する。

(6)チェーンは定期的に点検し目立てを行う。目立ての工具はチェーンの規格に合った専用もしくは推奨のものを使う。

(7)掃除・手入れにはエアガンがあると便利。
 

●チェーンソーの歴史

 チェーンソーは「動力のこぎり」で、エンジンによって得られた動力によって案内板に張られた鋸歯(ソーチェーン)を駆動して木材を鋸断する伐木・造材用機械である(平凡社『世界大百科事典』の定義)。「案内板」とはガイドバーの直訳である。

 この道具は、今世紀の初め頃に米国とヨーロッパでほぼ同時に開発されたらしい(以下主として『ウッディライフ』No.80を参考にしている)。

 1906年に米国でガソリンエンジンを搭載したチェーンソーが出現したとの記録がある。が、初期の機械は非常に大きく、100キロ近くもあってとうて持ち運びのできるものでないため、地面に据え付けて木材を運んできて切断した。

 持ち運べるチェーンソーが出現したのは1920年代で、その軽量・小型化の技術開発をリードしたのがドイツのスチール(と日本で呼ばれているが、STIHLは正しくはシュティールだろう)社である。それでも当時の機械は50キロ前後あり、操作するには屈強な男が2人がかりで支えなければならなかった。現在のような1人で扱える「ワンマンソー」が生まれて普及したのは第2次大戦後のことである。

 米国では、1940年代にMall社の2人(Two Men)ソーが現れ、やがて第2次大戦を通じての軍事技術・素材開発の成果を採り入れてMcCULLOCH(マッカラー)社のOne Man ソーが登場する。このへんの米国の歴史は、ロバート・ヴァンナッタというログハウス趣味らしい人の個人ホームページの"Logging Tools"のページに、旧いMallやMcCULLOCHの写真入りのマニアックな解説があるので、お好きな方はどうぞ。

 日本には1950年頃から大量に輸入され、折から本格化した植林事業で活躍した。やがて国産メーカーも現れ輸出も行われるようになった。その陰で、林業従事者の間で白蝋病などの振動障害や事故が深刻になり、メーカー側は振動防止用のゴムを数カ所に組み込む防振システムを開発したり、またキックバックが起きると自動的にチェーンが停止するブレーキを開発するなどして対応した。

 さらに、着火を容易にする点火装置や減圧装置、排気ガスを清浄化する触媒付き装置、チェーン以外の工具を装着してピーリング(樹木の皮剥ぎ)などを行うアタッチメント、チェーンオイルが飛散しても自然の中で分解するバイオオイルなど、作業性を高め、環境対策も考慮した技術改良が行われ、林業プロだけでなく一般のログハウス作りや日曜大工の工具としても使われるようになった。
 

●チェーンソーのメーカーとモデル

 昔から林業プロの間で定評を得ているのは、ドイツのSTIHLとスウェーデンのハスクバーナ(Husqvarna)である。米国の代表的ブランドとしては上述のマッカラー(McCULLOCH)があるが、日本で使っている人はほとんどいないようだ。国産では林業プロが使う新宮商行のシングウのほか、どちらかと言えば家庭用として日立工機、共立、マキタ、リョービなどがある。
 エンジンの排気量によって4つのクラスに分かれる。なおエンジン式のほかに電動式・充電式があり、これらは排気量・重量とも30〜40ccクラスで家庭用である(表中*印は電動式)。
 
 
 
排気量クラス
(主用途)
本体重量 ガイドバー長 主なモデル 排気量 重量 定価
30〜40cc 
 木工
 薪作り
 樹木手入れ
  など
3.0〜4.5kg 35cm リョービMC-25A*
ハスクバーナEL16*
スチールE140*
マキタUC120DA*
マッカラー3505AV
共立CSV3500
シングウSV3800
スチール020
電圧100V
電圧100V
電圧100V
充電式
38cc
35.8cc
38.2cc
35.2cc
2.3kg
3.2kg
3.2kg
2.2kg
5.4kg
3.9kg
3.85kg
3.8kg
1万6800円
3万5000円
3万8000円
4万2600円
6万8800円
7万8000円
9万1000円
9万7000円
40〜55cc
 ログ作業
 小径木間伐
  など
4.5〜5.5kg 35〜40cm  共立CSV4400
スチール023
スチール026
ハスクバーナ254XP

40.2cc
48.7cc
54cc

4.7kg
4.7kg
5.4kg
14万2000円
55〜65cc
 中径木伐倒
 玉切りなど
5.5〜6.0kg 40〜50cm シングウSP632D
スチール036
ハスクバーナ262XP
62cc 5.8kg  20万2000円
65〜120cc
 大径木伐倒
 平挽きなど
6.0〜10kg 50〜120cm  スチール088W
ハスクバーナ288XP

9.9kg

 55cc以上は、熟練者、林業プロ用で、初心者は40cc以下で習熟するのが無難である。ちなみに高野が最初に購入したのはスチール020で、これは小型ながら40ccクラスに匹敵する性能があり、ちょっとした杉林の間伐程度には充分使用に耐えるので、入門機として最適である。ちなみにホームセンターなどでの実勢価格は定価の2〜3割引きである。高野の場合、定価9万7000円のSTIHL-020を近所の工具専門店で7万5000円で購入した。
 

[参考]主要メーカーのWeb情報
 
◆STIHLの「チェーンソー」ページ http://www.stihl.co.jp/navi/default.htm?cat=0&sub=1
◆Hasqvarnaの「チェーンソー」ページ http://www.international.husqvarna.com/node150.asp
◆共立の「チェーンソー」ページ http://www.kioritz.co.jp/product/products_chainsaw.htm
◆共立「チェーンソー安全読本」
http://www.kioritz.co.jp/support/index_safty_chain.htm
◆新宮商行のチェーンソー・ホームページ
http://www.shingu-shoko.co.jp/catalog/ks/ks_cs.html
◆日立工機の「エンジン工具」のページ
http://www.hitachi-koki.co.jp/powertools/products/engine/engine.html