新しい局面を迎えたインターネット・エコノミー

新年明けましておめでとうございます。

このコラムを1995年の9月に書き始めてから早や6回目の正月を迎えることになる。普通の暦でも5年以上というのは、かなり長い期間と言う気がするが、インターネットの世界では、その早さが普通の7倍とも言われるほどの早さで変化していくので、この5年という歳月は、隔世の感がある。この間、日本では一時「インターネットは胡散臭い」などと言われ、インターネットが疎まれていた時期もあったが、今は日本でも言葉に問題はあるものの(詳細については、1999年8月のレポートを参照いただきたい)、IT革命と称して、各企業とも本気でインターネット・エコノミーへの対応に努力している。

米国では、この間、一貫してインターネットによるe-革命が世の中を大きく変化させていったが、2000年はついにその揺り戻しがきた。インターネット・エコノミーが、大きな曲がり角に来たといえる。1999年11月のレポートにも90パーセント・クラブという題で書いたとおり、多くのインターネット関連株が急落し、豊富な資金をもとに、利益よりも売上の伸びに注力していたベンチャー企業が、それまでの経営方針ではやっていけなくなった。既に株式上場した企業も90パーセント・クラブというように株価が90パーセント以上下がったり、また、上場を目指していた企業は、既に上場済みの類似企業の評価が大きく下がったため、資本調達が急激に難しくなり、倒産やレイオフによる戦線縮小を余儀なくされた。ゲームのルールが一変したのである。

一旦上場した企業でも、株価が下がり過ぎると上場取り消しとなり、消えていく企業も少なくない。特にB-to-C(Business-to-Consumer)系企業は、市場規模に比べ、ベンチャー企業の乱立、そして、既存企業のe-ビジネスへの参入により、苦戦をしいられ、その上、資金的にも苦しくなったため、倒産などの憂き目にあっている。B-to-B(Business-to-Business)の世界でも、大きくもてはやされたe-マーケットプレース分野で、過当競争のために十分な参加企業が得られないものや、利益を出すビジネスモデルを持たないものが、市場からの退場を余儀なくされている。

このように過当競争に合い、経済の原則から考えても多くの企業が淘汰されていくべき状況にある市場で、それがいよいよ起こり始めたということである。これら企業のビジネスモデルは、しばらくは赤字経営を続け、売上がある程度上がった時点で黒字化し、それまでの間はベンチャー・キャピタル等による出資や、株式上場による資金調達を前提としているため、この構図が崩れたとき、会社の崩壊は一気に加速する。このため、通常の経済では時間のかかる過当競争による企業の選別が急激に進んでいる。

このことは、退場していく企業にとっては大変厳しい状況であるが、逆に、この市場による淘汰の大波に耐え、これからも存続する企業にとっては、願ってもないこととも言える。もしこの淘汰のステップに長い時間がかかるとすると、その間、どの企業も利益を出すことは難しく、長い間、赤字覚悟の持久戦を強いられる。しかし、これが一気に起こると、その期間が比較的短く、早い段階で、市場に残る企業が限定され、そこに残った企業は、比較的早く利益が出せる市場構造になるからである。

このような過当競争状況は、市場がどんどん縮小していく場合と、逆に市場が急拡大していく場合に起こる。前者の場合、その市場に存在する既存企業すべてが利益を出せない状況になり、1社また1社と市場から退場していく。このような場合でも、最後に残った企業は、市場が全くなくなるというようなことがない限り、最後はある程度の利益を得ることができる。

しかし、今回の場合は、明らかにそのような市場縮小による過当競争ではない。その逆で、市場が急激に伸びており、その期待が非常に大きいため、市場への参入企業が多過ぎたために起こったものである。そういう意味で、この修羅場を勝ち抜いた企業には、将来大きな報酬が待ちうけているといえる。

この状況を起してしまった責任は、ドットコム企業なら何でもいいというような、ベンチャー・キャピタル等の姿勢にも一因がある。そもそもベンチャーキャピタル等が、従来のように厳しい目で、資金調達しようとしているベンチャー企業を見つめ、ドットコム企業への投資をもう少し制限していれば、このような事態は起こらなかったといえる。

ベンチャーキャピタルが判断を誤ってしまうほど、インターネット・エコノミーの将来性が凄いものであると見られたのか、あるいは、そのような状況を承知で、株式市場での上場益確保のためにベンチャーキャピタルが走ってしまったのか不明であるが、ベンチャー・キャピタルの動きがこのようなベンチャー企業への過剰投資を生み、今日の状況を作り出している大きな原因であることは、間違いない。

このように、2000年を振りかえって見ると、いままでのインターネット関連株への投資が過剰であり、インターネット株バブルを起していたことは、間違いない。しかし、インターネット株バブルの崩壊は、いままで行き過ぎていたインターネット関連企業への過剰期待の振り子を、大きく反対に振る結果となっている。その結果、今度は逆に振り子が反対側に行き過ぎてしまい、インターネット関連株に対する評価が低くなり過ぎている感もある。特に、既に利益を出していたり、あるいは、ある分野で確固たる地位を固めているような企業では、これから振り子が、またもとに戻ってきた場合、株価的にも安定してくると思われる。

さて、2001年はインターネット・エコノミーにとって、どのような年になるであろうか。2000年の春に始まった、市場による過当競争から淘汰されるベンチャー企業はまだまだ増えるであろう。また、生き残りのためのベンチャー企業同志の合併、既存企業によるベンチャー企業の買収なども続くであろう。しかし、インターネット・エコノミーがもたらすe-革命は、とどまるどころか、これからもどんどん世の中を変えていくことは間違いない。ベンチャー企業で成功して残る企業はそれほど多くないかもしれないが、既存企業にとってのe-改革は、その企業の将来にとって、大きな意味がある。このことは、インターネット株バブルの崩壊とは、何ら関係なく、進んでいくものである。

ベンチャー企業淘汰の嵐も、急激に進んでいるため、意外と早く収まるかもしれない。ただし、これは小規模に終わるという話ではなく、時間的に早く終わるということだが。このようになれば、米国でよく言う「砂塵が収まった」状態に早くたどり着き、社会全体のe-改革が、もっと健全な形で進んでいくことになるだろう。2001年の比較的早い時期に、米国では、このように落ち着いた状況になってくるかもしれない。e-革命の動きが米国より数年遅れている日本は、この米国の大きな流れに学び、よりよい形でのe-革命が進行することを期待したい。

(01-1-1)


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