刃渡と刃長と刃体長
刀剣や刃物の長さの測り方は、普通に考えられているほど簡単ではない。
別記のように、銃刀法で定義された「刀剣類」には、刃渡15センチ以上の刀・剣・槍・薙刀のほか(長さの限定のつかない)「あいくち」と「飛び出しナイフ」がある。ここで言う「刃渡」は、槍を除く刀剣類の「刃長」と、槍の「穂長」との総称であり、それと和包丁の場合に通俗的に言われる「刃渡」とは少し違う。
また銃刀法では「刃体の長さが6センチを超える刃物を携帯してはならない」と言っていて、刀剣類とは区別された意味で「刃物」という言葉を使い、それについては「刃体の長さ」(刃体長)を定義しているが、この刃体長と上の刃渡とは違う。
さらに、同じ刃物でも「刃体と柄部の区別が明らかでない切り出し、日本カミソリ、握り鋏など」の刃物長の測り方は違う。著名なナイフ店の中にも、必ずしも以下のような定義で刃渡・刃長・刃体長を表示していないところもあるので、これは一応「私なりの理解」によるということにしておこう。
(1)刀剣類の「刃長」
日本刀を例にとると、切っ先から、「棟区」と言って、刀身となかごの境のところで峰(棟)側が一段下がるところがあって(刃側も同じく一段下がっていてそこは「刃区」と言う)、その角までの水平直線距離を測る。
(2)包丁の刃渡
和包丁では、「マチ」と言って、日本刀と同じように柄の直近で棟側と刃側に一段切れ込みが付いたものがあり、その場合は、日本刀と同じく切っ先から峰側のマチ(上マチ)までの水平直線距離を測る。マチがない場合は、「アゴ」と言って、刃側が柄元に向かって大きく直角に切れ込むその角のところまでを測る。
(3)刃物の「刃体の長さ」
切っ先から、柄部における切っ先に最も近い点までの水平直線距離を測る。シースナイフなら切っ先からヒルトまでということになる。フォールディングナイフはたいてい柄の先が丸みを帯びているから、その頂点から切っ先までである。
(4)刃体と柄部の区別が明らかでない刃物の「刃体の長さ」
切っ先から柄の尻までの全体の直線距離から「8センチを差し引く」。これは妙な定義だが、例えば刃の鋼材がそのまま伸びて握りに何も貼ったり巻いたりしていない共柄の切り出しナイフの場合、実際に刃が付いている長さが短くても、柄の端を握って刺したりすれば、もっと長い刃が付いた刃物と同じように殺傷力があるという考慮からこうなっているのだろう。従って、例えば、通俗的に言う刃渡が5.5センチの切り出しでも、全体の長さが17センチあれば、それから8センチを引いた9センチが「刃体の長さ」と見なされる。「6センチを超える刃物を携帯してはならない」との規制に引っかかることになり、自分では「5.5センチだと思っていた」と言い張っても無駄である。もちろんこれは法律的な定義だから、自分で使う分には「刃体長5.5センチの切り出し」ということで構わない。